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第30話 選び合った未来
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第30話 選び合った未来
王都に、その知らせが届いたのは、思いのほか早かった。
「――ノルディス公爵、
アウレリア・ローゼンベルク嬢と正式に婚約を発表」
その一文は、社交界を静かに、しかし確実に揺らした。
白い婚約ではない。
形式上の関係でもない。
正式な、互いの意思による婚約。
王宮は即座に対応を迫られた。
これ以上、口を出せば、
「王家が個人の選択を妨げる」という批判を招く。
国王は、短く結論を出した。
「……承認する」
それ以上の言葉はなかった。
そして――
王太子アレクシオンは、その場にいなかった。
彼はすでに、
政治的にも、社交的にも、
中心から外された存在になっていた。
かつて、
「完璧すぎて可愛げがない」と言い放ち、
婚約を破棄した相手が。
今や、
公爵家の正式な婚約者として、
堂々と名を連ねている。
(……完全に、負けたな)
誰にも言えない独白を、
彼は胸の奥に押し込めるしかなかった。
◆
ノルディス公爵領では、
婚約発表の日も、特別な喧騒はなかった。
派手な祝宴も、
過剰な演出もない。
ただ、必要な人々に、
必要な形で、伝えられただけだ。
「……おめでとうございます、アウレリア様」
「公爵様、本当に……」
使用人や管理官たちは、
皆、どこか誇らしげだった。
それは、
彼女が“選ばれたから”ではない。
彼女が、ここで積み上げてきたものを、
皆が知っているからだった。
「……ありがとうございます」
アウレリア・ローゼンベルクは、
穏やかに微笑む。
その表情には、
かつて王宮で見せていた緊張はない。
役割に縛られた仮面もない。
ただ、
自分で選び、選ばれた人の顔だった。
夕刻。
執務を終えた後、
二人は庭を歩いていた。
最初に並んで歩いた夜と、
同じ場所。
けれど、
空気はまるで違っている。
「……改めて、言っておく」
カルディア・ノルディスが、静かに口を開く。
「私は、
君を“守るために選んだ”のではない」
アウレリアは、立ち止まり、彼を見る。
「君が、
ここで立ち、考え、決断する姿を見て――」
一拍、置いて。
「……共に歩きたいと思った」
それは、
公爵としてではなく、
一人の男としての言葉だった。
「私は……」
アウレリアも、はっきりと答える。
「あなたの隣で、
役割ではなく、
私自身として在りたい」
その言葉に、
カルディアは、ほんのわずかに微笑んだ。
「……それでいい」
互いに、
相手を所有しない。
だが、
並ぶことを選んだ。
それが、
この婚約の本質だった。
◆
数日後。
王宮では、
かつてアウレリアを軽んじた者たちが、
静かに評価を落としていた。
「……見る目がなかったな」
「ローゼンベルク嬢を失ったのは、
王家にとっても損失だった」
だが、
その声は、もう彼女には届かない。
ざまぁは、
派手な復讐ではなかった。
“選ばれなかった現実”そのものが、
何よりの結果だった。
◆
夜。
ノルディス公爵邸の一室で、
アウレリアは窓辺に立っていた。
そこへ、カルディアが静かに近づく。
「……明日からも、忙しくなるな」
「ええ」
彼女は、微笑む。
「ですが……不思議ですわ」
「何がだ」
「忙しくても、
もう、息が詰まらない」
カルディアは、少し考え、答えた。
「……それは、
一人で背負わなくていいからだ」
アウレリアは、静かに頷いた。
王宮で失ったもの。
ここで得たもの。
すべてを経て、
彼女は、ようやく知った。
愛とは、
縛ることではなく、
選び続けることなのだと。
白い婚約は、
終わった。
だがそれは、
何かを失った終わりではない。
本当の始まりだった。
選ばれ、
そして選び返した未来。
その歩みは、
これからも続いていく。
――静かに、確かに。
王都に、その知らせが届いたのは、思いのほか早かった。
「――ノルディス公爵、
アウレリア・ローゼンベルク嬢と正式に婚約を発表」
その一文は、社交界を静かに、しかし確実に揺らした。
白い婚約ではない。
形式上の関係でもない。
正式な、互いの意思による婚約。
王宮は即座に対応を迫られた。
これ以上、口を出せば、
「王家が個人の選択を妨げる」という批判を招く。
国王は、短く結論を出した。
「……承認する」
それ以上の言葉はなかった。
そして――
王太子アレクシオンは、その場にいなかった。
彼はすでに、
政治的にも、社交的にも、
中心から外された存在になっていた。
かつて、
「完璧すぎて可愛げがない」と言い放ち、
婚約を破棄した相手が。
今や、
公爵家の正式な婚約者として、
堂々と名を連ねている。
(……完全に、負けたな)
誰にも言えない独白を、
彼は胸の奥に押し込めるしかなかった。
◆
ノルディス公爵領では、
婚約発表の日も、特別な喧騒はなかった。
派手な祝宴も、
過剰な演出もない。
ただ、必要な人々に、
必要な形で、伝えられただけだ。
「……おめでとうございます、アウレリア様」
「公爵様、本当に……」
使用人や管理官たちは、
皆、どこか誇らしげだった。
それは、
彼女が“選ばれたから”ではない。
彼女が、ここで積み上げてきたものを、
皆が知っているからだった。
「……ありがとうございます」
アウレリア・ローゼンベルクは、
穏やかに微笑む。
その表情には、
かつて王宮で見せていた緊張はない。
役割に縛られた仮面もない。
ただ、
自分で選び、選ばれた人の顔だった。
夕刻。
執務を終えた後、
二人は庭を歩いていた。
最初に並んで歩いた夜と、
同じ場所。
けれど、
空気はまるで違っている。
「……改めて、言っておく」
カルディア・ノルディスが、静かに口を開く。
「私は、
君を“守るために選んだ”のではない」
アウレリアは、立ち止まり、彼を見る。
「君が、
ここで立ち、考え、決断する姿を見て――」
一拍、置いて。
「……共に歩きたいと思った」
それは、
公爵としてではなく、
一人の男としての言葉だった。
「私は……」
アウレリアも、はっきりと答える。
「あなたの隣で、
役割ではなく、
私自身として在りたい」
その言葉に、
カルディアは、ほんのわずかに微笑んだ。
「……それでいい」
互いに、
相手を所有しない。
だが、
並ぶことを選んだ。
それが、
この婚約の本質だった。
◆
数日後。
王宮では、
かつてアウレリアを軽んじた者たちが、
静かに評価を落としていた。
「……見る目がなかったな」
「ローゼンベルク嬢を失ったのは、
王家にとっても損失だった」
だが、
その声は、もう彼女には届かない。
ざまぁは、
派手な復讐ではなかった。
“選ばれなかった現実”そのものが、
何よりの結果だった。
◆
夜。
ノルディス公爵邸の一室で、
アウレリアは窓辺に立っていた。
そこへ、カルディアが静かに近づく。
「……明日からも、忙しくなるな」
「ええ」
彼女は、微笑む。
「ですが……不思議ですわ」
「何がだ」
「忙しくても、
もう、息が詰まらない」
カルディアは、少し考え、答えた。
「……それは、
一人で背負わなくていいからだ」
アウレリアは、静かに頷いた。
王宮で失ったもの。
ここで得たもの。
すべてを経て、
彼女は、ようやく知った。
愛とは、
縛ることではなく、
選び続けることなのだと。
白い婚約は、
終わった。
だがそれは、
何かを失った終わりではない。
本当の始まりだった。
選ばれ、
そして選び返した未来。
その歩みは、
これからも続いていく。
――静かに、確かに。
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