婚約破棄と暗殺で死んだはずの公爵令嬢ですが、前に出ずに全てを崩壊させます

鷹 綾

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第18話 実行者の証言

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第18話 実行者の証言

 法廷の扉が閉じられると、重い沈黙が落ちた。

 フォールス・アキュゼーションは証人席を離れ、用意された控室へと導かれた。拍手も、罵声もない。ただ、張りつめた空気だけが残っている。彼女の証言は、感情を揺さぶる類のものではなかったが、構造そのものを露わにしてしまった。その事実が、場にいた全員に重くのしかかっていた。

 控室の扉が閉まると、ディヴァイン・プロテクションがすぐに現れた。

「無事だな」

「はい」

 短い応答で十分だった。

「次は、キラだ」

 その名が告げられた瞬間、フォールスの胸に、わずかな緊張が走る。自分の死を報告した男。だが、今やその“死”こそが、王太子を縛る鎖になっている。

「彼は……」

「準備は整っている」

 ディヴァインは、余計な説明を省いた。

 しばらくして、法廷側からの合図が届く。次の証言は、公開形式ではあるが、証人の安全を理由に、隔離された証言室から行われることになっていた。

 法廷の中央に、水晶板が設置される。魔術映像を投影するための装置だ。ざわめきが起きるが、裁判長の一声で静まる。

「次の証人を呼びます」

 その声は、明確だった。

「暗殺未遂事件の実行者。名を名乗りなさい」

 水晶板の向こうに、男の姿が映し出される。

 黒い外套は外され、簡素な服装。拘束具はないが、周囲には警護が見える。表情は硬いが、怯えはない。

「……キラ」

 それだけを名乗った。

 法廷が、ざわつく。

「職業は」

「請負」

 短い答えだった。

「今回の件において、あなたは何を請け負った」

「フォールス・アキュゼーションの殺害」

 その一言で、空気が凍りつく。

 裁判長は、感情を交えず問いを続けた。

「誰から依頼を受けた」

「直接の依頼主は、王城内務局の名義人」

「名を」

「命令書に記された名は、仮名だ」

 キラは、一拍置いて続ける。

「だが、伝達経路は一つしかない。最終承認は、王太子フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロード」

 どよめきが走る。

 裁判長が木槌を打つ。

「静粛に」

 キラは、淡々と語り続けた。

「追放後、移送中の馬車を襲撃する指示だった。表向きは事故。抵抗があれば処理せよ、という内容だ」

「処理、とは」

「殺害」

 言い換えはしない。

「あなたは、その命令に従ったのですか」

「いいえ」

 即答だった。

「なぜ」

「依頼内容が、事後処理を前提としていたからだ」

 裁判長が、眉をひそめる。

「どういう意味ですか」

「死体の確認を急ぐよう、強く指示された。通常はあり得ない」

 キラは、淡々と説明する。

「証拠を残さず消すのが、仕事だ。だが今回は、“死んだと報告すること”自体が目的だった」

 法廷が、再びざわめく。

「つまり」

 裁判長が言葉をまとめる。

「生死の確認が、隠蔽のために必要だった、と?」

「そうだ」

 キラは、はっきりと答えた。

「だから、殺さなかった」

 その言葉に、法廷の空気が揺れる。

「フォールス・アキュゼーションを生かした理由は」

「依頼が汚れていた」

 それだけだった。

「殺す価値がなかった」

 感情はない。ただの判断だ。

「あなたは、死亡報告を行ったのですね」

「行った」

「虚偽の報告ですか」

「そうだ」

 裁判長は、少し間を置いて問いかける。

「なぜ、今それを明かす」

「取引だ」

 キラは、視線を上げる。

「過去の罪を問わない条件で、すべてを話す」

 法廷の空気が、完全に変わった。

 裁判長は、王弟エクイティ・フェアネス・ロイヤル・ロードの方へ視線を向ける。王弟は、静かに頷いた。

「条件は成立しています」

 その一言で、取引は公に認められた。

「最後に確認します」

 裁判長が、キラを見据える。

「あなたは、誰の命令で、誰を殺したことにしたのですか」

 キラは、一瞬も迷わなかった。

「王太子フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロードの命令で、フォールス・アキュゼーションを殺したことにした」

 その言葉は、法廷に重く落ちた。

 水晶板の映像が消える。

 沈黙が続いた後、裁判長は深く息を吸った。

「……以上をもって、証言は終了とします」

 木槌が打たれる。

 それは、一区切りを告げる音だった。

 控室で待っていたフォールスは、遠くからその音を聞いた。

 実行者が語った。
 命令系統が、明確になった。

 もはや、言い逃れはできない。

 因果は、すべて表に出た。

 フォールス・アキュゼーションは、静かに目を閉じる。

 これは復讐ではない。
 感情の発露でもない。

 ただ、逃げ場を塞いだだけだ。

 次に裁かれるのは、
 命じた者自身。

 その時が、確実に近づいていることを、
 彼女ははっきりと感じていた。
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