婚約破棄と暗殺で死んだはずの公爵令嬢ですが、前に出ずに全てを崩壊させます

鷹 綾

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第20話 利益の所在

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第20話 利益の所在

 法廷の空気は、もはや張りつめているという表現では足りなかった。

 王太子フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロードの弁明は、自らの立場を守るためのものだったはずだ。しかし、その言葉は、結果として自分が判断の中心にいたことを示してしまった。

 裁判長は、しばし黙考した後、ゆっくりと口を開く。

「次に審理するのは、動機と利益です」

 その宣告に、フレイムの指先がわずかに動いた。

「確認します」

 裁判長の声は淡々としている。

「当該決算書において発生していた欠損金は、どこへ消えましたか」

 専門官が立ち上がり、用意された資料を示す。

「欠損分は、表向きには事業損失として処理されています」

「表向き、とは」

「実際には、別名義の事業体に資金が移されています」

 法廷がざわつく。

 裁判長は、資料に目を落としながら続けた。

「その事業体の管理者は」

 専門官は、一拍置いて答えた。

「王太子殿下の直轄管理下にあります」

 その瞬間、空気が凍りついた。

 フレイムは、即座に反論する。

「それは誤解だ。王太子として、複数の事業を統括しているだけだ」

「統括と利益享受は、別です」

 裁判長は、冷静に切り返す。

「では、次の点を確認します」

 視線を上げ、フレイムを見据える。

「その事業体から、あなた個人の裁量で使用できる資金が、増えていませんか」

 沈黙。

 フレイムの喉が、わずかに鳴った。

「……国家事業だ」

 苦し紛れの言葉だった。

「王国のために使われる」

「では、なぜ帳簿を改変する必要があったのですか」

 裁判長の問いは、核心を突いていた。

「正規の手続きを踏めば、問題なかったはずです」

 フレイムは、答えられなかった。

 その沈黙が、何よりの答えだった。

 裁判長は、さらに追い打ちをかける。

「フォールス・アキュゼーションが指摘した不備は、正規の監査が入れば即座に露見するものでした」

「……」

「だからこそ、責任を彼女一人に押し付け、追放した」

 言葉は、断定だった。

 法廷の一角から、低いざわめきが広がる。

「さらに」

 裁判長は続ける。

「生存を許せば、いずれ真実が語られる。だから、暗殺を指示した」

 フレイムは、歯を食いしばった。

「違う……」

 その声は、小さい。

「私は……王国を守ろうとしただけだ」

 裁判長は、ゆっくりと首を振った。

「王国ではありません」

 静かな否定。

「あなた自身の立場です」

 その一言で、すべてが崩れた。

 裁判長は、木槌を打つ。

「本件において、帳簿偽造は王太子殿下の管理下で行われ、その結果生じた利益は、殿下の裁量下にあったと判断します」

 法廷は、完全な沈黙に包まれた。

「よって」

 裁判長は、宣告する。

「本件は、単なる実務上の過失ではなく、意図的な隠蔽と権限乱用によるものと認定されます」

 フレイムの顔から、血の気が引いた。

 もはや、弁明の余地はない。

 控室で知らせを聞いたフォールス・アキュゼーションは、静かに目を閉じた。

 利益は、どこへ流れたのか。
 誰が、得をしたのか。

 その問いに、答えが出た。

 因果応報という言葉は、感情的すぎる。
 これは、ただの精算だ。

 奪ったものを、
 元の位置に戻す。

 その過程で、
 奪った者が責任を負う。

 それだけの話だ。

 フォールスは、深く息を吸い、吐いた。

 裁きは、もう後戻りしないところまで来ている。

 次に問われるのは、
 罪の重さと、その処遇。

 そして――
 彼女自身の行き先もまた、
 この裁判の結末とともに、定まることになる。
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