婚約破棄と暗殺で死んだはずの公爵令嬢ですが、前に出ずに全てを崩壊させます

鷹 綾

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第21話 裁きの重さ

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第21話 裁きの重さ

 法廷は、異様な静けさに包まれていた。

 すでに事実関係はすべて出揃っている。帳簿偽造、責任転嫁、追放、暗殺依頼。動機と利益の所在も明らかになった。もはや議論の余地はなく、残されているのは一つだけだ。

 ――どのように裁くか。

 裁判長は、重く息を吸い、視線を法廷全体に巡らせた。

「これより、量刑について審理を行います」

 その宣言に、貴族席がわずかにざわめく。

 量刑。
 それは、王太子という身分を考えれば、本来あり得ない言葉だ。

 フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロードは、微動だにせず前を見据えていた。だが、その瞳の奥にあった自信は、すでに消えている。

「王太子殿下」

 裁判長の声は、淡々としている。

「あなたは、王国の財を私的に流用し、発覚を防ぐために実務者へ罪を被せ、さらに口封じとして暗殺を指示しました」

 一つ一つ、ゆっくりと積み上げるように言葉を重ねる。

「これらは、国家に対する背信行為です」

 その言葉に、重みがあった。

 フレイムは、わずかに唇を噛みしめる。

「弁護側、何か意見はありますか」

 名ばかりの弁護官が立ち上がったが、その表情は硬い。

「……王太子殿下は、若さゆえの過ちを犯したに過ぎません。王国への功績も考慮されるべきかと」

 その言葉に、法廷の空気が冷える。

 裁判長は、首を横に振った。

「若さは、免罪符ではありません」

 静かな否定だった。

「権限が大きければ大きいほど、その責任も重い」

 弁護官は、それ以上何も言えず、席に戻った。

 裁判長は、ゆっくりとフレイムに向き直る。

「王太子フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロード。あなたに、最後に述べたいことはありますか」

 法廷中の視線が集まる。

 フレイムは、しばらく沈黙していた。

 そして、低い声で口を開く。

「……私は、王国のために必要なことをした」

 繰り返された言葉。

「混乱を防ぎ、秩序を守るために、切り捨てる判断をしただけだ」

 裁判長は、即座に返した。

「その秩序とは、あなた自身の地位でしょう」

 フレイムの言葉が、詰まる。

「あなたは、王国の名を借りて、自分を守った」

 その指摘に、反論はなかった。

 裁判長は、木槌を手に取る。

「以上を踏まえ、本裁判所は次のように判断します」

 法廷の空気が、一層張りつめる。

「王太子フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロードは、王位継承権を即時剥奪」

 どよめきが走る。

 それは、死刑に等しい宣告だった。

「さらに、全ての官職を解任し、王都近郊への永久幽閉を命じます」

 法廷は、完全な沈黙に包まれる。

 フレイムの顔から、表情が消えた。

 裁判長は、続ける。

「なお、本件により不当に追放されたフォールス・アキュゼーションについては――」

 その名が呼ばれた瞬間、フォールスの胸がわずかに高鳴る。

「追放処分を撤回し、名誉を回復します」

 静かな声だったが、確かな宣告だった。

 フォールスは、ゆっくりと目を閉じた。

 戻る場所は、いらない。
 だが、奪われた名が正された。

 それだけで、十分だった。

「本裁判は、これをもって閉廷とします」

 木槌が打たれる。

 その音は、終わりを告げると同時に、新たな始まりをも告げていた。

 法廷を後にする人々の中で、フォールス・アキュゼーションは静かに立ち上がった。

 因果は、巡った。
 だが、彼女の中に、復讐の高揚はなかった。

 あるのは、ただ一つ。

 ――これで、ようやく前に進める。

 その確信だけだった。

 そして、彼女自身の行き先は、
 これから、静かに選び取られていくことになる。
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