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第十七話 公爵家の静かな反撃
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第十七話 公爵家の静かな反撃
王都の喧騒から少し離れた場所にある、ルヴァリエ公爵邸。
重厚な扉の向こう、執務室ではアルドリック公爵が淡々と書類に目を通していた。
「北港の動きは?」
「予定通りでございます」
家令が答える。
「優遇措置停止に伴い、契約再算定。小規模商会は撤退、大手は様子見」
「南商会は」
「静観。ですが、王宮側の補填が続けば、王庫は逼迫いたします」
アルドリックは、ゆっくりとペンを置いた。
「我々は?」
「契約通りの対応のみでございます」
「よろしい」
それだけだ。
怒号も、報復宣言もない。
ただ、契約を守る。
それが最も強い反撃になると知っているから。
「王宮より再協議の打診は」
「まだ正式なものは」
「来る」
短く断言する。
「条件は」
「現状維持は認めぬ」
「当然でございます」
家令はわずかに口元を緩めた。
この静けさこそ、公爵家の本気だ。
一方、王宮。
「再協議の使者を出せ」
レオンハルトはついに命じた。
「条件は」
「現状復帰を前提に」
側近は慎重に言う。
「それでは、応じない可能性が高いかと」
「では何を差し出せと?」
苛立ちが滲む。
「公爵家に利がある提案を」
「……」
沈黙。
婚約という“利”は、もうない。
代わりに何を出す。
同じ頃、王都の商人街では噂が広がっていた。
「公爵家は一歩も引かないらしい」
「王太子殿下が折れるのでは?」
「愛を選んだ代償だな」
囁きは風のように広がる。
社交界でも同じだ。
「公爵家は冷静ね」
「感情で動かない家は強いわ」
「氷の令嬢は、やはりあの家の娘ね」
その名は出さない。
だが、皆が思い出している。
あの静かな視線。
あの一言。
清算。
王宮の応接室。
再協議の使者が、公爵邸から戻ってきた。
「結果は」
「公爵は、“提示を待つ”との一点張りでございます」
「提示?」
「清算内容の明確化を」
レオンハルトの拳が机に落ちる。
「具体的に何を望んでいる」
「現状の契約解除に伴う正式な精算金、ならびに今後の取引条件再設定」
当たり前の要求。
だが、それは王宮にとって重い。
「支払えない額ではないが」
「支払えば、王庫に余裕はなくなります」
痛みを伴う。
それが清算。
夜。
ミレイナは庭園を歩いていた。
灯りの中、噴水の水音だけが響く。
「わたくしは、幸せになりたかっただけなのに」
ぽつりと呟く。
愛を選んだ。
悪いことはしていない。
なのに、王宮の空気は日に日に重くなる。
そこへ、レオンハルトが現れた。
「こんなところにいたのか」
「少し、考え事を」
「何を」
「もし、わたくしが身を引けば」
言い終わる前に、レオンハルトが遮る。
「ありえない」
「でも」
「選んだのは私だ」
強い声。
「戻らない」
その言葉は、自分自身への宣言でもあった。
だが、選択には代償がある。
公爵家は怒らない。
叫ばない。
ただ、契約通りに動く。
それが最も効くと知っているから。
王宮の歯車は、軋みながら回り続ける。
そして、公爵家は静かに、確実に、包囲を狭めていた。
四面楚歌。
それは、いま王宮の中心にある。
王都の喧騒から少し離れた場所にある、ルヴァリエ公爵邸。
重厚な扉の向こう、執務室ではアルドリック公爵が淡々と書類に目を通していた。
「北港の動きは?」
「予定通りでございます」
家令が答える。
「優遇措置停止に伴い、契約再算定。小規模商会は撤退、大手は様子見」
「南商会は」
「静観。ですが、王宮側の補填が続けば、王庫は逼迫いたします」
アルドリックは、ゆっくりとペンを置いた。
「我々は?」
「契約通りの対応のみでございます」
「よろしい」
それだけだ。
怒号も、報復宣言もない。
ただ、契約を守る。
それが最も強い反撃になると知っているから。
「王宮より再協議の打診は」
「まだ正式なものは」
「来る」
短く断言する。
「条件は」
「現状維持は認めぬ」
「当然でございます」
家令はわずかに口元を緩めた。
この静けさこそ、公爵家の本気だ。
一方、王宮。
「再協議の使者を出せ」
レオンハルトはついに命じた。
「条件は」
「現状復帰を前提に」
側近は慎重に言う。
「それでは、応じない可能性が高いかと」
「では何を差し出せと?」
苛立ちが滲む。
「公爵家に利がある提案を」
「……」
沈黙。
婚約という“利”は、もうない。
代わりに何を出す。
同じ頃、王都の商人街では噂が広がっていた。
「公爵家は一歩も引かないらしい」
「王太子殿下が折れるのでは?」
「愛を選んだ代償だな」
囁きは風のように広がる。
社交界でも同じだ。
「公爵家は冷静ね」
「感情で動かない家は強いわ」
「氷の令嬢は、やはりあの家の娘ね」
その名は出さない。
だが、皆が思い出している。
あの静かな視線。
あの一言。
清算。
王宮の応接室。
再協議の使者が、公爵邸から戻ってきた。
「結果は」
「公爵は、“提示を待つ”との一点張りでございます」
「提示?」
「清算内容の明確化を」
レオンハルトの拳が机に落ちる。
「具体的に何を望んでいる」
「現状の契約解除に伴う正式な精算金、ならびに今後の取引条件再設定」
当たり前の要求。
だが、それは王宮にとって重い。
「支払えない額ではないが」
「支払えば、王庫に余裕はなくなります」
痛みを伴う。
それが清算。
夜。
ミレイナは庭園を歩いていた。
灯りの中、噴水の水音だけが響く。
「わたくしは、幸せになりたかっただけなのに」
ぽつりと呟く。
愛を選んだ。
悪いことはしていない。
なのに、王宮の空気は日に日に重くなる。
そこへ、レオンハルトが現れた。
「こんなところにいたのか」
「少し、考え事を」
「何を」
「もし、わたくしが身を引けば」
言い終わる前に、レオンハルトが遮る。
「ありえない」
「でも」
「選んだのは私だ」
強い声。
「戻らない」
その言葉は、自分自身への宣言でもあった。
だが、選択には代償がある。
公爵家は怒らない。
叫ばない。
ただ、契約通りに動く。
それが最も効くと知っているから。
王宮の歯車は、軋みながら回り続ける。
そして、公爵家は静かに、確実に、包囲を狭めていた。
四面楚歌。
それは、いま王宮の中心にある。
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