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第二十二話 父の沈黙
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第二十二話 父の沈黙
再契約の締結から十日。
王都の表面は落ち着きを取り戻していた。
港は動き、商人は戻り、市場の値も安定している。
だが、王宮内部の空気は、どこか冷えたままだった。
その中心にいるのは、レオンハルトでもミレイナでもない。
国王であった。
「……これが最終報告か」
執務室で、国王はゆっくりと書類を閉じた。
王庫の逼迫。
再契約条件。
社交界の評価変動。
すべてが整理されている。
「はい、陛下」
財務官が頭を下げる。
「王太子殿下の判断により、事態は収束いたしました」
「収束、か」
低い声。
怒りではない。
失望でもない。
ただ、重い。
「王庫は半年間、余裕がないとのことだな」
「その通りでございます」
「軍備調整は」
「一部凍結を検討中でございます」
国王はしばし沈黙した。
婚約破棄は、王太子の私的な決断だった。
だが、その代償は王家全体に及んだ。
「レオンハルトを呼べ」
短く命じる。
ほどなくして、王太子が現れる。
「父上」
「座れ」
簡潔な言葉。
向かい合う。
静かな対峙。
「清算は済んだな」
「はい」
「港は回る」
「はい」
「王庫は削れた」
レオンハルトはわずかに目を伏せた。
「……責任は私にございます」
「責任は結果だ」
国王の声は淡々としている。
「お前は何を守った」
「愛を」
即答。
だが、その声はかすかに揺れる。
「国は」
「守っております」
「守れたのか」
その問いは鋭い。
レオンハルトは、すぐに答えられなかった。
「……港は戻りました」
「代償を払ってな」
沈黙。
国王は立ち上がり、窓の外を見た。
「王太子は、個人ではない」
「承知しております」
「ならば、次は誤るな」
それだけだ。
叱責も怒号もない。
だが、その沈黙こそが重い。
部屋を出たレオンハルトの背に、側近が声をかける。
「陛下は、お怒りで?」
「怒ってはいない」
だからこそ、厳しい。
一方、王宮の一室。
ミレイナは、国王が王太子を呼んだと聞き、胸を締めつけられていた。
「わたくしのせい……」
呟く。
選ばれたことが、ここまで波紋を広げるとは思っていなかった。
そこへ、侍女がそっと告げる。
「社交界で、陛下が動かれたと噂になっております」
「……そう」
王が沈黙すれば、貴族は動揺する。
王が動けば、さらに揺れる。
王宮の中心は、静かに軋んでいる。
公爵邸。
アルドリックは報告を受け、短く頷いた。
「国王が動いたか」
「はい」
「我々は」
「何も」
「それでよい」
余計な手は出さない。
火は自然に広がる。
王家内部の評価は、王家自身が処理すべきもの。
夜。
レオンハルトは一人、庭園に立っていた。
父の言葉が反芻される。
個人ではない。
守れたのか。
愛を選んだ。
だが、その選択は王太子として正しかったのか。
答えは、まだ出ない。
ただ一つ確かなのは。
四面楚歌は、外からの包囲ではない。
内側からの沈黙だ。
父の沈黙。
貴族の疑念。
民の視線。
それが、ゆっくりと迫っている。
清算は終わった。
だが、信任の審判は、これからだった。
再契約の締結から十日。
王都の表面は落ち着きを取り戻していた。
港は動き、商人は戻り、市場の値も安定している。
だが、王宮内部の空気は、どこか冷えたままだった。
その中心にいるのは、レオンハルトでもミレイナでもない。
国王であった。
「……これが最終報告か」
執務室で、国王はゆっくりと書類を閉じた。
王庫の逼迫。
再契約条件。
社交界の評価変動。
すべてが整理されている。
「はい、陛下」
財務官が頭を下げる。
「王太子殿下の判断により、事態は収束いたしました」
「収束、か」
低い声。
怒りではない。
失望でもない。
ただ、重い。
「王庫は半年間、余裕がないとのことだな」
「その通りでございます」
「軍備調整は」
「一部凍結を検討中でございます」
国王はしばし沈黙した。
婚約破棄は、王太子の私的な決断だった。
だが、その代償は王家全体に及んだ。
「レオンハルトを呼べ」
短く命じる。
ほどなくして、王太子が現れる。
「父上」
「座れ」
簡潔な言葉。
向かい合う。
静かな対峙。
「清算は済んだな」
「はい」
「港は回る」
「はい」
「王庫は削れた」
レオンハルトはわずかに目を伏せた。
「……責任は私にございます」
「責任は結果だ」
国王の声は淡々としている。
「お前は何を守った」
「愛を」
即答。
だが、その声はかすかに揺れる。
「国は」
「守っております」
「守れたのか」
その問いは鋭い。
レオンハルトは、すぐに答えられなかった。
「……港は戻りました」
「代償を払ってな」
沈黙。
国王は立ち上がり、窓の外を見た。
「王太子は、個人ではない」
「承知しております」
「ならば、次は誤るな」
それだけだ。
叱責も怒号もない。
だが、その沈黙こそが重い。
部屋を出たレオンハルトの背に、側近が声をかける。
「陛下は、お怒りで?」
「怒ってはいない」
だからこそ、厳しい。
一方、王宮の一室。
ミレイナは、国王が王太子を呼んだと聞き、胸を締めつけられていた。
「わたくしのせい……」
呟く。
選ばれたことが、ここまで波紋を広げるとは思っていなかった。
そこへ、侍女がそっと告げる。
「社交界で、陛下が動かれたと噂になっております」
「……そう」
王が沈黙すれば、貴族は動揺する。
王が動けば、さらに揺れる。
王宮の中心は、静かに軋んでいる。
公爵邸。
アルドリックは報告を受け、短く頷いた。
「国王が動いたか」
「はい」
「我々は」
「何も」
「それでよい」
余計な手は出さない。
火は自然に広がる。
王家内部の評価は、王家自身が処理すべきもの。
夜。
レオンハルトは一人、庭園に立っていた。
父の言葉が反芻される。
個人ではない。
守れたのか。
愛を選んだ。
だが、その選択は王太子として正しかったのか。
答えは、まだ出ない。
ただ一つ確かなのは。
四面楚歌は、外からの包囲ではない。
内側からの沈黙だ。
父の沈黙。
貴族の疑念。
民の視線。
それが、ゆっくりと迫っている。
清算は終わった。
だが、信任の審判は、これからだった。
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