『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾

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第40話 選ぶということ

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第40話 選ぶということ

 朝の光が、静かに部屋を満たしていた。

 シルフィーネは、窓辺に立ち、王都の街を見下ろす。
 いつもと変わらない景色。
 けれど、その中に立つ自分は、確かに変わっていた。

「……長い時間でしたね」

 幼い容姿を理由に否定され、
 婚約を破棄され、
 事故に遭い、
 目を覚ましたら“価値が変わった”と言われた。

 けれど、本当に変わったのは、
 外見ではない。



 机に向かい、シルフィーネは一通の手紙を取り出した。

 宛名は、ノルディア王城。
 差出人は、自分。

 もう、白紙ではない。

 ゆっくりと、読み返す。

> エドワルド殿下

私は、自国に戻り、静かな時間を過ごしました。
その中で、はっきりと分かったことがあります。

私は、
「誰かに選ばれる人生」ではなく、
「自分で選び続ける人生」を望んでいるのだと。



 一度、ペンを置き、深く息を吸う。

> ノルディアで過ごした時間は、
私にとって“答え”ではありませんでした。

けれど、
問いを持ったまま立っていい場所があると、
初めて教えてくれた場所でした。



 そして、最後の一文。

> だから私は、
あなたの隣に立つ可能性を、
私自身の意思で選びたいと思います。

それが恋であれ、
未来であれ、
あるいは、別の答えであれ――

私は、自分で決めます。



 署名をして、封をする。

 手は、震えていなかった。



 庭に出ると、春の風が頬を撫でた。

 使用人たちが、いつも通りに働いている。
 父と母の声が、遠くから聞こえる。

 ――帰る場所は、ここにある。

 そして、
 進む場所も、もう怖くはない。



「……私は、私を取り戻したのですね」

 誰に向けるでもなく、そう呟く。

 幼すぎると切り捨てられた少女。
 外見だけで評価されかけた令嬢。
 守られる存在として扱われた“被害者”。

 そのどれでもない。

 今ここに立っているのは、
 問いを持ち、選ぶことを恐れない一人の女性だ。



 手紙は、やがてノルディアへ届くだろう。
 返事が来るかどうかは、分からない。

 けれど、それでいい。

 未来は、
 誰かの返答で決まるものではない。

 自分が、どう立つかで決まる。

 シルフィーネは、空を見上げ、静かに微笑んだ。

 これは、
 ざまぁで終わる物語ではない。

 恋だけで完結する物語でもない。

 ――外見に振り回された公爵令嬢が、
 自分の人生を、自分の言葉で選び直す物語。

 その第一章は、
 今、ようやく終わったのだ。

 そして――
 選び続ける物語は、
 これから先も、静かに続いていく。
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