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第7話 冷徹公爵との初対面
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第7話 冷徹公爵との初対面
グラーツ公国の公爵城は、噂通りの建物だった。
無駄な装飾はなく、石造りの壁は質実剛健。
威圧感はあるが、どこか理にかなった造りをしている。
「……思ったより、質素ですね」
マリアが小声で呟く。
「ええ。見せるための城ではないわ」
私はそう答え、城門をくぐった。
今回の訪問は、正式な招待ではない。
あくまで「滞在の許可」と「今後の身の振り方」を相談するための、簡素な面会だ。
案内された執務室は、さらに簡潔だった。
書類棚、地図、実用的な机。
贅沢品は見当たらない。
「少し、お待ちください」
使用人がそう告げて下がる。
――静寂。
落ち着く空間だ、と私は思った。
やがて、扉が開く。
「……エリーカ・フォルティス伯爵令嬢だな」
低く、淡々とした声。
現れた男は、背が高く、無駄のない立ち姿をしていた。
冷静な眼差し。
感情の揺らぎを感じさせない表情。
――アンクレイブ・フォン・グラーツ。
噂に違わぬ、冷徹公爵。
「はい。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
私は一礼する。
「要件は」
挨拶も世間話も、ない。
(……噂以上ね)
だが、嫌いではなかった。
「グラーツ公国での滞在許可と、可能であれば仕事の斡旋をお願いしたく」
率直に告げると、彼は一瞬だけ眉を動かした。
「伯爵令嬢が、仕事を?」
「はい」
私はためらわず頷いた。
「身分に見合った保護だけを求めるつもりはありません。
必要とされるなら、能力で応えます」
沈黙。
重い空気が流れる。
だが、それは拒絶ではないと、私は感じていた。
「……能力とは」
「財務管理、契約交渉、領地運営の補佐。
王国では、主にその分野を担当しておりました」
簡潔に述べる。
アンクレイブは私をじっと見つめ、やがて机に置かれていた書類を一枚手に取った。
「これを見てくれ」
差し出されたのは、グラーツ公国の収支報告書。
未整理で、数字が雑多に並んでいる。
「問題点を三つ、挙げろ」
――試されている。
私は書類に目を落とし、数秒だけ考えた。
「税収の偏り。
北部領の物流コスト過多。
そして、短期的利益を優先しすぎた契約構造」
顔を上げる。
「このままでは、半年後に必ず歪みが出ます」
再び、沈黙。
アンクレイブの視線が、わずかに鋭くなった。
「……五秒で、そこまで読むか」
その言葉は、感嘆でも称賛でもない。
ただの、事実確認。
「可能なら、修正案も」
「出せます」
「今」
「承知しました」
私は迷わず、机に向かった。
ペンを走らせながら、ふと感じる。
(……この人は)
感情ではなく、結果で人を見る。
だからこそ――
数分後。
アンクレイブは、私の書いた内容に目を通し、静かに言った。
「……有用だ」
それだけ。
だが、その一言は、
王都で聞いたどんな賛辞よりも、重かった。
「エリーカ・フォルティス」
彼は私をまっすぐ見た。
「グラーツ公国での滞在を許可する。
――条件付きでな」
私は、背筋を正す。
「条件とは?」
「後日、改めて話す。
今日はここまでだ」
それが、
私と冷徹公爵――
アンクレイブ・フォン・グラーツの、最初の出会いだった。
そしてこの時点で、
彼はすでに私を「客」ではなく、
「使える人材」として見ていた。
――それで、十分だった。
---
グラーツ公国の公爵城は、噂通りの建物だった。
無駄な装飾はなく、石造りの壁は質実剛健。
威圧感はあるが、どこか理にかなった造りをしている。
「……思ったより、質素ですね」
マリアが小声で呟く。
「ええ。見せるための城ではないわ」
私はそう答え、城門をくぐった。
今回の訪問は、正式な招待ではない。
あくまで「滞在の許可」と「今後の身の振り方」を相談するための、簡素な面会だ。
案内された執務室は、さらに簡潔だった。
書類棚、地図、実用的な机。
贅沢品は見当たらない。
「少し、お待ちください」
使用人がそう告げて下がる。
――静寂。
落ち着く空間だ、と私は思った。
やがて、扉が開く。
「……エリーカ・フォルティス伯爵令嬢だな」
低く、淡々とした声。
現れた男は、背が高く、無駄のない立ち姿をしていた。
冷静な眼差し。
感情の揺らぎを感じさせない表情。
――アンクレイブ・フォン・グラーツ。
噂に違わぬ、冷徹公爵。
「はい。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
私は一礼する。
「要件は」
挨拶も世間話も、ない。
(……噂以上ね)
だが、嫌いではなかった。
「グラーツ公国での滞在許可と、可能であれば仕事の斡旋をお願いしたく」
率直に告げると、彼は一瞬だけ眉を動かした。
「伯爵令嬢が、仕事を?」
「はい」
私はためらわず頷いた。
「身分に見合った保護だけを求めるつもりはありません。
必要とされるなら、能力で応えます」
沈黙。
重い空気が流れる。
だが、それは拒絶ではないと、私は感じていた。
「……能力とは」
「財務管理、契約交渉、領地運営の補佐。
王国では、主にその分野を担当しておりました」
簡潔に述べる。
アンクレイブは私をじっと見つめ、やがて机に置かれていた書類を一枚手に取った。
「これを見てくれ」
差し出されたのは、グラーツ公国の収支報告書。
未整理で、数字が雑多に並んでいる。
「問題点を三つ、挙げろ」
――試されている。
私は書類に目を落とし、数秒だけ考えた。
「税収の偏り。
北部領の物流コスト過多。
そして、短期的利益を優先しすぎた契約構造」
顔を上げる。
「このままでは、半年後に必ず歪みが出ます」
再び、沈黙。
アンクレイブの視線が、わずかに鋭くなった。
「……五秒で、そこまで読むか」
その言葉は、感嘆でも称賛でもない。
ただの、事実確認。
「可能なら、修正案も」
「出せます」
「今」
「承知しました」
私は迷わず、机に向かった。
ペンを走らせながら、ふと感じる。
(……この人は)
感情ではなく、結果で人を見る。
だからこそ――
数分後。
アンクレイブは、私の書いた内容に目を通し、静かに言った。
「……有用だ」
それだけ。
だが、その一言は、
王都で聞いたどんな賛辞よりも、重かった。
「エリーカ・フォルティス」
彼は私をまっすぐ見た。
「グラーツ公国での滞在を許可する。
――条件付きでな」
私は、背筋を正す。
「条件とは?」
「後日、改めて話す。
今日はここまでだ」
それが、
私と冷徹公爵――
アンクレイブ・フォン・グラーツの、最初の出会いだった。
そしてこの時点で、
彼はすでに私を「客」ではなく、
「使える人材」として見ていた。
――それで、十分だった。
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