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第十四話 揺らぐ継承権
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第十四話 揺らぐ継承権
隣国の使節団が王都に滞在して三日。
空気は、さらに重くなっておりました。
「お嬢様、議会の一部で……」
クララが声を潜めます。
「“王太子継承権の再確認”を求める動きがあるようです」
あら。
とうとう、そこまで。
継承権の再確認。
言葉は穏やか。
けれど意味は鋭い。
王太子としての信任が揺らいでいる、ということ。
私は書簡を閉じました。
「正式な議題に上がりましたの?」
「いえ、まだ水面下でございます」
水面下ほど、厄介なものはございません。
王位とは、ただ血筋だけではない。
支持。
安定。
国益。
感情で揺らせば、理で揺り戻される。
その日の午後、王宮に呼ばれました。
議会前の、非公式の意見交換。
エーヴェルハルト殿下は、落ち着いておられました。
「継承権の話を聞いたか」
「ええ」
「私は、退くべきだろうか」
その問いは、驚くほど静かでした。
私は、即答いたしません。
「殿下は、退きたいのですか」
「……わからぬ」
正直なお答え。
「私は彼女を守りたい」
「ええ」
「だが王位が足枷になるのなら」
そこですのね。
「殿下」
私はゆっくりと申し上げました。
「王位は足枷ではございません」
「では何だ」
「秤でございます」
秤。
「恋と国益を量るための」
殿下は、目を伏せました。
「私は、国より彼女を優先した」
「はい」
「それでも、王太子でいられるのか」
私は静かに息を吸いました。
「王太子でいられるかどうかは、議会が決めます」
「……」
「ですが、王太子であり続ける覚悟は、殿下が決めるもの」
沈黙。
そのとき、扉が叩かれました。
入室を許され、現れたのは宰相。
「殿下、継承権に関する議題が正式に提出されました」
やはり。
「理由は」
「外交判断の独断と、王家財政への負担」
違約金。
同盟解消。
そして、隣国との再編。
殿下は立ち上がります。
「議会に出る」
「殿下――」
宰相が何か言いかけましたが、殿下は止めました。
「逃げぬ」
その姿勢は、初めて“王太子”らしく見えました。
議会は、厳しいものでした。
「王位を担う者が、感情で国策を変えてよいのか」
「同盟解消は拙速であったのではないか」
問いは、刃。
殿下は、正面から答えました。
「私は選んだ」
ざわめき。
「だが、選んだ以上、責任は負う」
言葉は震えておりませんでした。
「王位が必要であれば、私は留まる」
「不要であれば、退く」
潔い。
私は傍聴席で、ただ静かに見ておりました。
恋を選んだ王太子。
いま、王位を問われている。
議会は結論を先送りにしました。
審議継続。
けれど、流れは読めます。
支持は、わずかに戻り始めている。
夜。
殿下は中庭におられました。
「私は、退かなかった」
「ええ」
「逃げぬ、と言った」
「それでよろしゅうございます」
殿下は私を見ました。
「君がいれば、違ったか」
私は、ほんのわずかだけ微笑みました。
「違わなかったと思いますわ」
恋は止まらなかったでしょう。
選択は、同じ。
「ではなぜ、私は君を失ったと感じる」
その問いは、少しだけ遅い。
「殿下が選ばれたからでございます」
それだけ。
夜風が、静かに吹く。
王位は、まだ揺らいでいる。
けれど。
揺れながらも立つこと。
それが、継承者の資格。
私は、まもなくこの国を離れる。
橋として。
守ると言った人は。
いま、守るだけでなく、背負い始めた。
真実の愛は、まだ証明途中。
けれど。
真実の覚悟は、確かに形を成しつつあるのです。
隣国の使節団が王都に滞在して三日。
空気は、さらに重くなっておりました。
「お嬢様、議会の一部で……」
クララが声を潜めます。
「“王太子継承権の再確認”を求める動きがあるようです」
あら。
とうとう、そこまで。
継承権の再確認。
言葉は穏やか。
けれど意味は鋭い。
王太子としての信任が揺らいでいる、ということ。
私は書簡を閉じました。
「正式な議題に上がりましたの?」
「いえ、まだ水面下でございます」
水面下ほど、厄介なものはございません。
王位とは、ただ血筋だけではない。
支持。
安定。
国益。
感情で揺らせば、理で揺り戻される。
その日の午後、王宮に呼ばれました。
議会前の、非公式の意見交換。
エーヴェルハルト殿下は、落ち着いておられました。
「継承権の話を聞いたか」
「ええ」
「私は、退くべきだろうか」
その問いは、驚くほど静かでした。
私は、即答いたしません。
「殿下は、退きたいのですか」
「……わからぬ」
正直なお答え。
「私は彼女を守りたい」
「ええ」
「だが王位が足枷になるのなら」
そこですのね。
「殿下」
私はゆっくりと申し上げました。
「王位は足枷ではございません」
「では何だ」
「秤でございます」
秤。
「恋と国益を量るための」
殿下は、目を伏せました。
「私は、国より彼女を優先した」
「はい」
「それでも、王太子でいられるのか」
私は静かに息を吸いました。
「王太子でいられるかどうかは、議会が決めます」
「……」
「ですが、王太子であり続ける覚悟は、殿下が決めるもの」
沈黙。
そのとき、扉が叩かれました。
入室を許され、現れたのは宰相。
「殿下、継承権に関する議題が正式に提出されました」
やはり。
「理由は」
「外交判断の独断と、王家財政への負担」
違約金。
同盟解消。
そして、隣国との再編。
殿下は立ち上がります。
「議会に出る」
「殿下――」
宰相が何か言いかけましたが、殿下は止めました。
「逃げぬ」
その姿勢は、初めて“王太子”らしく見えました。
議会は、厳しいものでした。
「王位を担う者が、感情で国策を変えてよいのか」
「同盟解消は拙速であったのではないか」
問いは、刃。
殿下は、正面から答えました。
「私は選んだ」
ざわめき。
「だが、選んだ以上、責任は負う」
言葉は震えておりませんでした。
「王位が必要であれば、私は留まる」
「不要であれば、退く」
潔い。
私は傍聴席で、ただ静かに見ておりました。
恋を選んだ王太子。
いま、王位を問われている。
議会は結論を先送りにしました。
審議継続。
けれど、流れは読めます。
支持は、わずかに戻り始めている。
夜。
殿下は中庭におられました。
「私は、退かなかった」
「ええ」
「逃げぬ、と言った」
「それでよろしゅうございます」
殿下は私を見ました。
「君がいれば、違ったか」
私は、ほんのわずかだけ微笑みました。
「違わなかったと思いますわ」
恋は止まらなかったでしょう。
選択は、同じ。
「ではなぜ、私は君を失ったと感じる」
その問いは、少しだけ遅い。
「殿下が選ばれたからでございます」
それだけ。
夜風が、静かに吹く。
王位は、まだ揺らいでいる。
けれど。
揺れながらも立つこと。
それが、継承者の資格。
私は、まもなくこの国を離れる。
橋として。
守ると言った人は。
いま、守るだけでなく、背負い始めた。
真実の愛は、まだ証明途中。
けれど。
真実の覚悟は、確かに形を成しつつあるのです。
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