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第十八話 ヴァルディアの王
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第十八話 ヴァルディアの王
国境を越えた瞬間、空気が変わりました。
風が違う。
道の整備も、城壁の色も、兵の立ち姿も。
ああ、ここはもう“あちら側”。
ヴァルディア王都は、派手ではございません。
豪奢さよりも、均整。
見せびらかす富ではなく、管理された富。
「お嬢様、歓迎の準備が整っております」
クララの声も、どこか緊張を帯びている。
城門前で待っていたのは、騎士団の整然とした列。
そして、その中央。
ヴァルディア王――アルノルト陛下。
想像していたよりも若い。
だが目が違う。
笑っているのに、何も取りこぼさない視線。
「ようこそ、アーデルハイト公爵令嬢」
声は低く、静か。
威圧ではなく、安定。
「お迎えいただき、光栄に存じます」
形式は整っている。
けれど。
互いに探っているのは明らか。
城内の謁見の間は、華やかではあるが無駄がない。
装飾は控えめ。
座席の配置は合理的。
「基金の件、感謝する」
陛下は率直だった。
「違約金を投じたと聞いた」
「投じたのではございません。活かしたまででございます」
陛下の口元が、わずかに上がる。
「王太子は感情で動いた」
「ええ」
「あなたは利で動いた」
私は首を傾げました。
「利は、感情を守るためにございます」
沈黙。
陛下は玉座に浅く腰かけたまま、私を見据える。
「あなたは橋だと聞いた」
あら、もうそこまで。
「橋は、両側が支えなければ崩れます」
「では、私に何を求める」
率直。
「安定でございます」
王国とヴァルディアの均衡。
交易の安定。
無用な敵対の回避。
「恋は不要か」
その問いに、私は一瞬だけ微笑みました。
「ロマンスは小説だけで充分でございます」
陛下は、はっきりと笑った。
「三文芝居は好まぬか」
「願い下げでございます」
空気が、わずかに和らぐ。
晩餐は簡素であったが、精緻。
料理は過剰でなく、質で勝負。
酒も同様。
陛下は隣に座り、低い声で言う。
「あなたは、私を愛せるか」
直球。
「愛は、育つものでございます」
与えられるものではない。
「では、育てよう」
それは宣言ではなく、合意のようだった。
夜。
客室の窓から、ヴァルディアの灯りを見下ろす。
王都とは違う。
ざわめきが少ない。
整然としている。
クララがそっと言った。
「お嬢様、怖くはございませんか」
私は、少しだけ考えた。
「怖くはないわ」
感情に振り回される国ではない。
理で動く国。
王太子エーヴェルハルトは、恋と王位を同時に抱えた。
アルノルト王は、最初から王位を抱えている。
違いは大きい。
だが。
ここでも私は橋。
王国の過去と。
ヴァルディアの未来を繋ぐ。
真実の愛があるかどうかは、まだわからない。
けれど。
真実の覚悟は、ここにもある。
婚約式は、三日後。
物語は、新しい舞台へ。
そして。
橋は、もう片側にも足を置いたのです。
国境を越えた瞬間、空気が変わりました。
風が違う。
道の整備も、城壁の色も、兵の立ち姿も。
ああ、ここはもう“あちら側”。
ヴァルディア王都は、派手ではございません。
豪奢さよりも、均整。
見せびらかす富ではなく、管理された富。
「お嬢様、歓迎の準備が整っております」
クララの声も、どこか緊張を帯びている。
城門前で待っていたのは、騎士団の整然とした列。
そして、その中央。
ヴァルディア王――アルノルト陛下。
想像していたよりも若い。
だが目が違う。
笑っているのに、何も取りこぼさない視線。
「ようこそ、アーデルハイト公爵令嬢」
声は低く、静か。
威圧ではなく、安定。
「お迎えいただき、光栄に存じます」
形式は整っている。
けれど。
互いに探っているのは明らか。
城内の謁見の間は、華やかではあるが無駄がない。
装飾は控えめ。
座席の配置は合理的。
「基金の件、感謝する」
陛下は率直だった。
「違約金を投じたと聞いた」
「投じたのではございません。活かしたまででございます」
陛下の口元が、わずかに上がる。
「王太子は感情で動いた」
「ええ」
「あなたは利で動いた」
私は首を傾げました。
「利は、感情を守るためにございます」
沈黙。
陛下は玉座に浅く腰かけたまま、私を見据える。
「あなたは橋だと聞いた」
あら、もうそこまで。
「橋は、両側が支えなければ崩れます」
「では、私に何を求める」
率直。
「安定でございます」
王国とヴァルディアの均衡。
交易の安定。
無用な敵対の回避。
「恋は不要か」
その問いに、私は一瞬だけ微笑みました。
「ロマンスは小説だけで充分でございます」
陛下は、はっきりと笑った。
「三文芝居は好まぬか」
「願い下げでございます」
空気が、わずかに和らぐ。
晩餐は簡素であったが、精緻。
料理は過剰でなく、質で勝負。
酒も同様。
陛下は隣に座り、低い声で言う。
「あなたは、私を愛せるか」
直球。
「愛は、育つものでございます」
与えられるものではない。
「では、育てよう」
それは宣言ではなく、合意のようだった。
夜。
客室の窓から、ヴァルディアの灯りを見下ろす。
王都とは違う。
ざわめきが少ない。
整然としている。
クララがそっと言った。
「お嬢様、怖くはございませんか」
私は、少しだけ考えた。
「怖くはないわ」
感情に振り回される国ではない。
理で動く国。
王太子エーヴェルハルトは、恋と王位を同時に抱えた。
アルノルト王は、最初から王位を抱えている。
違いは大きい。
だが。
ここでも私は橋。
王国の過去と。
ヴァルディアの未来を繋ぐ。
真実の愛があるかどうかは、まだわからない。
けれど。
真実の覚悟は、ここにもある。
婚約式は、三日後。
物語は、新しい舞台へ。
そして。
橋は、もう片側にも足を置いたのです。
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