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第二十話 王妃教育という名の試験
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第二十話 王妃教育という名の試験
婚約式から三日。
私は早くも“未来の王妃候補”として扱われ始めました。
歓迎の花束も、祝宴の余韻も、あっという間に消え去り――
「本日より、王妃教育が始まります」
あら。
容赦がございませんわね。
教育係として現れたのは、年配の女性。
元宰相夫人、ヴァルディア随一の実務家と噂される方。
「感情は後回し。まずは国政の理解を」
率直で結構。
初日は、財務報告の精査。
基金の流れ、交易の再編、関税調整。
「この条項、王国側の商会が不利になります」
私が指摘すると、教育係は目を細めました。
「どう修正なさいます」
「一部の免税期間を設けます。ただし、技術移転と引き換えに」
彼女は小さく頷く。
「感情でなく、利で返す」
ええ。
ここではそれが通じる。
午後。
外交史の講義。
ヴァルディアは、過去に三度、周辺国と戦をしている。
だがいずれも短期。
「長引く戦は損失が大きい」
教育係は淡々と言う。
「だからこそ、橋が必要だ」
橋。
またその言葉。
夜、陛下が執務室に現れました。
「疲れているか」
「少しだけ」
陛下は書類を机に置く。
「王妃は飾りではない」
「存じております」
「逃げたくはならぬか」
私は少しだけ笑いました。
「逃げる場所がございませんもの」
陛下の目が、わずかに柔らぐ。
「王国の様子は」
「安定しております」
王太子補佐制度は機能し始め、
伯爵領の施策も評価を得ている。
「彼は立ったか」
陛下の問いは、興味半分、確認半分。
「ええ。守ると言った以上、退かなかった」
陛下は短く頷く。
「ならば良い」
数日後。
王都から届いた報告に、私は一瞬だけ目を細めました。
――保守派貴族の一部が、ヴァルディアとの交易拡大に反対。
あら。
まだ尾を引いておりますのね。
私はすぐに書簡を用意しました。
王国商会への提案。
技術共有の一部拡大。
利益の可視化。
橋は、片側だけでは支えられない。
夜。
教育係が言いました。
「あなたは、恋をしていない」
唐突。
「いずれするのでしょうか」
私は問い返します。
「王妃に恋は不要だ」
「存じております」
「だが、信頼は必要だ」
私は窓の外を見ました。
アルノルト陛下は、冷静で合理的。
エーヴェルハルト殿下は、感情で揺れ、責任で立った。
違う。
だが、どちらも選んだ。
「信頼は育てるものでございます」
教育係は、満足げに頷きました。
私は自室で一人、静かに息を吐く。
婚約は成立。
王妃教育は本格化。
基金は動き出し。
王国は安定へ。
物語は、三流のロマンスではない。
泥も、噂も、議会も越え。
いまは試験。
王妃に値するかどうか。
橋としてではなく。
この国の柱の隣に立てるかどうか。
真実の愛は、まだ芽吹かぬ。
けれど。
真実の信頼は、ゆっくりと形を成している。
そして私は。
逃げずに立つことを、選び続けるのです。
婚約式から三日。
私は早くも“未来の王妃候補”として扱われ始めました。
歓迎の花束も、祝宴の余韻も、あっという間に消え去り――
「本日より、王妃教育が始まります」
あら。
容赦がございませんわね。
教育係として現れたのは、年配の女性。
元宰相夫人、ヴァルディア随一の実務家と噂される方。
「感情は後回し。まずは国政の理解を」
率直で結構。
初日は、財務報告の精査。
基金の流れ、交易の再編、関税調整。
「この条項、王国側の商会が不利になります」
私が指摘すると、教育係は目を細めました。
「どう修正なさいます」
「一部の免税期間を設けます。ただし、技術移転と引き換えに」
彼女は小さく頷く。
「感情でなく、利で返す」
ええ。
ここではそれが通じる。
午後。
外交史の講義。
ヴァルディアは、過去に三度、周辺国と戦をしている。
だがいずれも短期。
「長引く戦は損失が大きい」
教育係は淡々と言う。
「だからこそ、橋が必要だ」
橋。
またその言葉。
夜、陛下が執務室に現れました。
「疲れているか」
「少しだけ」
陛下は書類を机に置く。
「王妃は飾りではない」
「存じております」
「逃げたくはならぬか」
私は少しだけ笑いました。
「逃げる場所がございませんもの」
陛下の目が、わずかに柔らぐ。
「王国の様子は」
「安定しております」
王太子補佐制度は機能し始め、
伯爵領の施策も評価を得ている。
「彼は立ったか」
陛下の問いは、興味半分、確認半分。
「ええ。守ると言った以上、退かなかった」
陛下は短く頷く。
「ならば良い」
数日後。
王都から届いた報告に、私は一瞬だけ目を細めました。
――保守派貴族の一部が、ヴァルディアとの交易拡大に反対。
あら。
まだ尾を引いておりますのね。
私はすぐに書簡を用意しました。
王国商会への提案。
技術共有の一部拡大。
利益の可視化。
橋は、片側だけでは支えられない。
夜。
教育係が言いました。
「あなたは、恋をしていない」
唐突。
「いずれするのでしょうか」
私は問い返します。
「王妃に恋は不要だ」
「存じております」
「だが、信頼は必要だ」
私は窓の外を見ました。
アルノルト陛下は、冷静で合理的。
エーヴェルハルト殿下は、感情で揺れ、責任で立った。
違う。
だが、どちらも選んだ。
「信頼は育てるものでございます」
教育係は、満足げに頷きました。
私は自室で一人、静かに息を吐く。
婚約は成立。
王妃教育は本格化。
基金は動き出し。
王国は安定へ。
物語は、三流のロマンスではない。
泥も、噂も、議会も越え。
いまは試験。
王妃に値するかどうか。
橋としてではなく。
この国の柱の隣に立てるかどうか。
真実の愛は、まだ芽吹かぬ。
けれど。
真実の信頼は、ゆっくりと形を成している。
そして私は。
逃げずに立つことを、選び続けるのです。
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