『婚約破棄はお好きにどうぞ。――真実の愛に酔った王太子の末路と、私は隣国で王妃になります』

鷹 綾

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第二十五話 守ると支えるの違い

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第二十五話 守ると支えるの違い

 王国でエーヴェルハルト殿下が基金委員長に就任したという報せは、ヴァルディアでも大きく取り上げられました。

 

「王太子自ら前面に出るとは」

「責任を背負う覚悟か」

 

 評価は、概ね好意的。

 けれど同時に――

 

「王国に主導を渡しすぎでは」

 

 小さな懸念も、確実に存在する。

 

 橋は、両側に等しく体重をかけねばならない。

 どちらかが重くなれば、きしむ。

 

 

 その夜、陛下は珍しく書類から目を離し、私に問いかけました。

 

「あなたは、彼をどう見る」

 

「王太子殿下でございますか」

 

「そうだ」

 

 私は少しだけ考えました。

 

「守ると仰った方でございます」

 

「それは聞いた」

 

 陛下の声は低い。

 

「いまはどうだ」

 

「支え始めた方でございます」

 

 陛下の目が、わずかに細くなる。

 

「違いは何だ」

 

「守るは、前に立つこと」

 

 私はゆっくりと続けました。

 

「支えるは、後ろに回ることも厭わぬこと」

 

 基金委員長に就任した彼は、
 ヴァルディアに譲歩しつつも、王国の利益を守る立場に立った。

 

 恋のために突き進んだあの日とは、違う。

 

「彼は、学んだのだな」

 

「ええ」

 

 陛下は静かに頷きました。

 

 

 しかし。

 安定は、長く続くと緩むもの。

 

 王国側の一部商会が、基金を利用し私腹を肥やそうとする動きが見え始めました。

 

「監査に引っかかりました」

 クララが報告する。

 

 あら。

 火種は、外ではなく中から。

 

 私は即座に王国へ書簡を送付。

 詳細な報告と、透明性の強化提案。

 

 

 数日後。

 エーヴェルハルト殿下から返信。

 

 ――該当商会を排除する。例外は設けぬ。

 

 迷いがない。

 

 守ると言った人は。

 いま、橋を汚さぬように動いている。

 

 

 ヴァルディア城内では、その決断が評価された。

 

「王太子は甘くない」

 

 陛下が私に言う。

 

「あなたの見立ては正しかった」

 

「殿下は、もう立場を理解なさっております」

 

 陛下は少しだけ笑う。

 

「あなたは、彼を完全に捨てたわけではないな」

 

 私は一瞬、沈黙。

 

「捨てるも何も、立場が変わっただけでございます」

 

 恋は、終わった。

 けれど信頼は、残る。

 

 

 夜。

 私は城壁の上に立ち、風を受けました。

 

 ヴァルディアの空は、深い。

 王国の空よりも、少し遠い。

 

 陛下が隣に立つ。

 

「あなたは後悔していないか」

 

 再びその問い。

 

「後悔はございません」

 

「本当に」

 

 私は彼を見上げました。

 

「私は、選ばれなかったのではございません」

 

 選ばなかったのでもない。

 

「選び直したのでございます」

 

 陛下は、ゆっくりと息を吐いた。

 

「ならば、私は選び続ける」

 

 その言葉は、重い。

 

 守ると支える。

 似ているようで、違う。

 

 エーヴェルハルト殿下は、守ると誓い、支え始めた。

 アルノルト陛下は、最初から支える位置にいる。

 

 私は。

 橋でありながら、均衡を織る者。

 

 ロマンスは小説だけで充分。

 

 現実は、守ると支えるの違いを学ぶ場所。

 

 橋は、いまや揺れぬ。

 

 だが。

 次に試されるのは――

 私自身でございます。
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