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第三十二話 ロマンスは小説だけで充分ですわ
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第三十二話 ロマンスは小説だけで充分ですわ
ヴァルディア王城の朝は、穏やかでした。
北方同盟との三国合意が成立してから数日。
市場は安定し、交易路は拡張され、基金は正式に国際監査機関を備えた。
橋は、もはや橋ではない。
構造。
制度。
揺らぎを前提とした仕組み。
私は執務室で最後の承認書に署名する。
――ヴァルディア・王国・北方同盟共同基金、正式発足。
羽根ペンを置いた瞬間、不思議と肩の力が抜けました。
「終わりましたね」
クララが小さく微笑む。
「ええ」
婚約破棄から始まった騒動。
三流ロマンスのような噂。
愛に溺れた王太子。
未亡人への疑念。
すべては、ここへ繋がった。
アルノルト陛下が入室する。
「祝宴を開くか」
「静かな茶会で充分でございます」
派手な勝利ではない。
堅実な安定。
「あなたは満足か」
陛下の問い。
私は、窓の外を見る。
城下では商人が笑い、子どもが走り、船が港へ戻る。
「満足でございます」
嘘ではない。
その夜。
私はひとり、書斎に座る。
かつて、王太子に言った言葉を思い出す。
――ロマンスは小説だけで充分でございます。
本当に、そうだった。
愛に酔い、噂に揺れ、立場を忘れる。
そんな物語は、書物の中でこそ美しい。
現実は違う。
責任がある。
契約がある。
均衡がある。
だが。
ふと、思う。
陛下が、あの日、私に言った。
「王妃としてだ」
あの言葉は、合理だけではなかった。
翌朝。
城壁の上で、陛下と並ぶ。
「橋は、完成したか」
「ええ」
「後悔は」
私は、ほんの一瞬だけ考える。
「ございません」
陛下は静かに言う。
「私は、あなたを選んでよかった」
胸の奥が、わずかに温かい。
これは。
三流ロマンスではない。
激情でも、芝居でもない。
静かな信頼。
「陛下」
「何だ」
「この国を、共に守りましょう」
「当然だ」
朝日が昇る。
かつての公爵令嬢。
婚約破棄を望み、違約金を受け取り、橋となった者。
いまは王妃。
王太子は王太子の道を。
伯爵夫人は伯爵夫人の道を。
そして私は。
ロマンスを捨てた先で、国を得た。
風は穏やか。
橋は揺れない。
物語は終わる。
だが、王妃としての人生は続く。
――ロマンスは小説だけで充分。
けれど。
静かな信頼は、現実でも悪くない。
そうして。
ヴァルディア王妃アーデルハイトの物語は、
華やかなざまぁを越え、
静かな勝利で幕を閉じたのでございます。
ヴァルディア王城の朝は、穏やかでした。
北方同盟との三国合意が成立してから数日。
市場は安定し、交易路は拡張され、基金は正式に国際監査機関を備えた。
橋は、もはや橋ではない。
構造。
制度。
揺らぎを前提とした仕組み。
私は執務室で最後の承認書に署名する。
――ヴァルディア・王国・北方同盟共同基金、正式発足。
羽根ペンを置いた瞬間、不思議と肩の力が抜けました。
「終わりましたね」
クララが小さく微笑む。
「ええ」
婚約破棄から始まった騒動。
三流ロマンスのような噂。
愛に溺れた王太子。
未亡人への疑念。
すべては、ここへ繋がった。
アルノルト陛下が入室する。
「祝宴を開くか」
「静かな茶会で充分でございます」
派手な勝利ではない。
堅実な安定。
「あなたは満足か」
陛下の問い。
私は、窓の外を見る。
城下では商人が笑い、子どもが走り、船が港へ戻る。
「満足でございます」
嘘ではない。
その夜。
私はひとり、書斎に座る。
かつて、王太子に言った言葉を思い出す。
――ロマンスは小説だけで充分でございます。
本当に、そうだった。
愛に酔い、噂に揺れ、立場を忘れる。
そんな物語は、書物の中でこそ美しい。
現実は違う。
責任がある。
契約がある。
均衡がある。
だが。
ふと、思う。
陛下が、あの日、私に言った。
「王妃としてだ」
あの言葉は、合理だけではなかった。
翌朝。
城壁の上で、陛下と並ぶ。
「橋は、完成したか」
「ええ」
「後悔は」
私は、ほんの一瞬だけ考える。
「ございません」
陛下は静かに言う。
「私は、あなたを選んでよかった」
胸の奥が、わずかに温かい。
これは。
三流ロマンスではない。
激情でも、芝居でもない。
静かな信頼。
「陛下」
「何だ」
「この国を、共に守りましょう」
「当然だ」
朝日が昇る。
かつての公爵令嬢。
婚約破棄を望み、違約金を受け取り、橋となった者。
いまは王妃。
王太子は王太子の道を。
伯爵夫人は伯爵夫人の道を。
そして私は。
ロマンスを捨てた先で、国を得た。
風は穏やか。
橋は揺れない。
物語は終わる。
だが、王妃としての人生は続く。
――ロマンスは小説だけで充分。
けれど。
静かな信頼は、現実でも悪くない。
そうして。
ヴァルディア王妃アーデルハイトの物語は、
華やかなざまぁを越え、
静かな勝利で幕を閉じたのでございます。
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