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第三十一話 最後の均衡
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第三十一話 最後の均衡
風は収まりつつある――はずでした。
けれど、静かな水面ほど油断は禁物。
ヴァルディア王城の朝は、いつも通り整然としております。
整然としているからこそ、異変は際立つ。
「王妃様、北方同盟から正式な書状が」
外交官の声が、わずかに硬い。
北方同盟。
これまで中立を保っていた大商圏。
書状の内容は明確でした。
――ヴァルディアと王国の基金は拡大し過ぎている。
――北方は新たな交易枠を要求する。
――応じぬ場合、独自経済圏を構築。
あら。
最後の揺らぎ。
陛下は私に問う。
「強気だな」
「揺れを見ての交渉でございます」
「断るか」
私は静かに首を振る。
「断れば敵になります」
「受ければ?」
「均衡が崩れます」
沈黙。
私は机の上に地図を広げた。
「第三の柱を立てます」
「柱?」
「基金の監査機関を国際化」
ヴァルディアと王国だけではない。
北方同盟を“監督側”に組み込む。
「彼らに役割を与える」
利害を共有させる。
陛下は、ゆっくりと息を吐いた。
「それで橋は保てるか」
「橋ではなく、構造体に」
数日後。
ヴァルディアで三国会談が開かれた。
北方代表は鋭い視線で言う。
「なぜ我らが監査役なのだ」
「公平であるからでございます」
私は答える。
「ヴァルディアでも王国でもない第三者」
「責任は重いぞ」
「それこそが信頼でございます」
議論は長時間に及んだ。
だが最後、北方代表は頷く。
「よかろう」
均衡は、拡張された。
その夜。
城の塔から街を見下ろす。
灯りが、静かに揺れる。
アルノルト陛下が隣に立つ。
「これで終わりか」
「終わりではございません」
「では何だ」
「完成でございます」
橋は、柱へ。
柱は、構造へ。
個人の感情で揺れる段階は、越えた。
「あなたは、迷いはないか」
陛下の問い。
私は、少しだけ考える。
「ございます」
「ほう」
「ですが、それでも進みます」
迷いがあっても、止まらない。
それが王妃。
遠く王国で、エーヴェルハルト殿下は政務に追われているという。
セレナ様は領地を安定させたと報告があった。
それぞれの道。
私は、もう振り返らない。
ロマンスは小説だけで充分。
現実は、均衡と責任。
そしていま。
最後の波は、静かに消えた。
風は収まりつつある――はずでした。
けれど、静かな水面ほど油断は禁物。
ヴァルディア王城の朝は、いつも通り整然としております。
整然としているからこそ、異変は際立つ。
「王妃様、北方同盟から正式な書状が」
外交官の声が、わずかに硬い。
北方同盟。
これまで中立を保っていた大商圏。
書状の内容は明確でした。
――ヴァルディアと王国の基金は拡大し過ぎている。
――北方は新たな交易枠を要求する。
――応じぬ場合、独自経済圏を構築。
あら。
最後の揺らぎ。
陛下は私に問う。
「強気だな」
「揺れを見ての交渉でございます」
「断るか」
私は静かに首を振る。
「断れば敵になります」
「受ければ?」
「均衡が崩れます」
沈黙。
私は机の上に地図を広げた。
「第三の柱を立てます」
「柱?」
「基金の監査機関を国際化」
ヴァルディアと王国だけではない。
北方同盟を“監督側”に組み込む。
「彼らに役割を与える」
利害を共有させる。
陛下は、ゆっくりと息を吐いた。
「それで橋は保てるか」
「橋ではなく、構造体に」
数日後。
ヴァルディアで三国会談が開かれた。
北方代表は鋭い視線で言う。
「なぜ我らが監査役なのだ」
「公平であるからでございます」
私は答える。
「ヴァルディアでも王国でもない第三者」
「責任は重いぞ」
「それこそが信頼でございます」
議論は長時間に及んだ。
だが最後、北方代表は頷く。
「よかろう」
均衡は、拡張された。
その夜。
城の塔から街を見下ろす。
灯りが、静かに揺れる。
アルノルト陛下が隣に立つ。
「これで終わりか」
「終わりではございません」
「では何だ」
「完成でございます」
橋は、柱へ。
柱は、構造へ。
個人の感情で揺れる段階は、越えた。
「あなたは、迷いはないか」
陛下の問い。
私は、少しだけ考える。
「ございます」
「ほう」
「ですが、それでも進みます」
迷いがあっても、止まらない。
それが王妃。
遠く王国で、エーヴェルハルト殿下は政務に追われているという。
セレナ様は領地を安定させたと報告があった。
それぞれの道。
私は、もう振り返らない。
ロマンスは小説だけで充分。
現実は、均衡と責任。
そしていま。
最後の波は、静かに消えた。
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