幻妖写鑑定局

かめりここ

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不思議な写真

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「悟伯父さん、入りますね」
 堺病院の三〇九号室、此処に悟伯父さんが入院していた。個室の部屋で、外の眺めも良い部屋だけど、未だ移動許可は出ていない。トイレに行く時も看護師さんを呼ばなければならないらしい。
「あぁ、燈ちゃん。毎日悪いね」
「そんな事ないですよ。着替えはまた此処に入れておきますね。あとこれ、今朝の新聞です」
 あれから二週間が経って、私は大学に通う傍ら毎日学校帰りにお見舞いに来ていた。
悟伯父さんが倒れた理由は脳梗塞だった。でもすぐに発見して処置が出来た為、今はこうして意識を取り戻している。毎日血栓を溶かす点滴を打って、ベッドの上で寝ているだけ。左手が少し痺れて上手く使えない後遺症は出てしまっているけど、これくらいで済んで幸運だと言っている。
「毎日寝ているだけで暇だから、こんなに新聞を読んだのは初めてだ。お蔭で色々と詳しくなったよ。退院したら経済評論家にでもなろうかな」
「ふふ、似合ってると思いますよ。でもあんまり無理しないで、ちゃんと寝ててくださいね?」
「分かっているよ。しかし……燈ちゃんが居てくれて、本当に良かったよ。安心して捺を預けられるからね。捺は家事が全く出来ないからね……大変かもしれないが、頼んだよ」
「はい。家事は慣れてるし、好きですから」
 特に料理は大好き。自分で言うのも何だけど、料理は得意なんだから。……ま、捺にはいつも小言を言われますがね。
「じゃあ、また明日来ますね。何か必要な物があったら、すぐに言ってくださいね」
「あぁ、助かるよ。気を付けてね」
 悟伯父さんにベッドの上から見送られ、帰って行った。途中でお夕飯の買い物もして、家に帰ったら洗濯物を取り込んで、そしてお夕飯の準備。今夜は肉じゃがと焼き鮭とお浸し。ちゃんと健康面も考えないとね。……それにしても、
「ふぅ……なんだか私、主婦みたいだなぁ」
 洗い物をしながら何となく呟いた。住まわせて貰ってるし、この材料費だって悟伯父さんがお財布を私に預けてくれて、そこから買ってる物だから、これぐらいしないとね。それにしてもここの家、こんな広いのにお手伝いさんが居ないとは。お掃除だけで一日終わりそうなくらい、部屋数も面積も広いのに……。
「燈に嫁の貰い手がつくとは思えないが」
 ……出たな、小言男め。ていうか、いつの間に後ろに来てたんだか。
「悪かったですね。どうせ馬鹿で何の考えもないじゃじゃ馬ですよ」
「ほう、自分でも分かってるとは、ネズミより脳はあるようだな」
 どういう意味だコイツめ……。
 この家に来てから二週間、捺には会うたび嫌味を言われる生活が続いている。多分私の今のストレス指数はかなり高いと思うの。私って可哀想……。
 だけど唯一大学に行っている間は救われるんだ。捺も同じ大学の二年だけど、廊下ですれ違っても全く声かけてこないし、私も用無いから無視してるし。多分私と一緒に住んでる事を周りに知られたくないって事なんだと思うけど。
「……ご飯何?」
「今日は肉じゃがと鮭とお浸しだよ」
「……俺、お浸し嫌い」
「駄目! ちゃんと野菜も食べなさい! じゃないと肉じゃがも鮭もあげないよ」
 最近知ったんだけど、捺は葉物野菜が嫌いらしくて、基本サラダには手を付けてくれない。だから思い切って一昨日『野菜食べないなら他も食べちゃダメ!』って言ったら効果覿面!
大人しく食べてくれたのよね、驚いちゃった。
「……」
 捺は納得のいかなそうな表情をしていたけど、黙ったままお店の片づけに戻って言った。こうなったら勝ち、ちゃんと食べてくれるのよね。
「さぁ、もうそろそろ良いかなぁ」
 鍋の中をお玉でクルクルと回していると、
「燈、今日は森さんも一緒に食べるから」
「え?」
 驚いて振り返ると、捺の隣でスタッフの森さんが、少し困ったように立っていた。
「すみません、突然お邪魔して……やっぱり迷惑ですよね」
「そんな、とんでもないです! もう出来ますので、座っていてください」
 森さんは勧められた椅子に、おずおずと腰掛けた。彼は森賢人さん、ここで正式に社員として働いている人。物腰柔らかで、少しなよってしてるけど優しい性格をしている。写真を撮る事も出来るし、総務の仕事等も出来るとか。実は多彩なのね。
「悟伯父さんが運ばれた時はお店を任せっきりにして大変な思いをさせちゃったし、お礼をしなくちゃって考えていたの。急だから普通のご飯だけど……」
「燈に普通意外の飯が作れるとは思えないが?」
「悪かったですね! お口に合いませんでして!」
 また二人の間に一触即発の雰囲気が漂い始める。大体ご飯を食べる前にはこんな風になって、ご飯を食べ終わったあとの感想でもこんな展開になっている。つまり私達の間では恒例行事なんだけど……隣に一人取り残された森さんがおろおろしている。いかんいかん、スタッフさんとはいえ、客人を目の前に喧嘩しては逆に申し訳ないし。
「今持ってきますからね!」
 捺から視線を外し、森さんに精いっぱいの笑顔を作ってからキッチンに戻った。
「鮭三切れのパックにしておいて良かったー。急に森さんご飯に誘うんだから、もし二切れ選んでたら誰かおかずなしだったんだぞ」
 独り言を言いつつ、冷蔵庫に突っ込んであった鮭を取り出して魚焼きグリルに入れた。余談だけどここの家の冷蔵庫はかなり大きい。アメリカとかのサイズという感じで、多分本当は業務用だと思う。大の大人が四人は入れるほどのスペースだ。
 ……ん? そういえば何で急にご飯に誘ったんだろう? 元々よくご飯に誘ってたとか……? 森さんはここの写真屋の唯一の親族外のスタッフだ。家族ぐるみの付き合いっていうのもしてるのかも。
「燈、この辺りの運んで良い?」
「あ、うん」
 捺が作業台の上に置いてあったお浸しをお盆に乗せて行った。それから先に焼き上がっていた鮭とご飯も空になったお盆に再び乗せ、お客様用の箸を戸棚から出して渡した。
「そう言えば森さんて、何回もご飯に誘っているの?」
「いや、あんまり」
 ふぅん、じゃあ捺もあの時のお礼をしなくちゃって思って呼んだのかな?
 ……いや、待てよ? そもそも捺がそんなに気が利くとは思えない……仮にそうだとしても、事前に教えておいてくれるはず。じゃあ何故? ……まさか
 捺が戻ってくる前に二人分の肉じゃがを器に盛り、食卓へ持って行った。
「お待たせ、肉じゃがね! ……あれー? 捺、もうお浸し食べたの?」
 やっぱり。捺が先に持ってきたお浸しの器は、席についてないのに空っぽ。そして森さんのお浸しはてんこ盛り。コイツ、そんなにお浸し嫌いか!
「……」
 捺は黙ったままお盆に乗っていた物を並べ、整然とキッチンへ戻っていく。ちょっと待ちなさいな君。
「捺! もう、どうして食べてくれないの」
「嫌いだから」
「嫌いとか……そんな我が儘何歳まで言うつもりなの?」
「無理強いをする事は良くないと聞きます」
「健康面を考えたらちゃんと食べたほうが良いんだよ」
「他の野菜は食べている。ビタミンも食物繊維も他から補える」
「ああ言えばこう言う……はぁ……もう分かったよ」
 別に私は捺の親でもないんだし、またこんな形で森さんに迷惑をかけるのも申し訳ない。しょうがない……今回は私が折れよう。というか、もう心配なんかしてやらないんだから!
「やっと分かったのか、猿よりは理解力があるようだ」
 だからどういう意味なのさ、それは。
「はいはい……じゃあとりあえずお茶持って行って、先に食べてて」
 冷蔵庫から冷えた緑茶を取り出し、グラスに注いで捺に手渡した。どこか勝ち誇ったような感じでテーブルに戻っていく彼を見ると、苛立ちよりも呆れてきた。全く好き勝手に育ったって感じだわ……。
「……さぁ。鮭焼けたかなー」
 さっきから香ばしい焼き魚の香りが鼻を擽っていた。うんうん、美味しそうに焼けてる! すぐに自分の分の食事も用意して、私も席に着いた。
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