幻妖写鑑定局

かめりここ

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不思議な写真

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 テーブルでは特に会話もなく二人が食事している。誰の為でもなく流されているテレビの声だけが賑やかで、黙々と食事をしている光景。変なの……。
「あ、燈さん。すみませんお先に頂いて。この肉じゃが本当に美味しいです!」
「本当ですか? お口に合うようで良かったです。家族以外には振る舞った事がないので……」
「とてもお料理上手なんですね。僕こんなに美味しい肉じゃがは初めてですよ」
 ただでさえ細めの眼を更に細めて、本当に美味しそうに食べてくれている。お世辞だとしてもこれは嬉しい。それに毎日捺の小言聞いてたから、正直ちょっと自信なくしちゃってたんだから……
「辛うじて食える程度ではあるな。ま、薄味だが」
 ……ほらね、また始まったよ。いつもはここで私も言い返すけど、さすがに森さんまで巻き込んじゃ可哀想だし、無視無視っと。
「燈さんは健康面も考えてこの味付けなんですよ。いやぁ本当に、その若さでこの腕前は中々ですよ」
「そんな、褒め過ぎですってー」
 否定しつつも褒められるというのは素直に嬉しい。認められたと感じると、心の中が満たされるものだ。よし、これからも森さんの事ご飯に誘おうっと!
「そうですよ、ほめ過ぎです。コイツを調子に乗らせないでください」
「む……乗ってません!」
「じゃあなんで、そんなニヤニヤしてるんだ? 顔に全部出てるぞ」
 うぅ……だって、隠し事とか出来ないタイプなんだもん。
「ま、まぁまぁ。捺君もそろそろ、ね?」
 森さんが止めに入った所で、やっと捺からの攻撃は止んだ。やっぱり年上には叶わないのかな? 後で仕返してやるから、覚えてろよー……
 それからまた、全員を沈黙が包んでいた。そうするとテレビから流れる出る声が際立って、決して音量が大きいわけではないのに嫌でも内容が耳に入ってくる。丁度今はゴールデンタイムと呼ばれる時間で、点いている番組では色々なジャンルのランキングを発表している。私はこの手の番組は好きだから見るけど、捺はほとんどテレビという物を見ないらしい。だから今点けてるのも、多分夕方のニュースからの流れで付けたままなんだと思う。
『さぁ、続いてのランキングは――呪われた心霊写真ベスト3!』
 司会者の声に会場からどよめく。騒いでとの指示で観客が悲鳴を上げたり、出演者が『こういうのはテレビでやっちゃいけない』と煽ったり。少しの間こうして視聴者の罪悪感や恐怖心を煽ったら、やっとお目当ての写真のランキングが始まるのだ。
『さぁまず三位は……こちら!』
 画面に映し出された写真には、無数の発光球体が映っていた。確かオーブとか言われるもので、霊がいる所に現れる……だったっけかな。
 会場からは悲鳴や目を背ける出演者、それからこの写真の経緯が説明されていた。それによれば、これは夏休みに行ったキャンプ場を撮影したらこうなったとか。他の写真にもちらほらと居たらしい。
『山には霊が多いと言いますからね。では、第二位の発表です! ……こちら!』
 続いて画面に映し出された写真には、四人の男女がお店の前で並んでいる写真。その一番右にいる女性の左腕の肘から先が綺麗に無くなっていた。司会者の『この後この女性は左腕を怪我したらしい』との発言で再び悲鳴に包まれるスタジオ。
『これは先祖の霊が出てきて警告をしていたんです。守ってくれていたんですね』
 と言えば、今度はなんでかほっこりした雰囲気になっている出演者たち。さっきまで顔を背けてきゃーきゃー言っていたのが嘘のような変貌だ。ただ、それが逆に演技なんだなって分かりやすかったりもするのだけど……。
『さて、いよいよ第一位です! ……これは本当に危険なので、決して長く見ませんように』
 司会者の究極の煽りが入ると、スタジオの緊張感が漏れ出して、私までその場にいるような感覚だ。周りと一緒に緊張しながら、まだなのかと期待する自分と、怖くて目を背けたい自分の両方が主張して、結局はテレビを食い入るように見ているんだけど。
『それでは行きますよ? これです』
 かけられていた布が取られた瞬間、まだ認知出来るとも思えない速さで観客から悲鳴が上がる。続いて出演者たちが順次画面に顔を寄せ、確認次第悲鳴を上げた。正直悲鳴の方がインパクト強くて写真に集中出来ない……。
 やっと映った写真に写っていたのは、小さな子供達が公園で遊んでいる所。やがてカメラが映っているらしい所まで徐々にズームしていく。手前にある砂場の、男の子の左側辺りがアップになっていった。そこでやっと分かったのだけど、こちらに顔を向けている少年の右腕を、何者かの手が掴んでいた。手は左側の宙から突然現れ、まるで子供を連れ去ろうとするかの様にしっかりと腕を握っていた。映っている子達は誰もその事に気付いていないし、後ろに隠れられるような所もない。手は大きさからして大人の物、写りは悪いけど、恐らくは女性の物だと思われた。
「うわぁ……気持ち悪い」
『子供を亡くした母親の霊ですね。この子を自分の子だと思って、あの世に連れて行こうとしているのです』
『事実この写真の経緯を聞こうと番組は投稿者に連絡を取ろうとしましたが、何故か消息が掴めませんでした。この子と家族の無事を願う限りです』
 霊能者がそういうと、更に司会者が煽るように続けた。そしてそこまでで怖い雰囲気は終わり、続いては動物の寝顔ベスト3が始まった。スタジオ全体がさっきまでの記憶をすぽっと抜き取ったように、今は全員が可愛いペットの映像に目を輝かせている。
「……雑な仕事だな」
 捺がぽつりと呟いた。普段私がテレビを見ていても全く興味も示さないのに、感想を言うなんて初めてだったから少し驚いた。一言だけど。
「本当だよね。出演者の人はともかく、観客の人達はもう少し演技指導した方が良いかも」
「……馬鹿だな、お前は」
 何さ突然、ていうか面と向かってバカとか言うなっ!
 私がむすっとした表情で捺を睨みつけていたら、隣から苦笑気味に森さんのフォローが入った。
「まぁまぁ……捺君が言ってるのは、最後の写真の仕事が雑って事だろう?」
「最後の写真の仕事……? どういう事?」
「最後の写真、あれは合成だ。その仕事が雑だと言っているんだ」
「え、合成なの?」
 でも霊能者の人は危険だって言ってなかったっけ……?
「僕等はね、プロのカメラマンとしての知識を持ち合せているから分かるんだ。影の付き方とか、重ねられた画像が綺麗に切り取られていなかったり、そこだけ画質が違ったりもするからね。捺君が言っているのは、アップにしても分からない程だけど、腕の画像の周りに切り取り忘れた部分を見たんだよ」
「へぇー……あんな自然に合成できるんですね」
「いや、むしろあの写真の系統なら、不自然位の方が受け入れられるかもしれないね。よくテレビで出ている心霊写真で、プロが撮ったような高画質の物はないだろう? 画質はざらざらしてたり、ぼやけてたりするものが多いと思うよ」
 言われてみれば確かに。時々ここに霊が居ますってアップにしたら、逆に画質が悪くて何が写ってるか分からないのもあるし。
「だけど……じゃあ、他の写真は?」
「三つめのオーブが映ってる写真は、ただの雨粒か埃だ。それにストロボを焚いた時に反射して写り込んだ。レンズが汚れている場合もあるが、さっきのは他の写真にも写っていて、光球の位置は変わっていた。そして山だと言うから、恐らくは雨か虫だろうな」
「じゃ、じゃあ二位のは? 体が消えちゃってるやつ」
「あれは角度の問題だ。恐らく右端にいた女性は消えたとされた左腕を肘からまげて、背中に回していたんだろう。胸を張っていたから肘から先の部分が隠れている事も分かりにくくなった。事実、彼女の腕は体に沿ってくっついていただろう?」
 そう言えば……確かに。なんだかそう言われると、残念な気分になってしまう。別に霊が居て欲しいと願っているわけではないけど、視えない物への楽しみが無くなったというか、これからの夏の怪談特集も楽しめなくなりそう。……待てよ、写真との因果関係は?
「でも、写真を撮ってから怪我したりしたのは? それは関係あるって事だよね?」
「それも偶然だ。人間は不幸な出来事が起こると、何かしらと結びつけたくなる。そもそも心霊写真を鑑定するなんてシステムが出来たのだって今から五十年くらい前。それまで心霊写真は有り難い物だと言って、大切に保管されてきたものだ」
 うえぇ……心霊写真を保管なんて、なんでそんな事をするのやら……
「そもそも心霊写真……この時代は幽霊写真だが、それは先祖が映る物だった。それがオカルトブームになった時、メディアで取り上げ霊媒師を呼んで鑑定させる。これは悪い物だと言えば時代が求めている刺激に繋がった。その刺激は視聴者を呼べる。そうしてどんな物でも心霊写真だと言うようになったのさ」
「そうだね。全ての写真が嘘だとは言わないけど……テレビ業界に勤めていれば、これが本物か偽物か位は分かっていると思うよ。霊媒師と言われている人達の鑑定も、段々と固定化し始めたりしてブームは去ったけどね」
 森さんはそう補足して、最後の一口お浸しを食べた。結局捺の分まで食べさせてしまったのだけど、捺はそれについてお礼一つ言わない。お礼くらい言いなさいなっ!
 だけどそうか……実際の所、合成と撮影技術があれば、なんでも出来ちゃうんだなってよく分かった。薄々感じては居たけど、じゃあ何の為にこの企画をテレビでやるのかってなる。投稿した人も作ったりしてるし、中には偶然の人もいるけど。そこに鑑定師が漬け込み、あれやこれやとアドバイスなり忠告なりをする。それをテレビで放映する……
そっか、結局それは心霊写真の鑑定システムが誕生した理由と変わらないんだ。不思議な写真を皆で見て楽しんで、それに含まれた意味を解説してもらう。いかにそれがわざとらしくても、皆で見て騒ぐことが楽しい。そしてそれが高視聴率に繋がる。
「……なんだか、裏が見えてしまった感じで凄く残念」
「業界なんて、どこもこんなもんだ」
 捺の冷たい一言が、この時はすんなりと受け入れられた。
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