幻妖写鑑定局

かめりここ

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不思議な写真

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 翌日の大学内カフェ、丁度お昼時なので生徒で溢れかえっている。実はここのご飯は学外でも評判で、近所の人も良く食べに来ているらしい。普通の学食と違ってカフェの雰囲気もお店のようだし、和食や定番のラーメン、カレーもあるけど、メインはイタリアンだ。とにかくパスタの種類が沢山あって、しかも全て五百円あれば食べられる!
となると、残る問題は席の数だけ。残念ながら席数は多くないので、早めに来ないと座れずにコンビニご飯になる事も多々。今日は早めに講義が終わったから、余裕で座る事が出来てラッキー。
優里ゆうりまたナポリタンなの? よく飽きないねー」
 私の向かい側に座る彼女は足立優里。ゼミが同じで何となく話してたら仲良くなって、お昼はよく一緒に食べている。とにかくナポリタン命の鳥類大好きな変人。だけど中身は良い子。
「だってだって、こんな美味しい物なんだよ! いくら食べたって飽きないよー」
 優里はナポリタンを一口食べ、まるで初めて食べた時のように感動している。両頬に手を添え、目はキラキラと輝いている。この目になるのはナポリタンを食べた時か、鳥の話をしている時だけだ。
「そうは言っても……学校ある時はいつもナポリタンで、同じケチャップ味で飽きるでしょ」
「え? 違うよー毎日お昼ナポリタンじゃないもん!」
 お? まぁそうだよね、お休みの日はナポリタンから離れてるのかな。
「毎日お昼とお夕飯がナポリタンなの!」
「……どんな食生活なのよ。じゃあ何、朝ごはん以外はナポリタンってわけ?」
「朝はお腹空かないから食べないのー」
 心配だ、この子の食生活。偏りの域を超えて偏り過ぎでしょ。
「魚とか野菜とか食べなきゃだめだよ」
「……燈、お母さんみたい。ううん、お婆ちゃんみたい」
 どういう意味じゃ。
「お家とかでも渋い和食しか食べて無さそー。当たり?」
「……当たり」
「やっぱり!」
 優里は嬉しそうにして、再びお皿に残っていたナポリタンを食べ始める。
 先に食べ終わっていた私は、優里を待ちつつぼーっと外を眺めていた。すっかり春になった庭では、蝶やミツバチがせっせと花の蜜を集めている。カフェから眺める庭も内装の一環としてリニューアルしたらしく、チューリップやかすみ草、マリーゴールド等色鮮やかに咲き誇っている。自然な庭を目指したらしくて、雰囲気は我が家の南西の庭に似ている。
 その頃から、カフェ内は人口密度が高くなってきた。講義が終わった人達が一斉にカフェに集まって来たからだ。残っていた席が忽ち埋まり、テラス席まで埋まり始めた。厨房の人も忙しそうだ。
「えぇー! 美枝ヤバいじゃん、これ」
 隣の席から軽そうな女子の声が聞こえる。出来立てだった料理は冷めたまま放置され、四人全員でスマホに釘づけになっていた。口々に『ヤバイ』とか『マジ?』とか言っている。写真を見せている美枝は得意げに、ヤバいでしょと昨日の司会者の様に煽っている。
「何がヤバイの?」
「あぁ燈も見る? これ、この前カラオケに行った時に通された部屋が曰く付きでね。記念に皆で写真撮ってたら……こんなの映ったの!」
 彼女は興奮気味に私に話ながらスマホを見せてくる。画面には私の知らない友人達数名と美枝がカラオケのルーム内で思い思いのポーズをとっていた。その画面全体に、白い発光球体がいくつもある。
「わあぁぁ、何これ?」
 優里が大好きなナポリタンを放置して画面に食い入っている。珍しい、でも……
「これ、多分埃だよ……」
「え? なんで埃がこうなるの?」
 優里だけでなく、美枝も一緒に驚いていた。そっちのグループも分からないと言った風だ。それはそうだと思う、私だって昨日まで知らなかったんだし。
「えっとね、空気中に漂ってる埃にカメラのフラッシュが反射して、それがこういう風に写るんだって。フラッシュ焚いてなかった?」
「えっと……うん、多分光ったから……じゃ、じゃあこれは?」
 美枝は画面をタップして、別の画像を見せて来た。別日に撮ったものらしく、メンバーも場所も違う。美枝を除く女の子三人が何処かの室内で勉強会をしているようだ。美枝が指差した部分では、左手前に座っている人の顔が潰れたようにぐしゃっとなっている。
「え……これはなんだろう?」
 昨日聞いた理論で当てはまるのは加工くらいだけど、美枝がわざわざそんな事するかなぁ。
「友達の部屋なんだけど……やっぱり、ここには何かいるのかな?」
 さっきのストロボでの現象は納得してくれたみたいだけど、この画像は本物だよねと嬉しそうにしている。ていうか美枝、心霊系が好きだったとは。
 画像を見て悩んでいると、丁度そこへ見知った人物が。席を探しているようで、キョロキョロしながら、椅子の合間を縫って歩いてきた。
「捺ー。ちょっと来てー」
 手を振った私に気づき、少し怪訝な表情を浮かべてやって来る捺。
「……なんだよ。燈と違って暇じゃない」
「悪かったね、暇そうで。それより良いのかな? もうテラス含めて全部の席が埋まっちゃってるんだよ。ここに座らせて貰わなきゃ、お昼食べられないよー」
 私は隣に空いていた椅子をとんとんと叩いた。捺は講義が長引いたのか、カフェに入ってきた時間はかなり遅く、既に空いてるテーブルもカウンターも無し。相席をするしかないのですよ、へへへっ。
 捺は文句を言いたそうな顔をしていたけど、大人しく席に着く。よし、勝った。
「で、食事が終わった後も他の生徒の事を考えずに席を占領してカフェの営業妨害をしている燈が、俺に何の用だ?」
「今食べ終わったばっかりなの! ……この写真、美枝が撮ったのなんだけど、この人の顔がぼやけてるのはなんでか分かる?」
 捺はペペロンチーノをフォークで巻く手を一瞬止め、画像を見てすぐに言った。
「ナイトモードで撮ったんだろう」
「ナイトモードで……?」
 美枝を見るも、彼女は記憶に無いらしく首を傾げていた。
「ナイトモードが何故明るく撮れるか知ってるか?」
 そんな事言われたって、深く考えたことないし分かんない……。
 黙って首を振ると、捺はこれ見よがしにため息をついた。
「無知も程々にしろ。ナイトモードが明るく撮れるのはシャッタスピードが遅いから。シャッタースピードとは、フィルムの露出時間の長さ。これが遅いと言う事は、露光の時間が長い、つまり光を長時間焼き付ける事が出来るから明るく映るんだ」
 えーと……?
「例えば天体の動きを一枚に撮影した星景写真てあるだろ? 星の流れが光跡になって写っているもの」
 あ、それなら見た事ある。空に星の動いた跡みたいに、星の線が沢山写っているの。
「そう。あれは露出時間を一時間とか取っている。その間ずっとフィルムに焼き付けているって事。だから星の光跡も映り、背景も夜とは思えない程に明るく映る。それだけ多く光を吸収しているからだ。ここまでは分かったな?」
 私達はこくりと頷いた。
「じゃあ背景は綺麗に写っているのに、何故星はブレているか。背景はずっと動かずにいるが、星は僅かずつ動いている。その動いている一瞬一瞬全てを一枚の写真に重ねていっているって感じだ」
「あぁーなるほど、一時間の映像を一枚に全部重ねたって事だー」
 優里が手をぽんっと叩いて納得した。なるほど、そういう事か。
「そう、その通り。貴方は燈より賢くて助かります」
 捺が優里に言って、それから面倒くさそうな視線を私に投げかけた。悪かったですね、中々理解出来ませんでして。
「まぁ一時間は長いが、標準搭載のナイトモードなら十五分の一秒程度だ。つまり0.06秒もフィルムに露光されている。これだけ長く空いていれば、素早い動きなら記録される。例えばこの時、彼女はシャッターを押した後すぐに振り向いたのかもしれない。その時の顔の動きが全て重なって記録されたと考えれば、この写真は何も不思議な事はない」
「だけど、0.06秒の間に振り向くなんて出来るの?」
「出来る。その更に倍、八分の一だと動いている物はほぼ撮影不可能だ。因みに通常なら二五〇分の一、それでさえブレる事あるだろ? だからこれは単なるブレだ」
 ふぅーん。でも何でも無いなら良かったじゃんか、美枝。と、言おうと思ったら
「凄いですね! さすが柴田先輩!」
 美枝は目を輝かせて言っている。いや、美枝だけじゃなくて一緒にいたグループも総出で褒め称えている。まぁ……そりゃ確かに私も昨日はちょっと凄いなとも思ったけど、実家が写真屋なんだから当然っちゃ当然でしょ。あんま褒めると調子に乗るから……待てよ?
「……美枝達、捺の事知ってるんだ?」
「そりゃそうだよ! 頭良いし、カッコいいし!」
「まぁね」
 得意気な顔してるけど、身長は私より低いんですよ、貴方。
 私達に説明している間に食べ終わっていたらしい捺は、トレーを持って逃げるように席を立つ。そんなに私と居たくないのですかと思ったけど……目の前には見慣れぬ物が。
「待て待て待てーい、何気なくサラダ置いて行くんじゃないよ!」
「俺、葉っぱ嫌い」
 そのセリフを残して捺はさっさか逃げて行った。奴め、逃げたな。
「……はぁ、アイツの葉っぱ嫌いにも困ったもんだ……」
 仕方なくサラダをつまんでいると、その様子を睨むように見つめる視線が。美枝達だけじゃなく、その周辺の私の知らない女子生徒からも。
「……な、なんでしょう……?」
 ちょっと怖いですよ、さっきまでの賑やかさが半減してるし。
「燈って捺先輩と仲良いねーって皆思ってるんだと思うよー」
 優里がのほほんと言う。いやむしろ、さっきの私の扱いを見ていたら仲悪いと思うでしょ。と内心思っていたけど、美枝に至っては少し口を尖らせて言う。
「そーだよ、名前呼び捨てだし、構って貰えてるって感じ」
「それは誤解だよ。捺はただ嫌いな葉物野菜を私に押し付けただけ。昨日の夕飯だって、結局お浸し食べないし……」
「え? 燈、捺先輩とご飯一緒に食べてるのー?」
 この優里の発言が更にどよめきを呼ぶ。あちらこちらで小声で話して、視線も多くなった気がする。これは、完璧なる誤解を呼んでいるよね? 変な噂が拡散する前に否定しなきゃ。
「いや、違うよ! ……いやまぁ、確かに私が捺の分もご飯は作ってはいるんだけど、でも」
「何それ、まさか彼女?」
 なぜそうなる。いやいや、話を最後まで聞いてよ。
美枝と数名は何故か蛇のように怖い目で睨んで、どういう事なのと言って迫ってくる。その姿に、流石の私も怖くて仰け反りながら答えた。
「いや……だから、はとこだから……」
「……へ? はとこ……?」
「うん、うちの実家から大学には通えないから、それで……」
「あ、そっかー! 燈は親戚の家から通ってるって、言ってたもんねー。それが捺先輩の家だったのかー」
 こんな時でもまったりした声で言う優里の言葉に、身を乗り出していた美枝達が力が抜けたように席に着いて行った。周りにもその言葉は届いたようで、耳を傾けていた人たちもそれぞれの会話に戻って言く。カフェは再び賑やかな声で溢れて行った。
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