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悪霊屋敷の謎
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翌朝、朝食を終えた私は部屋で荷造りをしていた。詩織さんの荷物を纏めたり、真琴さんの体を気遣った結果、翌日の午前に出発しようとなったのだ。荷物は元々多くないし、滞在四日目にしてやっと羽伸ばしが出来る。……短時間だけど。
でも名残惜しいなぁ、充実したサービスに豪華な部屋。ずっと居たくなっちゃう。家に帰ればまた捺の小言が……まぁここでも散々あったんだけど。
今日は午前から雨が降るとの事で、空には分厚い雲が漂っている。今にも振り出しそうだ。
ま、お散歩は一昨日散々やって、お腹いっぱいだから良いんだけど。
「何処行こうかなー」
する事もなくなり、何となく家の中を歩き回っていた。もう散々見て回ったけど、こんなお屋敷に泊まれることなんてもう二度とないから、目に焼き付けておこうと思ったのだ。東側は全部見てしまったから、残るは西側だけ。って言っても、あるのはゲストルームと影が出てたリビングだけだけど。
結局この家で居無くなったっていう女の子は、何処に行っちゃったんだろう。本当の神隠しにあった子って、やっぱり死んじゃうのかな。
リビングに入って中を見る。これだけ豪華な物でも、誰も居ないと少し寂しい感じがするな。霊が居ないって分かった以上、築年数から考えてもこの家は取り壊しになると思うって真琴さんも言ってたし、家もちょっぴり寂しそうだ。
「……あれ? あんなとこ、部屋なんかあったっけ?」
視線を奥の通路側に向けた時、倉庫の隣にもう一つ扉が開いていた。外側に戸を開け、まるで招き入れるかのようにその口を開けていた。
好奇心が沸いてきた私は、そのまま駆け足で近付いて中を覗く。すると更に奥に、地下へと続く扉が、これまた大きく口を開けていた。
「え、まだ地下があったんだ。ここん家どれだけ地下があるのよ」
近付いて中を覗くと、ここは幸いにも作り付けの石階段だった。これなら崩れる事はないよね、相当な事が無い限りは。
「……中、何があるんだろ?」
目を細めて覗きこむも、自分が影になって良く見えない。やっぱり此処も地面むき出しの造りだったけど。昔はこれが普通だったのかな?
「あっ、なんだろ?」
暫く覗き込んでいると、奥の方にピンク色と白の布のような物が見えた。雑巾? 遠目から見ても、汚れている事は分かる。足元に気を付けながら中へ降りて、それに近付いていった時。
「わわっ……」
突然大きな揺れが襲って来た。え、地震!? やだやだ崩れたら完全に下敷きになるじゃん。急いで出なきゃ……揺れに耐えながら入口に引き返し始めた時、突如バタンという大きな音と共に視界が真っ暗になった。
「え、まさか扉閉まっちゃったの?」
幸い階段の目の前まで来ていたから、なんとか手探りで上る事は出来るけど……。真っ暗で揺れもある中で動くのはちょっと厳しい。何とか階段に捕まって、踏み止まっていた。
「あ、収まった……」
次第に揺れは収束し、何とか崩れないまま保つ事が出来た。興味本位で地下に入って下敷きになるなんて、そんなお間抜けな事は流石に避けたい。ひとまず安心して、階段を上って天井を上に押し上げた。
「……あ、あれ……?」
さっきまで軽く開いていた木の扉が、ガッチリと固定されたように動かない。なんで? どうして! 下から叩いてもびくともしない。
「まさか……さっきの地震で、何かが落ちて上を塞いじゃったとか? う、嘘! 誰か!」
声を張り上げるも、空しく土の壁に吸収されていく。やだっ開いてよ! 力を込めて扉を叩いた時。
「うわっ」
階段から足が滑り、勢いよく地面に叩きつけられた。階段に当たった腰が痛い、絶対痣になってる……。そう言えばあの階段、少し苔生してた、それに滑ったのかな。だけど、こんな事でめげてちゃだめ。どうにか脱出しないと。
手に着いた泥を払って立ち上がろうとした。
「痛っ! くぅ……」
右足にズキンと強い痛みが走る。恐る恐る触ってみると、熱を持ち腫れ上がっている。捻ったかな。でも真琴さんの方と違って階段だから、片足でもなんとか上がれる。そう思って左足を少し動かしたが、こっちも何だか違和感がある。足首が動かしにくい。
「まさか……」
触ってみると、こちらも熱を持って腫れ上がっている。
「両足とか……私どんだけ運動音痴なの」
がっくりと肩を落として、その場に座り込んだ。なんで一人で入っちゃったんだろう、このまま見つからなかったらどうしようとの不安があるのに、なんでか頭では捺に怒られるんだろうなと想像していた。
「そうだ、スマホ」
思い出してポケットを探ってみたが、何も入っていなかった。そう言えば荷造りの時バッグに入れちゃったんだった。
「はぁ。どうしよ」
最後の頼みの綱が無くなった私は、そのまま汚れる事も構わず地面に座っている事しか出来なかった。
やがてどれくらい経った頃か、外では雨が降り出したようだ。地下内の湿度が高くなっていき、濡れた土の匂いが強くなっていた。
「寒いなぁ。半袖にしたの間違いだったな」
上着を着て行くつもりだったので中は薄めでいいやと、時期には少し早い半袖を着ていたのだ。冷たい空気が容赦なく体温を奪っていき、肌には粟が立っている。さっきまで大声を出していた私に、この仕打ちは辛い。
この頃には既に目も慣れて来ていて、少しは視野が効くようになっていた。地下は大凡二メートルくらいの幅で、奥行きはもう少しあるみたい。棚や物も今はなく、だいぶ前から使われていないらしい。
その少し手前に、最初上で見た布が落ちていた。視界が効いてくると、どうもそれは子供用の服らしく、可愛らしいリボンが付いていた。
「なんでこんなとこに服が……でも、風邪ひくより良いよね」
体を倒して腕を伸ばす。何とか指先で服を掴み、それを引き寄せた。それと共にカラカラと乾いた木がぶつかり合うような音を連れ、何かが服にくっついてきた。
何だろう? それを拾い上げて、目の前に持ってくる。白っぽくて所々何かの乾いた跡が付いている。よく見ると、服が有った方にもまだいくつか残っている。その中で一際大きく丸い物がある。二つ開いた穴が、こちらをじっと見つめていた。
それには見覚えがある。散々理科室や教科書で見た事のあるものだったし。けど、実物を見たのは初めて、お父さんのお葬式で焼かれたものは見たことあるけど、手で触った事なんてない。それがここにある、小さな女の子の服と共に。
「ぁ……あ……」
分かった、分かってしまった。この服の持ち主、この物の正体。どこに消えてしまったのか、なんで行き止まりの通路で消えたのかが。
「っ……ひっ……」
声が上手く出てこない。服を持つ手がわなわなと震えて、持って居たくないのに逆に力がこもってしまう。いっその事大声を上げて叫びたいのに、喉の奥がきゅっと閉まって息も上手く出来ない。
歯は嚙合わせる事が出来ずに音を立て、涙がぽろぽろ零れ落ちる。体を虫が這いあがるように悪寒が上っては下りを繰り返し、段々頭が何も考えられなくなってきた。その時
「燈! 居るか!?」
いつの間にか開け放たれた頭上から、捺の言葉が聞こえる。視界の隅で見えたけれど、そっちに顔が向けられない。凍り付いたように体の関節が上手く動いてくれないのだ。
階段を駆け下りてくる足音がする。走って私の前に回り込むと、しゃがみ込んで顔を合わせてくれた。
「どうした……? 怪我はないか……?」
その酷く優しい物言いに、どうしたら良いのか分からなくてまた涙が出て来た。私、優しい捺なんて知らない、どうせならいつもみたいに怒ってくれれば、この震えも収まるのに。
「燈……」
心の中でそう言ったのに、捺は怒るどころか私の体を抱きしめた。ぎこちなく、糸でつるされたマペット人形のように、かくかくとした動きで。ただ黙って抱きしめている。
……温かい。冷え切っていた体に、捺の体温が入り込んでくる。捺の匂いって、太陽みたいだな……湿った土の匂いと太陽の匂い、雨上がりのお外だ……。
体が温まるにつれて震えは段々に収まってきた。
「……大丈夫か?」
「うん……」
本当に心配そうな捺を見上げて答える。笑みを作ったつもりなのに、捺のが移ったようで私までぎこちなくなる。
「捺、あれ……」
私は奥にある、子供サイズの骸を指さした。それから持っていた服も見せる。
「多分、神隠しにあった子じゃないかな……」
「そうだろうな……警察を呼ばなければだな。一先ずここを出よう」
「あ、待って!」
立ち上がって行ってしまいそうになった捺を呼び止める。
「両足くじいちゃって……何とか這って行くから、ゆっくり行って」
「両方とも?」
「うん、階段から落ちちゃって」
膝立をしながらなんとか階段を上っていく。スカートだったから、むき出しの膝で石段を上るのは結構痛い。今日はズボンにするべきだったな……。
それでもなんとか上まで登りきったが、既に膝は青く内出血していた。もう軽く触れるだけで痛みが走るほどだ。
「……ごめん、ここまで上がれれば大丈夫だから。何とか部屋まで行けるから」
捺は少しの間私を無言で見下ろしたあと、おもむろにしゃがみ込んで膝の下と脇に手を入れて持ち上げた。ひょいっといとも簡単に。これはもしや……お姫様だっこというやつでは!?
「な、捺!? いいよ……自分で行けるよ……」
捺は無言のまま、スタスタと廊下を歩いてく。決して軽い方ではないのに、私を持ち上げるほどの力があるとは意外だった。
視線を上げると、普段散々見慣れているはずの捺の顔がある。高い鼻と自然と整っている眉、長いまつ毛に吸い込まれそうな程大きな瞳。芸能人もモデルも叶わないくらいの二枚目と噂の、勉強も出来る現役大学生カメラマンだ。
……美枝達の言ってた事、少し理解できたかも。
真っ赤になった顔を、バレない様にぷいっと背けたのだった。
でも名残惜しいなぁ、充実したサービスに豪華な部屋。ずっと居たくなっちゃう。家に帰ればまた捺の小言が……まぁここでも散々あったんだけど。
今日は午前から雨が降るとの事で、空には分厚い雲が漂っている。今にも振り出しそうだ。
ま、お散歩は一昨日散々やって、お腹いっぱいだから良いんだけど。
「何処行こうかなー」
する事もなくなり、何となく家の中を歩き回っていた。もう散々見て回ったけど、こんなお屋敷に泊まれることなんてもう二度とないから、目に焼き付けておこうと思ったのだ。東側は全部見てしまったから、残るは西側だけ。って言っても、あるのはゲストルームと影が出てたリビングだけだけど。
結局この家で居無くなったっていう女の子は、何処に行っちゃったんだろう。本当の神隠しにあった子って、やっぱり死んじゃうのかな。
リビングに入って中を見る。これだけ豪華な物でも、誰も居ないと少し寂しい感じがするな。霊が居ないって分かった以上、築年数から考えてもこの家は取り壊しになると思うって真琴さんも言ってたし、家もちょっぴり寂しそうだ。
「……あれ? あんなとこ、部屋なんかあったっけ?」
視線を奥の通路側に向けた時、倉庫の隣にもう一つ扉が開いていた。外側に戸を開け、まるで招き入れるかのようにその口を開けていた。
好奇心が沸いてきた私は、そのまま駆け足で近付いて中を覗く。すると更に奥に、地下へと続く扉が、これまた大きく口を開けていた。
「え、まだ地下があったんだ。ここん家どれだけ地下があるのよ」
近付いて中を覗くと、ここは幸いにも作り付けの石階段だった。これなら崩れる事はないよね、相当な事が無い限りは。
「……中、何があるんだろ?」
目を細めて覗きこむも、自分が影になって良く見えない。やっぱり此処も地面むき出しの造りだったけど。昔はこれが普通だったのかな?
「あっ、なんだろ?」
暫く覗き込んでいると、奥の方にピンク色と白の布のような物が見えた。雑巾? 遠目から見ても、汚れている事は分かる。足元に気を付けながら中へ降りて、それに近付いていった時。
「わわっ……」
突然大きな揺れが襲って来た。え、地震!? やだやだ崩れたら完全に下敷きになるじゃん。急いで出なきゃ……揺れに耐えながら入口に引き返し始めた時、突如バタンという大きな音と共に視界が真っ暗になった。
「え、まさか扉閉まっちゃったの?」
幸い階段の目の前まで来ていたから、なんとか手探りで上る事は出来るけど……。真っ暗で揺れもある中で動くのはちょっと厳しい。何とか階段に捕まって、踏み止まっていた。
「あ、収まった……」
次第に揺れは収束し、何とか崩れないまま保つ事が出来た。興味本位で地下に入って下敷きになるなんて、そんなお間抜けな事は流石に避けたい。ひとまず安心して、階段を上って天井を上に押し上げた。
「……あ、あれ……?」
さっきまで軽く開いていた木の扉が、ガッチリと固定されたように動かない。なんで? どうして! 下から叩いてもびくともしない。
「まさか……さっきの地震で、何かが落ちて上を塞いじゃったとか? う、嘘! 誰か!」
声を張り上げるも、空しく土の壁に吸収されていく。やだっ開いてよ! 力を込めて扉を叩いた時。
「うわっ」
階段から足が滑り、勢いよく地面に叩きつけられた。階段に当たった腰が痛い、絶対痣になってる……。そう言えばあの階段、少し苔生してた、それに滑ったのかな。だけど、こんな事でめげてちゃだめ。どうにか脱出しないと。
手に着いた泥を払って立ち上がろうとした。
「痛っ! くぅ……」
右足にズキンと強い痛みが走る。恐る恐る触ってみると、熱を持ち腫れ上がっている。捻ったかな。でも真琴さんの方と違って階段だから、片足でもなんとか上がれる。そう思って左足を少し動かしたが、こっちも何だか違和感がある。足首が動かしにくい。
「まさか……」
触ってみると、こちらも熱を持って腫れ上がっている。
「両足とか……私どんだけ運動音痴なの」
がっくりと肩を落として、その場に座り込んだ。なんで一人で入っちゃったんだろう、このまま見つからなかったらどうしようとの不安があるのに、なんでか頭では捺に怒られるんだろうなと想像していた。
「そうだ、スマホ」
思い出してポケットを探ってみたが、何も入っていなかった。そう言えば荷造りの時バッグに入れちゃったんだった。
「はぁ。どうしよ」
最後の頼みの綱が無くなった私は、そのまま汚れる事も構わず地面に座っている事しか出来なかった。
やがてどれくらい経った頃か、外では雨が降り出したようだ。地下内の湿度が高くなっていき、濡れた土の匂いが強くなっていた。
「寒いなぁ。半袖にしたの間違いだったな」
上着を着て行くつもりだったので中は薄めでいいやと、時期には少し早い半袖を着ていたのだ。冷たい空気が容赦なく体温を奪っていき、肌には粟が立っている。さっきまで大声を出していた私に、この仕打ちは辛い。
この頃には既に目も慣れて来ていて、少しは視野が効くようになっていた。地下は大凡二メートルくらいの幅で、奥行きはもう少しあるみたい。棚や物も今はなく、だいぶ前から使われていないらしい。
その少し手前に、最初上で見た布が落ちていた。視界が効いてくると、どうもそれは子供用の服らしく、可愛らしいリボンが付いていた。
「なんでこんなとこに服が……でも、風邪ひくより良いよね」
体を倒して腕を伸ばす。何とか指先で服を掴み、それを引き寄せた。それと共にカラカラと乾いた木がぶつかり合うような音を連れ、何かが服にくっついてきた。
何だろう? それを拾い上げて、目の前に持ってくる。白っぽくて所々何かの乾いた跡が付いている。よく見ると、服が有った方にもまだいくつか残っている。その中で一際大きく丸い物がある。二つ開いた穴が、こちらをじっと見つめていた。
それには見覚えがある。散々理科室や教科書で見た事のあるものだったし。けど、実物を見たのは初めて、お父さんのお葬式で焼かれたものは見たことあるけど、手で触った事なんてない。それがここにある、小さな女の子の服と共に。
「ぁ……あ……」
分かった、分かってしまった。この服の持ち主、この物の正体。どこに消えてしまったのか、なんで行き止まりの通路で消えたのかが。
「っ……ひっ……」
声が上手く出てこない。服を持つ手がわなわなと震えて、持って居たくないのに逆に力がこもってしまう。いっその事大声を上げて叫びたいのに、喉の奥がきゅっと閉まって息も上手く出来ない。
歯は嚙合わせる事が出来ずに音を立て、涙がぽろぽろ零れ落ちる。体を虫が這いあがるように悪寒が上っては下りを繰り返し、段々頭が何も考えられなくなってきた。その時
「燈! 居るか!?」
いつの間にか開け放たれた頭上から、捺の言葉が聞こえる。視界の隅で見えたけれど、そっちに顔が向けられない。凍り付いたように体の関節が上手く動いてくれないのだ。
階段を駆け下りてくる足音がする。走って私の前に回り込むと、しゃがみ込んで顔を合わせてくれた。
「どうした……? 怪我はないか……?」
その酷く優しい物言いに、どうしたら良いのか分からなくてまた涙が出て来た。私、優しい捺なんて知らない、どうせならいつもみたいに怒ってくれれば、この震えも収まるのに。
「燈……」
心の中でそう言ったのに、捺は怒るどころか私の体を抱きしめた。ぎこちなく、糸でつるされたマペット人形のように、かくかくとした動きで。ただ黙って抱きしめている。
……温かい。冷え切っていた体に、捺の体温が入り込んでくる。捺の匂いって、太陽みたいだな……湿った土の匂いと太陽の匂い、雨上がりのお外だ……。
体が温まるにつれて震えは段々に収まってきた。
「……大丈夫か?」
「うん……」
本当に心配そうな捺を見上げて答える。笑みを作ったつもりなのに、捺のが移ったようで私までぎこちなくなる。
「捺、あれ……」
私は奥にある、子供サイズの骸を指さした。それから持っていた服も見せる。
「多分、神隠しにあった子じゃないかな……」
「そうだろうな……警察を呼ばなければだな。一先ずここを出よう」
「あ、待って!」
立ち上がって行ってしまいそうになった捺を呼び止める。
「両足くじいちゃって……何とか這って行くから、ゆっくり行って」
「両方とも?」
「うん、階段から落ちちゃって」
膝立をしながらなんとか階段を上っていく。スカートだったから、むき出しの膝で石段を上るのは結構痛い。今日はズボンにするべきだったな……。
それでもなんとか上まで登りきったが、既に膝は青く内出血していた。もう軽く触れるだけで痛みが走るほどだ。
「……ごめん、ここまで上がれれば大丈夫だから。何とか部屋まで行けるから」
捺は少しの間私を無言で見下ろしたあと、おもむろにしゃがみ込んで膝の下と脇に手を入れて持ち上げた。ひょいっといとも簡単に。これはもしや……お姫様だっこというやつでは!?
「な、捺!? いいよ……自分で行けるよ……」
捺は無言のまま、スタスタと廊下を歩いてく。決して軽い方ではないのに、私を持ち上げるほどの力があるとは意外だった。
視線を上げると、普段散々見慣れているはずの捺の顔がある。高い鼻と自然と整っている眉、長いまつ毛に吸い込まれそうな程大きな瞳。芸能人もモデルも叶わないくらいの二枚目と噂の、勉強も出来る現役大学生カメラマンだ。
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