リヒャルドの白い襯衣(シャツ)

カゲリ

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8時

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 ラインハルトは、毎朝、僕を待っている。寮から学校まで、林を抜けるあいだ、僕たちは共に歩く。
 ラインハルトは大人しい少年だ。それに、僕に心酔している。
 その様はとても可愛らしく、だから、僕は朝のこの一刻(ひととき)が厭いぢゃない。
 「リヒャルト、髪に糸くずが。」
 ラインハルトは手を伸ばして、僕の髪に触れる。
 「ああ、ありがとう。」
 僕は何気なく云ったが、ラインハルトが離れないので不審に思って、ラインハルトを見遣った。
 ラインハルトは僕の髪に触れたまま、動きを止めていた。眸(ひとみ)が潤んでいた。僕の髪に触れている指が小刻みに震えている。
 「リヒャルト。あのさ、キスしてもいいかな。」
 僕は可笑しくなって、ラインハルトを見つめた。ラインハルトは真面目な顔をしていた。僕はその真摯さに感動した。
 ラインハルトは僕の髪に触れ、それに自分で吃驚する。そうして、僕に見惚れている。だから、キス。
 「いいよ。」
 僕はラインハルトの愛情に打たれながら、云った。
 眸(め)を閉じる。唇が塞がれる。
 遠慮がちに舌が差し入れられる。驚くほど熱い舌に僕も舌を絡める。
 キスが終わると、ラインハルトは殆ど涙ぐんでいた。
 何も云わずに歩き出す。頬が上気している。僕の顔は見られないらしい。その様子を僕は可愛らしく眺めた。
 ラインハルトは僕の方を見ずに――しかし全身全霊で僕を意識している――黙って歩いている。
 林を抜けると、学校だ。林が途切れそうになったところで、ラインハルトが思い切った調子で口にした。
 「あのね、リヒャルド、今夜は、」
 僕は警戒した。ラインハルトとの関係は、あくまで朝の一刻(ひととき)に留めておきたかった。
 「流星雨が見られるんだ。」
 流星雨は素敵だ。でも、ラインハルトと見る心算(つも)りはなかった。
 「そう。そんなことよりラインハルト、二人揃って遅刻はかっこ悪いよ」
 「あ、そうだね、」
 僕の言葉に生真面目な少年はもう一度盛大に頬を染めて慌てて僕を追いかけてくる。
 恋というのは可愛いものだ。本当に可愛らしい。
 ラインハルトは素敵だ。生真面目で純情で、云いたいことの半分も上手く云えない。なのに、変わらぬ熱を持って僕を毎朝迎えてくれる。それは僕にはわからないものだけれど、だからこそ、敬愛の情すら覚える。
 だけどそれこそが僕が人から魔性と呼ばれる所以なのだということも僕は知っている。こうやって人の視線や気持ちをくすぐることを本能的にやってしまうのだから僕は確かに悪魔なのだろう。 
 「もう、学校だね。それぢゃ、ラインハルト、僕は保健室に行くから。担任に伝えておいてくれる?」
 僕は早口になった。
 「う、うん。」
 何か云いたげだったラインハルトは、僕の様子に頷いた。
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