リヒャルドの白い襯衣(シャツ)

カゲリ

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8時

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 身支度を終えると朝食は抜きにして、僕は学校に行くことにした。朝食は寮の食堂(デリ)でも食べられるが、僕は大抵朝は抜く。
 ギムナジウム式のこの学校は全寮制の男子校だ。生徒は全員寮に住み、朝になると学校に通う。学校が終わると、生徒たちはまた寮に帰ってくる。
 学校に向かう途中にはちょっとした林がある。林を抜けながらいつもの場所に目をやる。木立ちの隙間で、銅色の髪の小柄な少年が佇んでいるだろう。。ラインハルト。 
 白樺のそこだけ少し密集した場所は、この閉じた世界での数少ない隠れ家であり、たいていは逢引や待ち伏せにつかわれる。そこにひっそりと佇んでいるもの静かな少年は、今日もいるだろうか。遅刻ギリギリになっても僕を待っているだろうか。僕の直感は少し視線を流しただけですぐに確信に変わる。恐ろしく目立たない少年の発する確かな熱がすぐに見て取れたからだ。僕はその熱を全身で感じながらある種の重々しい覚悟をもってそれを受け流して通り過ぎる。こちらから声をかけるなんてことは僕にはできない。この子の熱は何時も僕を怯ませる。僕はだから余計にこの子の前だと超然としてしまう。
  「おはよう、リヒャルト。」
 後ろから少年が声をかけてきた。僕は初めて気付いたかのように、ゆっくりと振り返る。
 「ああ、ラインハルト。君も遅刻組?」
 僕のちょっとした悪戯心に少年は早くも頬を赤くする。
 「いや、その、君がなかなか来ないから…どうしたのか…な、とお…」
 「ふうん?」
 「あ、いや、」
 ふふ、と僕は微笑を漏らした。それを見て少年がいっそううろたえるのが判る。愉しくなってきて、僕はどんどん悪乗りしてしまう。
 「もしかして待っててくれたの?」
 思わず首をかしげながらラインハルトの眸を覗き込んでしまう。少年の眸が揺れる。僕の視線に魅入られて、眸(め)を逸らしたいのに逸らせずに、揺れて惑う。僕はそれがとても美しいと思う。
 「やっぱりラインハルトは綺麗な眸をしてる。好きだよ。」
 僕は心からの調子で云って、少年の眸に映った自分を意識しながら、その像が完璧に蠱惑的になるように莞爾とする。
 「僕も。あ、えと、でも、僕なんか…君のほうがよっぽど…」
 言葉というのは不思議なものだ、と思いながら少年の告白の続きを聞かずに僕は歩き出す。
 この少年の熱と僕が加えるある種の色仕掛けによって生じる一瞬の揺らぎこそが美しい。僕が好きなのは単にその一瞬の揺らぎ。
 でも、ラインハルトの返答はどうだろう。この、永続し加速し揺れ動く熱。同じ<好き>という言葉、とても真摯な二つの言葉がここまで食い違っていても、表面上は会話が成立して僕らはその結果に満足できるのだから。
 少年は熱っぽい眸(め)で僕を見つめてくる。ラインハルトの眸に映った美しい少年が揺れる。
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