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29 ミリアーヌ
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--○○視点
「やっと抜け出して来ましたのに、ここはどこですの……?」
金髪を長く伸ばした少女は、キョロキョロと周囲を見渡していた。
背丈は150センチほど、体格の割に胸が大きく、悩ましいボディライン。
上等なフリルのドレスに身を包んだ姿は、その場に似つかわしくない。
今日は中央広場近くの人気のお店で、コロッケを食べるつもりだった……。
メルン亭には、実は何度も通っている。
新メニューの噂を聞き、居ても立っても居られず一人で抜け出してきたのだ。
途中、ちょっと脇道に入ったのが運の尽きだった……。
少し薄暗い道。
怖い雰囲気はないが、大通りへ戻る方向が分からなくなっていた。
突然、身体を掴まれる。
「きぃゃ……ぁ……」
叫ぼうとしたが、口を抑えられて声が出せない。
そのまま建物の陰に引き込まれた。
(口の拘束さえ解けば魔法が使えるはず……)
手足を暴れさせて何とか逃れようとするが、うまくいかない。
「お待ちなさい!」
遠くから声がした。
瑠璃色の髪に丈の短いローブを着た少女が駆け寄ってくる。
私より少し年上だろうか。あまり強そうではないが、短剣を持っている。
冒険者だろうか……。
少女は一瞬で、4人の男をねじ伏せてしまった。
(すごい、魔法と剣を同時に扱えるなんて!)
思わず見惚れてしまうが、今はその時じゃない。
(どうにかしませんと。
私がつかまっていては、あの方は攻撃できないはずですわ)
拘束を解こうと手足を動かそうとしていると、意外な言葉が聞こえた。
あの少女の声だ。
「ねぇ、あなた達、その子を誘拐するつもりなんでしょ。
私も連れて行かない?」
(何を言っているの……?
一緒に誘拐されようって言うの? おバカなの?)
目を丸くして少女を見る。
少女は自分の事を子爵家の一人娘と言っている。
作り話にしても、他に言いようがあるだろう。平民が貴族を名乗るのは大罪だ。
何か身分証を出した。
(あれは、確かに貴族家の身分証。本当に令嬢ですの?
でも、一緒に誘拐されるってどういう事ですの?)
訳が分からないまま見ていると、少女は近くまで寄って来る。
その時だった。
(はぁ!?)
少女の両手に短剣が現れた。
すばやく私の目の前に接近し、剣を振るってくる。
(ひぃっ!?)
一瞬目を瞑ってしまった。男の悲鳴と共に、拘束が緩む。
全身に力を入れると、腕を払い除けることが出来た。
目を開けると、少女は後ろから振り下ろされた剣を左手で防ぎつつ、私の横の男の胸を突いている。
「とりあえず逃げましょう!」
少女の声で我に返り、全力で走り出す。
つないでくれている手が、とても温かかった。
そう言えば、いつの間にか短剣が消えていた……。
手を引かれて走っていると、突然少女が崩れ落ちた。
(えっ?)
慌てて支えようとするものの、一緒に転んでしまう。
腹部を見ると、ナイフが刺さり、血が滲みだしていた。
何とか起き上がらせようと身体に手を伸ばすと、
「だめ、逃げて……」
悲痛な表情の少女が、私に逃げるように言ってくる。
(だめ、置いてなんて逃げられませんわ)
そう思っても身体が動かない。
足音に振り返ると、2人の男が迫ってきていた……。
(私があの2人を倒しますわ!)
魔法は得意である。
詠唱を始めようとした時、腕の中の少女の身体に魔力が溢れるのを感じた。
(な、何ですの……?)
次の瞬間、青白い炎が男たちを包み、炎が収まった時には何も残っていなかった。
(は! 逃げませんと。
大通りに出れば衛兵もいるでしょうし。
でも私……迷子でしたわ。困りました……)
気絶した少女、しかもナイフの刺さった身体を抱えて歩くことは出来ない。
かと言って、衛兵を呼びに行くにも、ここがどこだか分からない。
(仕方ありませんわね……)
「原始の炎よ、我に力を為せ、火壁」
ごごぉぉぉぉぉぉぉぉ
(これに誰か気付けば、衛兵が来るはずですわ。
それよりも……)
(まだ息はありますわね。今に衛兵が来ますから……。
すぐに治療しますから頑張ってくださいね)
少女の手を握ると、安静になるよう地面に寝転がせた。
(先ほどの身分証、あれだけは回収しておかないとですわ。
きっと何かご事情があるのでしょうから……)
後方に走り出し、身分証を探す。
少女によって投げられた場所に、身分証は落ちていた。
(アメイズ領のリフィーナ様……?
あれ……? 確か領主さまが盗賊に襲われて、ご息女が誘拐されたというのがアメイズ領だったような……)
そこに、複数の足音が聞こえてきた。
「衛兵だ! 何があった、全員動くな!」
「衛兵さん、こちらですわ。怪我していらっしゃいますの。
この方を王宮まで運んでください!
他に転がっているのは人攫いですわ。連行なさって!」
「は、はい、お、王宮ですか?」
「そうよ。急ぎなさい! わたくしは第三王女ミリアーヌ。
この方が死ぬようなことがあったら許しませんわよ!!」
「「「「「はは!!」」」」」
---
目覚めると、知らない天井だった。
(……天井じゃないわね、天国かしら……)
言って見たかったセリフを吐く間もなく、想定外の景色に驚くルリ。
(私……そうだ、ナイフが刺さって……そうか、天国ってことね……)
「お目覚めですね、お客様」
(ん? お客様? 今度の女神は……メイド仕様ですか……?)
振り向くと、メイド服の美女が私を見つめている。
「女神様……?」
「はい? 女神ではございませんよ。私は第三王女付きのメイドで、プリシラと申します」
「ん? 第三王女様???」
「はい、お客様。ここはクローム王宮。第三王女ミリアーヌ様の命によりあなた様の回復をお待ちしておりました」
周囲を見ると、豪華な調度品が置かれた部屋だった。
私は天蓋付きのベッドに寝かされていた。
(ああ、路地裏で助けたのが王女殿下だったって事ね。
そして、倒れた私を王女殿下が救ってくれたと……。
何と言う巡り合わせ……)
私が物思いにふけったのを見ると、メイドのプリシラは外に出て行った。
腹部の傷はキレイに治っている。
(それにしても、何でリミット解除されなかったのかしら……。
致命傷では無かったから?
それとも気を失ってる間に自動治癒発動したのかしら……。
そもそも、あの女神様がいい加減だからわかんなくなるのよね……!)
考えても仕方ないので思考を放棄して待っていると、ドアが開いた。
「お、目覚めましたわね!」
元気な声が聞こえ振り返ると、路地裏に居た少女が豪華なドレスを纏って現れた。
真っ直ぐにベッドの前まで来ると、ルリの耳元に顔を近づけて小さくささやく。
「……リフィーナさんとお呼びしたらいいかしら?」
「……え!?」
ぶんぶんと首を振るルリ。
「それと、王宮の治癒士が言ってたのだけど、ナイフを抜いて回復魔法を掛けたら異常な速さで治ったって。
心当たりはあるかしら?」
(あぁ、ナイフが抜けるのを待って自動治癒が掛かったのね……。
気を失っている間に……何て言えないわよね……)
「いえ、わかりません……」
「そう、まぁいいわ……」
いろいろと納得がいかない顔ではあるが、少女はゆっくりと話し出した。
「クローム王国第三王女、ミリアーヌと申しますわ。
危ない所でした。感謝いたしますわ!」
ルリは慌てて上体を起こし、立ち上がろうとする。
「そのままでよろしくてよ。命の恩人なのですから」
なんとか上体を起こし、ルリは首を下げた。
「冒険者のルリと申します。お、王女殿下においてはご機嫌麗しゅう……」
「あはは、何言ってるのよ。畏まった挨拶は無しでいいわ。
ある意味命の恩人同志、仲良くしましょ! お姉さま!」
王女殿下は気さくな方だった。
「はい。こちらこそ治療をしていただいたようで……。
本当にありがとうございました」
「ほら、硬くならないの。ルリ姉さま!
少しゆっくりなさってて。食事を準備しますわ。
お父さまとお母さまにも紹介したいですので……」
「おと、おか、あああ! それって……」
ルリは必至で首を振る。
「王と王妃ですわ。でも命の恩人を両親に紹介するのは当然ではございませんこと?」
「あわ、わわわわ」
言葉が出ないルリであった……。
しばらくすると、メイドのプリシラが呼びに来る。
「ルリ様、お食事の準備ができました。こちらにお越しください」
ぶんぶん首を振るルリに、
「あーなったミリアーヌ様は止められませんから。覚悟してください!」
プリシラに連れられ、王宮の豪華な廊下を歩き、ひときわ豪華な扉の前に立つ。
「ルリ様をお連れしました」
「入れ」
「さぁどうぞ。もう逃げられません」
プリシラの笑顔が笑ってない。
(ひっ)
諦めたルリは、慎重に部屋の中に入っていった。
そこは、映画を切り取ったかのような世界だった。
壁には絵画、金銀の調度品、中央には大理石のテーブルがあり、お皿が並んでいる。
テーブルの右側に、威風堂々という言葉が人化したような男性と、才色兼備が人になった女性が座っている。間違いなく国王と王妃だ。
国王の正面に第三王女、ミリアーヌが座っていた。
うろたえるルリを促し、プリシラがミリアーヌの隣の席に座らせる。
「はじめまして、冒険者のルリと申します……」
慌てて挨拶した。
「ルリと言ったな。緊張しなくていい。今日はただの食事だ、普段通りにしてくれ。
改めて、私がミリアーヌの父、レドワルドだ。娘を救ってくれたこと感謝する」
「ルリさん、私はヘンリエッタ。ミリアーヌの母よ。本当にありがとう」
気軽な食事と言ってくれはするが、緊張しないわけがない。
ミリアーヌが襲われた話に父母が激怒したり、王宮から抜け出したミリアーヌが叱られたりと、心臓をバクバクさせていたルリであった。
「ところでお母さま、ルリさんの事、見覚えありませんか?」
突然、ミリアーヌが爆弾を落とした。
(え? リフィーナの事?)
焦るルリをチラッとみると、ミリアーヌが続ける。
「以前、中央広場近くに食事に行きましたでしょ。お忍びで……」
ヘンリエッタがルリの顔をじっと見る。
ルリも気付いた。
「「あっ」」
「いつも御贔屓にありがとうございます。まさか王妃様とは!
気づかずに申し訳ございませんでした」
慌てて立ち上がり、頭を下げた。
変装がばれていない事に心をよくした王妃は得意げに胸を張っている。
「メルン亭のルリさんね! あの数々のメニューを開発したという……」
「しかし、そのお忍びの結果が今日だ。次からは護衛を連れて行くように」
「「……」」
国王の言葉に、黙って頷く王妃と王女だった。
「そうだわ、ルリさん。これも何かのご縁でしょう。
今度ここの料理人に、何か教えてくれないかしら?」
王妃の頼みを断れるわけがなく、後日料理人と共に登城することを約束する。
「わたくしからもお願いがありますわ」
便乗するかのように、ミリアーヌが国王を上目遣いで見ている。
「わたくしが王都に出る時など、ルリさんに護衛を依頼したいです!
兵士と一緒ではなく、同世代の女性と遊んでみたいのです」
ミリアーヌの言う事もわからなくはない。
それに、兵士の目を盗んで飛び出すような娘である。
王都に居る時だけでも、一見して護衛に見えない強者が近くにいてくれる事は悪い話ではない。
「そうだな、ルリ、お願いできるか」
断れるわけもなく返事をするが、1点問題があった。
「はい、もちろんお受けいたします。
ただ、申し訳ございません。私、来月から第2学園に入学することが決まっておりまして……」
「え? ルリ姉さま第2学園なのですか?」
「はい、ですので、授業の時間以外でしたら、いつでもお呼びください」
ミリアーヌは少し残念そうだが、
(あぶない、専属の護衛とかになっちゃう場面だったわ。危険回避成功!)
ルリは内心、ほっとしていた。
会食は終わり、プリシラの案内で王宮の外まで出て来ていた。
緊張のあまり、何を食べたかはほとんど覚えていない。
プリシラに礼を言い、その場を後にした。
(料理教えるのと、護衛があるから呼ばれたら来なきゃいけないわね。
うー王宮と近づいてしまうとは……)
本来ならば喜ぶべき大出世であるが、ルリにはそうでもなかった。
翌日。
メルン亭に着くと、料理長に王宮の話をした。
「「「「「はぁぁぁぁ?」」」」」
誘拐の話を端折ったため、街中で偶然王女と知り合って、王宮の料理人に料理を教える事になったという、荒唐無稽なストーリーに、聞いていた料理人全員から驚きの声が上がる。
それでも、嘘ではない。
「ちょ、商会長呼んでくるわ……」
結局商会長を含めての対策会議となった。
結論は簡単で、呼ばれたら料理長、ルリと、補助で料理人1名が伺う事になった。
初回は商会長も同席。料理以外の話や食材仕入れの話が出たら参戦する。
決め事としては、余計な欲は出さずに正直に対応することにした。
数日後、王宮に呼び出され、料理人一行が向かう。
さすがに王族は出てこなかった。
しかし仕入れの話は進み、商会は王宮と言う強力な取引先と繋がることになった。
さらに、何故か王宮の料理人の一人が研修の為メルン亭に来ることになる。
メルン亭は王宮と言うコネを得て、更なる発展を遂げるのであった。
「やっと抜け出して来ましたのに、ここはどこですの……?」
金髪を長く伸ばした少女は、キョロキョロと周囲を見渡していた。
背丈は150センチほど、体格の割に胸が大きく、悩ましいボディライン。
上等なフリルのドレスに身を包んだ姿は、その場に似つかわしくない。
今日は中央広場近くの人気のお店で、コロッケを食べるつもりだった……。
メルン亭には、実は何度も通っている。
新メニューの噂を聞き、居ても立っても居られず一人で抜け出してきたのだ。
途中、ちょっと脇道に入ったのが運の尽きだった……。
少し薄暗い道。
怖い雰囲気はないが、大通りへ戻る方向が分からなくなっていた。
突然、身体を掴まれる。
「きぃゃ……ぁ……」
叫ぼうとしたが、口を抑えられて声が出せない。
そのまま建物の陰に引き込まれた。
(口の拘束さえ解けば魔法が使えるはず……)
手足を暴れさせて何とか逃れようとするが、うまくいかない。
「お待ちなさい!」
遠くから声がした。
瑠璃色の髪に丈の短いローブを着た少女が駆け寄ってくる。
私より少し年上だろうか。あまり強そうではないが、短剣を持っている。
冒険者だろうか……。
少女は一瞬で、4人の男をねじ伏せてしまった。
(すごい、魔法と剣を同時に扱えるなんて!)
思わず見惚れてしまうが、今はその時じゃない。
(どうにかしませんと。
私がつかまっていては、あの方は攻撃できないはずですわ)
拘束を解こうと手足を動かそうとしていると、意外な言葉が聞こえた。
あの少女の声だ。
「ねぇ、あなた達、その子を誘拐するつもりなんでしょ。
私も連れて行かない?」
(何を言っているの……?
一緒に誘拐されようって言うの? おバカなの?)
目を丸くして少女を見る。
少女は自分の事を子爵家の一人娘と言っている。
作り話にしても、他に言いようがあるだろう。平民が貴族を名乗るのは大罪だ。
何か身分証を出した。
(あれは、確かに貴族家の身分証。本当に令嬢ですの?
でも、一緒に誘拐されるってどういう事ですの?)
訳が分からないまま見ていると、少女は近くまで寄って来る。
その時だった。
(はぁ!?)
少女の両手に短剣が現れた。
すばやく私の目の前に接近し、剣を振るってくる。
(ひぃっ!?)
一瞬目を瞑ってしまった。男の悲鳴と共に、拘束が緩む。
全身に力を入れると、腕を払い除けることが出来た。
目を開けると、少女は後ろから振り下ろされた剣を左手で防ぎつつ、私の横の男の胸を突いている。
「とりあえず逃げましょう!」
少女の声で我に返り、全力で走り出す。
つないでくれている手が、とても温かかった。
そう言えば、いつの間にか短剣が消えていた……。
手を引かれて走っていると、突然少女が崩れ落ちた。
(えっ?)
慌てて支えようとするものの、一緒に転んでしまう。
腹部を見ると、ナイフが刺さり、血が滲みだしていた。
何とか起き上がらせようと身体に手を伸ばすと、
「だめ、逃げて……」
悲痛な表情の少女が、私に逃げるように言ってくる。
(だめ、置いてなんて逃げられませんわ)
そう思っても身体が動かない。
足音に振り返ると、2人の男が迫ってきていた……。
(私があの2人を倒しますわ!)
魔法は得意である。
詠唱を始めようとした時、腕の中の少女の身体に魔力が溢れるのを感じた。
(な、何ですの……?)
次の瞬間、青白い炎が男たちを包み、炎が収まった時には何も残っていなかった。
(は! 逃げませんと。
大通りに出れば衛兵もいるでしょうし。
でも私……迷子でしたわ。困りました……)
気絶した少女、しかもナイフの刺さった身体を抱えて歩くことは出来ない。
かと言って、衛兵を呼びに行くにも、ここがどこだか分からない。
(仕方ありませんわね……)
「原始の炎よ、我に力を為せ、火壁」
ごごぉぉぉぉぉぉぉぉ
(これに誰か気付けば、衛兵が来るはずですわ。
それよりも……)
(まだ息はありますわね。今に衛兵が来ますから……。
すぐに治療しますから頑張ってくださいね)
少女の手を握ると、安静になるよう地面に寝転がせた。
(先ほどの身分証、あれだけは回収しておかないとですわ。
きっと何かご事情があるのでしょうから……)
後方に走り出し、身分証を探す。
少女によって投げられた場所に、身分証は落ちていた。
(アメイズ領のリフィーナ様……?
あれ……? 確か領主さまが盗賊に襲われて、ご息女が誘拐されたというのがアメイズ領だったような……)
そこに、複数の足音が聞こえてきた。
「衛兵だ! 何があった、全員動くな!」
「衛兵さん、こちらですわ。怪我していらっしゃいますの。
この方を王宮まで運んでください!
他に転がっているのは人攫いですわ。連行なさって!」
「は、はい、お、王宮ですか?」
「そうよ。急ぎなさい! わたくしは第三王女ミリアーヌ。
この方が死ぬようなことがあったら許しませんわよ!!」
「「「「「はは!!」」」」」
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目覚めると、知らない天井だった。
(……天井じゃないわね、天国かしら……)
言って見たかったセリフを吐く間もなく、想定外の景色に驚くルリ。
(私……そうだ、ナイフが刺さって……そうか、天国ってことね……)
「お目覚めですね、お客様」
(ん? お客様? 今度の女神は……メイド仕様ですか……?)
振り向くと、メイド服の美女が私を見つめている。
「女神様……?」
「はい? 女神ではございませんよ。私は第三王女付きのメイドで、プリシラと申します」
「ん? 第三王女様???」
「はい、お客様。ここはクローム王宮。第三王女ミリアーヌ様の命によりあなた様の回復をお待ちしておりました」
周囲を見ると、豪華な調度品が置かれた部屋だった。
私は天蓋付きのベッドに寝かされていた。
(ああ、路地裏で助けたのが王女殿下だったって事ね。
そして、倒れた私を王女殿下が救ってくれたと……。
何と言う巡り合わせ……)
私が物思いにふけったのを見ると、メイドのプリシラは外に出て行った。
腹部の傷はキレイに治っている。
(それにしても、何でリミット解除されなかったのかしら……。
致命傷では無かったから?
それとも気を失ってる間に自動治癒発動したのかしら……。
そもそも、あの女神様がいい加減だからわかんなくなるのよね……!)
考えても仕方ないので思考を放棄して待っていると、ドアが開いた。
「お、目覚めましたわね!」
元気な声が聞こえ振り返ると、路地裏に居た少女が豪華なドレスを纏って現れた。
真っ直ぐにベッドの前まで来ると、ルリの耳元に顔を近づけて小さくささやく。
「……リフィーナさんとお呼びしたらいいかしら?」
「……え!?」
ぶんぶんと首を振るルリ。
「それと、王宮の治癒士が言ってたのだけど、ナイフを抜いて回復魔法を掛けたら異常な速さで治ったって。
心当たりはあるかしら?」
(あぁ、ナイフが抜けるのを待って自動治癒が掛かったのね……。
気を失っている間に……何て言えないわよね……)
「いえ、わかりません……」
「そう、まぁいいわ……」
いろいろと納得がいかない顔ではあるが、少女はゆっくりと話し出した。
「クローム王国第三王女、ミリアーヌと申しますわ。
危ない所でした。感謝いたしますわ!」
ルリは慌てて上体を起こし、立ち上がろうとする。
「そのままでよろしくてよ。命の恩人なのですから」
なんとか上体を起こし、ルリは首を下げた。
「冒険者のルリと申します。お、王女殿下においてはご機嫌麗しゅう……」
「あはは、何言ってるのよ。畏まった挨拶は無しでいいわ。
ある意味命の恩人同志、仲良くしましょ! お姉さま!」
王女殿下は気さくな方だった。
「はい。こちらこそ治療をしていただいたようで……。
本当にありがとうございました」
「ほら、硬くならないの。ルリ姉さま!
少しゆっくりなさってて。食事を準備しますわ。
お父さまとお母さまにも紹介したいですので……」
「おと、おか、あああ! それって……」
ルリは必至で首を振る。
「王と王妃ですわ。でも命の恩人を両親に紹介するのは当然ではございませんこと?」
「あわ、わわわわ」
言葉が出ないルリであった……。
しばらくすると、メイドのプリシラが呼びに来る。
「ルリ様、お食事の準備ができました。こちらにお越しください」
ぶんぶん首を振るルリに、
「あーなったミリアーヌ様は止められませんから。覚悟してください!」
プリシラに連れられ、王宮の豪華な廊下を歩き、ひときわ豪華な扉の前に立つ。
「ルリ様をお連れしました」
「入れ」
「さぁどうぞ。もう逃げられません」
プリシラの笑顔が笑ってない。
(ひっ)
諦めたルリは、慎重に部屋の中に入っていった。
そこは、映画を切り取ったかのような世界だった。
壁には絵画、金銀の調度品、中央には大理石のテーブルがあり、お皿が並んでいる。
テーブルの右側に、威風堂々という言葉が人化したような男性と、才色兼備が人になった女性が座っている。間違いなく国王と王妃だ。
国王の正面に第三王女、ミリアーヌが座っていた。
うろたえるルリを促し、プリシラがミリアーヌの隣の席に座らせる。
「はじめまして、冒険者のルリと申します……」
慌てて挨拶した。
「ルリと言ったな。緊張しなくていい。今日はただの食事だ、普段通りにしてくれ。
改めて、私がミリアーヌの父、レドワルドだ。娘を救ってくれたこと感謝する」
「ルリさん、私はヘンリエッタ。ミリアーヌの母よ。本当にありがとう」
気軽な食事と言ってくれはするが、緊張しないわけがない。
ミリアーヌが襲われた話に父母が激怒したり、王宮から抜け出したミリアーヌが叱られたりと、心臓をバクバクさせていたルリであった。
「ところでお母さま、ルリさんの事、見覚えありませんか?」
突然、ミリアーヌが爆弾を落とした。
(え? リフィーナの事?)
焦るルリをチラッとみると、ミリアーヌが続ける。
「以前、中央広場近くに食事に行きましたでしょ。お忍びで……」
ヘンリエッタがルリの顔をじっと見る。
ルリも気付いた。
「「あっ」」
「いつも御贔屓にありがとうございます。まさか王妃様とは!
気づかずに申し訳ございませんでした」
慌てて立ち上がり、頭を下げた。
変装がばれていない事に心をよくした王妃は得意げに胸を張っている。
「メルン亭のルリさんね! あの数々のメニューを開発したという……」
「しかし、そのお忍びの結果が今日だ。次からは護衛を連れて行くように」
「「……」」
国王の言葉に、黙って頷く王妃と王女だった。
「そうだわ、ルリさん。これも何かのご縁でしょう。
今度ここの料理人に、何か教えてくれないかしら?」
王妃の頼みを断れるわけがなく、後日料理人と共に登城することを約束する。
「わたくしからもお願いがありますわ」
便乗するかのように、ミリアーヌが国王を上目遣いで見ている。
「わたくしが王都に出る時など、ルリさんに護衛を依頼したいです!
兵士と一緒ではなく、同世代の女性と遊んでみたいのです」
ミリアーヌの言う事もわからなくはない。
それに、兵士の目を盗んで飛び出すような娘である。
王都に居る時だけでも、一見して護衛に見えない強者が近くにいてくれる事は悪い話ではない。
「そうだな、ルリ、お願いできるか」
断れるわけもなく返事をするが、1点問題があった。
「はい、もちろんお受けいたします。
ただ、申し訳ございません。私、来月から第2学園に入学することが決まっておりまして……」
「え? ルリ姉さま第2学園なのですか?」
「はい、ですので、授業の時間以外でしたら、いつでもお呼びください」
ミリアーヌは少し残念そうだが、
(あぶない、専属の護衛とかになっちゃう場面だったわ。危険回避成功!)
ルリは内心、ほっとしていた。
会食は終わり、プリシラの案内で王宮の外まで出て来ていた。
緊張のあまり、何を食べたかはほとんど覚えていない。
プリシラに礼を言い、その場を後にした。
(料理教えるのと、護衛があるから呼ばれたら来なきゃいけないわね。
うー王宮と近づいてしまうとは……)
本来ならば喜ぶべき大出世であるが、ルリにはそうでもなかった。
翌日。
メルン亭に着くと、料理長に王宮の話をした。
「「「「「はぁぁぁぁ?」」」」」
誘拐の話を端折ったため、街中で偶然王女と知り合って、王宮の料理人に料理を教える事になったという、荒唐無稽なストーリーに、聞いていた料理人全員から驚きの声が上がる。
それでも、嘘ではない。
「ちょ、商会長呼んでくるわ……」
結局商会長を含めての対策会議となった。
結論は簡単で、呼ばれたら料理長、ルリと、補助で料理人1名が伺う事になった。
初回は商会長も同席。料理以外の話や食材仕入れの話が出たら参戦する。
決め事としては、余計な欲は出さずに正直に対応することにした。
数日後、王宮に呼び出され、料理人一行が向かう。
さすがに王族は出てこなかった。
しかし仕入れの話は進み、商会は王宮と言う強力な取引先と繋がることになった。
さらに、何故か王宮の料理人の一人が研修の為メルン亭に来ることになる。
メルン亭は王宮と言うコネを得て、更なる発展を遂げるのであった。
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