転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり

文字の大きさ
88 / 190

88 野営の戦い

しおりを挟む
 村での宴会が終わり、もうお腹もいっぱいだ。
 ルリ達は出発する事となった。


「王女殿下、ありがとうございました」
「リフィーナ様、またいつでもいらっしゃってください」

 村人とは意気投合。惜しまれながらの旅立ちだ。
 馬車に乗り込み、別れの挨拶を行うと、数々のお礼の言葉が投げかけられる。

 結局、黒鳥(カラス)2体分の肉は販売、5体分を宴会で食べつくし、食べきれなかった3体分だけを持ち帰る事になる。
 ほぼ、無料で振舞った結果だ。……まぁ、仕方がない。

 領都に戻る御者ダニエルの馬車には、村長が乗り込む。
 冒険者ギルドで手続きをしてくれるとの事、気を良くした事で、すぐに対応をしてくれるらしい。

 2台の馬車は、森の細道を、ゆっくりと走り出した。




「村長さん、ダニエルさん、お世話になりました。私たちは、領内を見回る予定です。
 またどこかで、お会いしましょう」

 森を抜けると、村長、ダニエルと分かれ、ルリ達は北に向かう。
 最北の街、リバトー領との境目になるメルダムの街までは馬車で2日程度。
 軍事訓練までに領都に戻る必要があるが、まだ時間は十分ある。


「食肉の調達……討伐依頼もあるし、森からは離れないように進みましょう。
 セイラ、魔物がいたら教えてね」

「オーク肉とボア肉の調達よね。了解したわ!」

 魔物を見つけたら積極的に討伐。
 村や町があったら寄ってみる。

 当面の予定が決まり、全力で馬車を走らせる。
 村で予定以上に時間を使ってしまったので、少しでも先に進んでおきたかった。

 しかし、1時間ほど進んだ所で、日が暮れてしまう。
 その場で野営する事に決め、夕食にした。

 テントを取り出し、調理を始める。
 数時間前に焼き鳥を食べたばかりなので、軽く野菜のスープだけで済ませることにした。

 食後は入浴。
 野営だからと言って手は抜かない。
 大きな浴槽では無いので一人ずつにはなるが、順番に身体を清める。
 水の魔法を自在に操るルリ達であれば、風呂を沸かす事など造作もないのである。


「ラミア、いつも悪いけど、夜間の警戒、お願いね」
「うむ、汝らは気にせず休むがよい」

 野営時は、普通であれば順番に警戒を行う。
 街中とは違い、いつ魔物や盗賊が襲って来てもおかしくはない。

 しかし、『蛇女』であるラミアは、夜に寝るという事をしなくとも、特に問題は無いらしい。
 幻術の蛇を周囲に展開して警戒を行ってくれるので、ルリ達はぐっすりと眠ることが出来る。
 本当に便利な一行である。




「あっ、やばいかも……」
 もう寝ようかという時、セイラが声をあげた。

「ん? 魔物?」
「うん、でもここじゃない、私、ちょっと行ってくる」
「え? どこに? 何だか分かんないけど、一緒に行くよ!」


「ありがとう。100メートルの所に、護衛でついて来てる近衛兵がいるんだけど、魔物が一直線にそこに向かってる。1分以内に接敵するわ」

「急ぎましょ! みんな、行こう! セイラ案内して!」

 就寝前とは言え、野営時である。
 テントから飛び出し、すぐに走り始めた。



「ルリ! 敵の注意、こっちに引けるかしら?」

「分かった! みんな、目をつぶって! 音響閃光爆弾スタングレネード!」

 ぱっかーん

 激しい光と音の魔法。
 スパイ映画で見た爆弾を真似してみる。点灯ライトと火魔法の組み合わせだ。

(よし、始めて使ってみたけど上手く出来た。
 音響閃光爆弾スタングレネード、結構使えるかも!)

 護衛騎士に迫っていた魔物の動きが止まり、ルリ達に向き直る。
 同時に、闇の中に浮かび上がったのは、密集して防御の隊形をとる護衛騎士の姿。


『うぉおお、防御隊形、やり過ごすぞ!』
『隊長、あちらに灯りが!』
『何、新手か?』

 護衛騎士たちの緊迫した声。
 突然の魔物の接近、そして光と音に、驚き、戸惑っているのがわかる。


「うわ! やば! あの猪、デカい!」

 目の前に並ぶ魔物は、ゆうに5メートルを超えていた。
 猪の魔物は、大きくても3メートル程度なのが普通である。

(アメイズ領の西側には魔物が巨大化する何かがあるのかしら……?)
 昼間の黒鳥カラスといい、この辺りの森では巨大な魔物としか出会っていない。



「セイラ、今のうちに騎士さん達を安全な場所に。
 ルリはもう少し粘ってて!」

 メアリーからの指示が飛び、護衛騎士の元へ駆け寄るセイラ。
 ルリはいつも通り、敵の注目を引き付ける役だ。


「みんな、大丈夫? 怪我はない?
 開けた場所まで移動するわよ、ここに留まると戦闘が出来ないわ」

 護衛騎士の前に飛び出し、セイラが声を掛ける。

「セ……、セイラ様? 何でここに……。 我々が食い止めますので、早くお逃げください!」

「何言ってるのよ! 魔物との戦いなら私たちの方が上でしょ。私たちが助けに来たの、わかる?」

「いや……」

 護衛対象から救出されたのでは元も子もない。
 押し問答になる護衛騎士とセイラ。

「ごちゃごちゃ言ってないで、全員早く逃げるの! ついてきなさい!」

「「「ミ……ミリアーヌ様!!」」」

 一喝したのはミリアだ。誰が先だろうが逃げることに変わりはない。
 王女の声に、全員大人しくなる。



 ルリを残し、草原の方向に走る。
 野営は身が隠せる森寄りの場所を選ぶことが多いが、戦闘となると、森の木々は邪魔である。
 ミリアを先頭に、足元を点灯ライトで照らしながら、慎重に進んだ。

「ルリ、態勢が整ったら合図するわ。それまで耐えてね。
 逃げられるなら逃げてきてね。討伐は明日でもいいから!」

 魔物の鼻先に音響閃光爆弾スタングレネードを打ち込みながら、ルリも魔物と距離をとって闇に紛れる。
 そう、魔物を倒すのは今でなくてもいい。
 不利な暗闇での戦闘を、無理に行う必要はないのである。




 遠くの上空に、光の合図が見えた。
 ミリア達が無事に安全な場所に到着したらしい。

(……無理しなくていいわよね。猪……ついて来ないでよ)

 気配を消しながら、ミリア達の元への移動を開始するルリ。
 魔物の鋭い嗅覚の前では、相当に離れるまでは気が抜けない。


「ルリ、こっちこっち」
 無事にミリア達と合流する。

「猪は追って来なさそうね、ラミア達と合流しましょう」

 セイラの探知によれば、猪はまだ同じ場所にとどまっているらしい。
 ラミア達と合流した後、今後の方針も決める必要がある。

 ルリ達の野営地もすぐそこだ。猪に気付かれる可能性は高い。
 襲ってくるならば迎え撃つのだが、戦うのであれば、戦いやすい場所に野営地を移動した方が良い。



「リフィーナ様、ご無事でしたか! ピカピカ、ドカンドカンと音がしましたので、参戦するべきか考えあぐねておりました」

「アルナ、ただいま。全員無事よ。威嚇しただけだから、待機しておいてくれて正解。
 それで、護衛の騎士さん達も一緒だから、テントの準備いいかしら」

 メイド三姉妹やラミア、セイレンの安全を確かめると、連れて来た護衛の騎士たちの世話をお願いする。


「セイラ、猪の様子はどう?」

「うん、こっちに来る様子は無いわ。
 でも距離は100メートル強だから、いつ来てもおかしくない」

「かと言って、全員で移動したら気付かれる確率も上がるわよね……」

 難しい判断である。
 変に刺激すれば、猪が襲い掛かってくる可能性が高い。
 できれば、戦闘は明るくなってから行いたい。


「朝まで警戒し続けるのは面倒よ。いっそ、やっちゃった方が良いんじゃない?」

 こういう時のミリアは、積極的だ。
 日の出まではまだ8時間近くある。警戒し続けるのが大変という意見にも一理あった。

「私は賛成。照明弾で照らし続ければ、私たちの戦力なら負けることはないと思う」

 ルリも、緊張しながら寝るくらいなら、安心してからゆっくりしたい考えだ。
 2人がそう言うと、ノリのいい『ノブレス・エンジェルズ』のやる気に火が付いた。


「では、作戦を立てましょう。
 8体の猪が突進してくるでしょうから、初動が重要ですよ」

 メアリーの作戦に、皆が準備を始める。
 奇襲されないように、野営の撤収は静かに行い、戦闘態勢を整える事になった。

 セイラが警戒を行い、状況を随時報告。
 突進に備えて、ラミアの蛇の幻術、ミリアが防御魔法を待機。
 その間にルリは、メイド三姉妹と共に野営地を撤収する段取りだ。


「猪がこちらに気付いたら、数秒の間に突進してきます。
 相当な衝撃になりますので、とにかく全力で勢いを殺しましょう。
 動きさえ止めれば、あとは楽勝、全員でタコ殴りです!」

「「「「「わかった!」」」」」

 猪型の魔物が怖いのは、全力の突進だけである。
 5メートルを超える巨体の為、止めるのは容易ではないのであるが、止さえすればどうとでもなる。

 迎撃の準備は整った。
 静かに息をひそめ、猪が襲い掛かって来るのを待つ。



「あれ? このまま待ってるの? 朝まで襲ってこなかったらダメじゃん!」
「「「「「あ……」」」」」

 メアリー、痛恨の作戦ミスであった。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...