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185 暴走

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「「「獄炎の灼熱エクスプロージョン!!」」」

 魔導王国の導師シェラウドの起動した巨大ゴーレムに、ミリア、ルミナス、ルリの極大魔法が炸裂すると、巨大ゴーレムの上半身を吹き飛ばした。

「ま……まさか……。こんな事があるはず……」

 赤く染まった空をポカンと見つめ、言葉にならない声を発するシェラウド。
 英知の結集であろうが何であろうが、愛し子を相手に、成す術はない。


「ゴーレムの沈黙を確認」
「次、来るわよ!」

 メイド三姉妹のアルナとイルナが、可憐に舞いながら、残る2体のゴーレムを引き連れてくる。カタツムリ型とカメ型。防御力が高そうだ。


「リフィーナ様、凄い魔法でしたね! 残る2体、連れてまいりました」
「ありがとう。怪我はない?」

 2体とも動きが早い訳ではないので、スピードに長けたアルナとイルナにとって、避けるのは難しくない。

「大丈夫です。ただ、まだ全力ではないような気がします」

 ルリも同感だ。大砲のような筒が備わっているが、未だそこから何かが発射された事がない。
 それに、魔力を探知すると、内部で魔力が高まっている。

(必殺技みたいな、大きいのが来るかも……)

 きゅいぃぃぃぃん
 ずどおぉぉぉぉん

「危ない、絶対防御バリア!!!」

 必殺技の気配を感じ取った瞬間、案の定、大砲が放たれた。

(何? レーザービーム?)

 咄嗟に絶対防御バリアを張り、魔法を防いだルリ。
 ビームの様な魔法は、宙に弾かれ、雲を切り裂いた。


「シェラウド、どういうつもりですの? ルリが弾き返さなかったら、王都が消えてたわよ!」
「ぐはははは、知るか。もはや、抗う術はないのだ!!」
「く、狂ってる……」

 導師シェラウドは、明らかに正気を失っているようだ。
 ルリ達の殲滅、そして街の破壊に愉悦を感じている様にすら見える。


「第二射が来るまでに止めないと……」
「そうだね。ルリ、もう遠慮なしでいいわよ」

(とりあえず、足止めは出来るかしら……。絶対零度(アブソリュート)……)

 指先からピピッと魔法を放つと、2体のゴーレムを氷で包む。
 分厚い装甲を完全に凍らせるには時間が掛かるので、まずは大砲を封じる事が優先だ。

「もういいわ。終わらせましょう。総攻撃よ」
「待って、様子が変だわ……」
「さ……再生してる……?」

 倒したはずの巨大ゴーレムに、周囲の岩やがれきが集まっていた。
 もう2体のゴーレムも吸収しそうな動きだ。

(が、合体ロボ……?)


「ぐはははは、我がゴーレムは無敵だ。世界を焼き尽くすまで、決して止まる事はない!」

「な、なにを言ってるの? シェラウド、早く止めなさい、このままでは王都が……」

「もはや止まらん。止める術などないのだ。さぁゴーレムよ、思うがままに蹂躙するがよい!」

(それって……。制御不能ってことよね……)

 半壊した巨大ゴーレムであるが、核となる魔石は破壊されずに残ってしまったのであろう。
 しかも、シェラウドの言いようから察するに、核がある限り永遠に再生し、周囲を焼き尽くすらしい……。

「なんて化け物をつくったのよ……」

 核を破壊しなければ、この戦いは永遠に終わらない。
 放置すれば被害は増えるばかり。やる事はひとつしかなさそうだ。

「あの化け物の中にある魔石を壊せばいいのよね。単純明快でいいじゃない?」
「そうよ。何度でも切り刻んでやるわ!」

 再び戦闘態勢をとるルリ達。

「セイラ、それにアルナとイルナも一緒に来て! 核を探します!」
「待って、ルリは絶対防御バリアに集中して! 敵が無秩序に攻撃してくるとしたら、周囲が危険だわ」
「ルリ、核探しは任せて。ルリは、周囲に被害が出ないように迎撃に集中!」

 まずは核となる魔石の場所を探ろうと、魔力の流れを見ながら突撃しようとするが、メアリーに止められた。核探しはセイラ達に任せて、ルリは、高出力なビームが王都に被害をおよばさないように、絶対防御バリアで魔法を防ぐ事に集中することにする。

「さっきの魔法、もう一度いける?」
「「余裕ですわ!」」

 ミリアとルミナスには魔法の準備をしてもらい、核の場所の特定を待った。


 がきぃぃぃぃん
 シュシュシュ
 とおりゃぁぁぁぁ

 攻撃を捌きながら、巨大ゴーレムに近づき核の正確な位置を探ろうとするセイラ。


「見つけたわ! 人で言うとおへそのあたり! そこに魔力の流れの中心がある。きっと、核だわ!」
「「了解」」

「「獄炎の灼熱エクスプロージョン!!」」

 ミリアとルミナスの魔法が炸裂。
 急所だけあって防御も硬いようだが、ゴーレムの岩肌をえぐる。

「どう? 核の魔石、見える?」

「もう少し奥みたい。でも、場所は間違いないわ!」

 魔石が直接露出した訳ではないが、セイラが魔石の位置に間違いないと確信を告げる。

「ルリ、再生する前に凍らせて!」

「うん、絶対零度アブソリュート!!」

 街に被害が出ないようにと、四方八方に発射されるビームを絶対防御バリアで散らしていたルリが、メアリーの指示通りに、巨大ゴーレムの腹に空いた穴を氷で固めると、再生しかけていた穴が固定された。

「仕上げるわよ!」
「3人同時攻撃! いっちゃえ~!!」

「「「獄炎の灼熱エクスプロージョン!!!」」」

 本日3発目。天まで伸びる炎が、巨大ゴーレムを貫く。

「とぉりゃぁぁぁぁ」

 ガシュン

 腹を貫かれ、散らばる巨大ゴーレムの残骸に、セイラが飛び掛かった。

「打ち取ったり~!!」

 セイラが一刀両断したのは、空中に飛ばされた魔石。
 全力の身体強化で振るった剣が、50センチほどの大きな魔石を、真っ二つに切り裂いた。


「崩れるわよ。逃げて!」
「セイラ、ルリ、他にも魔石があったら回収! 絶対再生はさせないわよ!」

 ガタガタと轟音を響かせながら崩れる巨大ゴーレム。
 崩壊に巻き込まれないよう、距離をとる。

 セイラとルリは探知を行い、他の魔石を探した。

(核以外は壊すのもったいないわね。収納しちゃお……)

 大砲に使われていたと思われる魔石などは、せっかくなので保存しておく。高出力な魔法が出せる魔石だ。貴重なエネルギー源として使えるかもしれない。



「疲れたわね」
「思いっきり魔法使って気持ち良かったですわ」
「うん、楽しかったわ!」

 しっかり魔石を回収すると、残っているのはゴーレムの残骸……がれきの山だ。
 一部凍っている場所もある為、王宮前の広場には、氷山がそびえ立つようになっていた。


「ところでルミナス様、さっきの魔法、古代魔法って何ですか?」
「え? 知らないで使ってたの? 相変わらず謎だらけね、あなた達……。
 古から伝わる魔法、文献で残されているけど、再現できたのは数少ないわ」
「文献があるのですか?」
「えぇ、公聖教会の地下書庫に、少しだけね」

 なんと公聖教会の地下に、古代魔法の記述がある文献が残っているらしい。
 ルリとしては、すごく興味深いネタだ。

「それより、あなた達は? なぜ使えるの?」
「それは……。女神様の……」

 少し言葉を濁すルリ。一緒にユニコーンに会った中でもあり、今更女神の話を隠す間柄でもないが、外で話すのはためらわれた。

「あぁ、なるほどね。ちょっと想像できたけど、後でゆっくり聞かせてもらうわ。その時、古代魔法についても教えてあげる。
 今は、ここの処理が優先ね。シェラウドにはどんな罰を与えようかしら」

 込み入った話は後回しにして、この場の収拾が優先だ。
 大魔法の連発に、もはや正体を失った導師シェラウドを捕まえると、シェラウドは膝を付いて崩れ落ちた。


「アルナ、ミラージュ公爵に、戦闘終了を伝えてくれる?」

 アルナに指示を出し、避難しているミラージュ公爵たちを呼んでもらう。
 シェラウドの尋問を含め、王宮に入って仔細を話し合う必要がある。

「被害状況の把握も優先です。兵士には、この場の後処理をお願いしなくてはですね」

 導師シェラウドの陰謀を防いだルリ達。
 残骸の残る広場を後目に、王宮へ向かうべく、身なりを整えるのであった。
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