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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する
1)召喚儀式
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深夜の神殿は静寂に包まれていた。俺は息を殺し、床に刻まれた魔法陣に手を伸ばす。ほんの少し指先が震えた。大丈夫。文様に一本の線を書き足すだけだ。誰にも気づかれないように。
――それが俺の賭けだった――
だが、その賭けに至る話は、ひと月ほど前に始まる。
「瘴気がまた濃くなってきております!異世界人を呼ばねば、この国は瘴気に覆いつくされ、魔物や魔獣に食い尽くされますぞ!」
神官長のゲイル・ポルク・エグバードが貴族たちの不安を煽るように大声でまくしたてる。
「瘴気が濃くなり、黒い森が広がっているらしいな」
「異世界人召喚しかないだろう!」
「静かに!」
貴族たちが騒ぐ中、パン!パン!と俺は手を叩き、広間の目線をこちらに注目させる。
「王太子からの命が降りた。これより一月後に召喚の儀式を行う!」
出来ればやりたくなかったのだがな。俺も現状には危機感をいだいていた。
「さすがは王太子様じゃ。この世界を危惧されておられたのじゃな」
ゲイルがそのでっぷりした身体を揺らしながら、ぐふふふと笑う。
◇◆◇
神殿の白さは、俺を苛立たせる。白亜の殿堂と呼ばれるこの建物は、照りつける日差しにまばゆく輝く。巨大なアーチの天井、幾本もの石柱には勇者や神々のレリーフが刻まれ、権力の傲慢さを誇示している。
「まったく、神殿の権威を見せびらかしたいだけだろ。民の税金を吸い上げて豪華な祭壇を建てやがって」
俺は吐き捨て、召喚の儀式が行われる神殿へと足を踏み入れる。俺の名はエルシド・オウル・ブラッドフォード。この国の宰相だ。今日、俺は王宮の代理としてこの儀式を見届ける。だが、ただ見ているだけじゃない。これ以上神殿が力を握れば、王宮はただの飾りになる。それだけは阻止しなければならない。
神官長のゲイルが、脂ぎった笑みを浮かべて俺を迎える。
「ブラッドフォード卿。この神殿の白に、貴殿の銀髪はよく似合いますな。まるで聖画の神の使いですなぁ」
ゲイルの目が俺の顔を舐める様に這う。値踏みするような、粘つく視線が気持ち悪い。少年愛好者の噂も、宝石だらけの派手な服も、こいつの自堕落さを物語っているようだ。吐き気がする。
「それにしても見事な魔法陣だ」
俺は話題を変えるべく足元に広がる魔法陣に目をやる。
神官長が自慢げに鼻を膨らませる。
「そうなのです!この召喚魔法陣は、常人には書く事すら出来ないものなのですよ」
まあこれほどの魔法陣を一から描くのはかなりの精神力や神聖力が必要だろう。だが、問題は魔法陣ではない。聖魔法が使える光属性のチカラが必要なのだ。
「さあ、召喚の儀を始めましょうぞ」
神官長が俺を見て口の端をあげる。召喚に成功すればまた神殿の権威があがると思っているのだろう。
俺は内心で笑う。愚か者め。俺は昨夜、召喚の位置をずらした。ほんの少し、だがそれで十分だ。神殿の思惑を狂わせてやる。さあ、俺の細工はどんな結果をもたらすかな?
神官長と神官達が並ぶと仰々しい呪文を唱えだした。空気が震え、聖なる光が渦を巻く。白い光が魔法陣の中に注がれていく。ゲイルの額に汗が滲む。やはり神官長だけではチカラが足りぬか。バタバタと神官達が倒れていく。下手をすると神聖力だけでなく命さえも落とすこととなるらしい。
魔法陣から光が爆発する。だが――その光は魔法陣から外れ、突如曲がり、神殿の外へと突き抜けた。
「なっ?何故だ?なぜ外に?」
神官達が慌てふためく。
「神官長!どうしたのだ?まさか失敗したのではないだろうな?」
俺は更に追い打ちをかける様に彼らを叱咤した。
「これは、その……一時的な誤差にすぎぬ! すぐに異世界人を確保する!」
ゲイルは汗を拭いながら、強がるように声を張り上げる。
「何が起こったのか早く言え!」
「しょ、召喚は成功したのですが、何故かこの場ではなく外に招喚されたようで」
「なんだと!早く対象者を保護しないと!」
「わ、わかっておる!す、すぐに探すのだ!」
ゲイルめ、汗だくで転げ回れ。奴の失態がみられて俺の溜飲が下がる。今頃は部下たちが俺の指示した場所に向かっているだろう。
「よし。計画通りだ……」
だが、次の瞬間――
「み、見つかりましたー!神殿の入り口の前で倒れておられました!」
神官の叫び声が聞こえた。
「はあ?そんな馬鹿な!」
俺は思わず声を荒げたが、すぐに唇を噛む。落ち着け。魔法陣の細工は完璧だったはずだ。どこで計算が狂った? 何か見落としたか、それとも。
「何かが俺の計算を狂わせたか」
運ばれてきた少年は、黒髪に長い前髪。黒い上着には奇妙な金属の留め具がつき、見たこともない履き物を履いている。気を失っているのかぐったりとしていた。
「異世界人に違いなさそうだな」
「当たり前じゃ。この者は我が神殿の預かりとなる。その旨王宮の皆様にお伝えくださいませ。ふははは」
ちくしょう。何か邪魔だてが入ったとしか考えられない。それとも神聖力がない俺では無理があったのか?まあいい。次の手を考えるまでだ。これ以上ここにいても意味がない。王宮に報告に行かなければ。
神殿をでると、側近であるデニスが駆け寄ってきた。
「お疲れさまです。神殿から放たれた光が別れました。侍従たちのもとへ行かれますか?」
「光が別れただと?」
「はい。二つに分かれました。一つは神殿の前。一つはご指示があった森の中へと消えました」
「なるほど。……では俺は天気が良いから少し遠回りをして森を散策しながら帰る事にする」
「かしこまりました。では、散策には探し物が上手な者を追加させましょう」
「そうだな。珍しいモノがみつかるかもしれないからな」
「はい。確認されてから王宮に行かれた方がよろしいかと」
「ああ。報告はきっちりとしないといけないからな」
そうだ。神殿に気付かれぬように、動かなければ。早急にこちらの手の内に入れておきたい。
――それが俺の賭けだった――
だが、その賭けに至る話は、ひと月ほど前に始まる。
「瘴気がまた濃くなってきております!異世界人を呼ばねば、この国は瘴気に覆いつくされ、魔物や魔獣に食い尽くされますぞ!」
神官長のゲイル・ポルク・エグバードが貴族たちの不安を煽るように大声でまくしたてる。
「瘴気が濃くなり、黒い森が広がっているらしいな」
「異世界人召喚しかないだろう!」
「静かに!」
貴族たちが騒ぐ中、パン!パン!と俺は手を叩き、広間の目線をこちらに注目させる。
「王太子からの命が降りた。これより一月後に召喚の儀式を行う!」
出来ればやりたくなかったのだがな。俺も現状には危機感をいだいていた。
「さすがは王太子様じゃ。この世界を危惧されておられたのじゃな」
ゲイルがそのでっぷりした身体を揺らしながら、ぐふふふと笑う。
◇◆◇
神殿の白さは、俺を苛立たせる。白亜の殿堂と呼ばれるこの建物は、照りつける日差しにまばゆく輝く。巨大なアーチの天井、幾本もの石柱には勇者や神々のレリーフが刻まれ、権力の傲慢さを誇示している。
「まったく、神殿の権威を見せびらかしたいだけだろ。民の税金を吸い上げて豪華な祭壇を建てやがって」
俺は吐き捨て、召喚の儀式が行われる神殿へと足を踏み入れる。俺の名はエルシド・オウル・ブラッドフォード。この国の宰相だ。今日、俺は王宮の代理としてこの儀式を見届ける。だが、ただ見ているだけじゃない。これ以上神殿が力を握れば、王宮はただの飾りになる。それだけは阻止しなければならない。
神官長のゲイルが、脂ぎった笑みを浮かべて俺を迎える。
「ブラッドフォード卿。この神殿の白に、貴殿の銀髪はよく似合いますな。まるで聖画の神の使いですなぁ」
ゲイルの目が俺の顔を舐める様に這う。値踏みするような、粘つく視線が気持ち悪い。少年愛好者の噂も、宝石だらけの派手な服も、こいつの自堕落さを物語っているようだ。吐き気がする。
「それにしても見事な魔法陣だ」
俺は話題を変えるべく足元に広がる魔法陣に目をやる。
神官長が自慢げに鼻を膨らませる。
「そうなのです!この召喚魔法陣は、常人には書く事すら出来ないものなのですよ」
まあこれほどの魔法陣を一から描くのはかなりの精神力や神聖力が必要だろう。だが、問題は魔法陣ではない。聖魔法が使える光属性のチカラが必要なのだ。
「さあ、召喚の儀を始めましょうぞ」
神官長が俺を見て口の端をあげる。召喚に成功すればまた神殿の権威があがると思っているのだろう。
俺は内心で笑う。愚か者め。俺は昨夜、召喚の位置をずらした。ほんの少し、だがそれで十分だ。神殿の思惑を狂わせてやる。さあ、俺の細工はどんな結果をもたらすかな?
神官長と神官達が並ぶと仰々しい呪文を唱えだした。空気が震え、聖なる光が渦を巻く。白い光が魔法陣の中に注がれていく。ゲイルの額に汗が滲む。やはり神官長だけではチカラが足りぬか。バタバタと神官達が倒れていく。下手をすると神聖力だけでなく命さえも落とすこととなるらしい。
魔法陣から光が爆発する。だが――その光は魔法陣から外れ、突如曲がり、神殿の外へと突き抜けた。
「なっ?何故だ?なぜ外に?」
神官達が慌てふためく。
「神官長!どうしたのだ?まさか失敗したのではないだろうな?」
俺は更に追い打ちをかける様に彼らを叱咤した。
「これは、その……一時的な誤差にすぎぬ! すぐに異世界人を確保する!」
ゲイルは汗を拭いながら、強がるように声を張り上げる。
「何が起こったのか早く言え!」
「しょ、召喚は成功したのですが、何故かこの場ではなく外に招喚されたようで」
「なんだと!早く対象者を保護しないと!」
「わ、わかっておる!す、すぐに探すのだ!」
ゲイルめ、汗だくで転げ回れ。奴の失態がみられて俺の溜飲が下がる。今頃は部下たちが俺の指示した場所に向かっているだろう。
「よし。計画通りだ……」
だが、次の瞬間――
「み、見つかりましたー!神殿の入り口の前で倒れておられました!」
神官の叫び声が聞こえた。
「はあ?そんな馬鹿な!」
俺は思わず声を荒げたが、すぐに唇を噛む。落ち着け。魔法陣の細工は完璧だったはずだ。どこで計算が狂った? 何か見落としたか、それとも。
「何かが俺の計算を狂わせたか」
運ばれてきた少年は、黒髪に長い前髪。黒い上着には奇妙な金属の留め具がつき、見たこともない履き物を履いている。気を失っているのかぐったりとしていた。
「異世界人に違いなさそうだな」
「当たり前じゃ。この者は我が神殿の預かりとなる。その旨王宮の皆様にお伝えくださいませ。ふははは」
ちくしょう。何か邪魔だてが入ったとしか考えられない。それとも神聖力がない俺では無理があったのか?まあいい。次の手を考えるまでだ。これ以上ここにいても意味がない。王宮に報告に行かなければ。
神殿をでると、側近であるデニスが駆け寄ってきた。
「お疲れさまです。神殿から放たれた光が別れました。侍従たちのもとへ行かれますか?」
「光が別れただと?」
「はい。二つに分かれました。一つは神殿の前。一つはご指示があった森の中へと消えました」
「なるほど。……では俺は天気が良いから少し遠回りをして森を散策しながら帰る事にする」
「かしこまりました。では、散策には探し物が上手な者を追加させましょう」
「そうだな。珍しいモノがみつかるかもしれないからな」
「はい。確認されてから王宮に行かれた方がよろしいかと」
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