妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 コルネリウス邸の茶室に、豪快な笑い声が響き渡る。

「笑いすぎですよヴァネッサさん!」

 そうたしなめる若い女性の肩もまた、笑いをこらえて小さく震えている。
 豪快に笑う女性はヴァネッサ。シャルロッテの双子の兄の一人、コンラートの妻だ。ふくよかな体を揺らし、柔らかそうな手でバシバシとテーブルを叩いている。
 次男のリーンハルトの妻、ブリュンヒルデは怒り笑いのような複雑な表情で口元を引き結んでいる。笑い転げるヴァネッサをなだめ、不機嫌に口をヘの字にして眉間にしわを寄せるシャルロッテのご機嫌取りにと忙しい。

「それにしても、こんなにおかしな話はないね! シャルロッテちゃんじゃ優秀な王妃になれないって言うなら、誰ならなれるんだって話さ」
「まあ、王子は……いや、王はロッテの功績を聞かされていなかったからな。誤解しても仕方がない部分はあるとは思うが……」

 王国騎士団北方方面団長としての立場から、コンラートが直属の上司であるクリストフェルをかばおうとするが、その語気は弱い。

「確かに、シャルロッテちゃんは可憐で弱弱しくて、風が吹いただけで倒れそうなほど儚く見えますが、少し話せば優秀さが分かるはずなんです! そんじょそこらの令嬢なんて足元にも及ばないくらい素晴らしいかただって、凡人でもわかるはずなんですよ! それなのにあの王子は本当……!」

 ブリュンヒルデが美しい顔に怒りをにじませてそう言い募る。
 シャルロッテが王子と婚約発表をしたときからの熱狂的なファンだと公言しているブリュンヒルデは、かなりの過激派だ。シャルロッテを崇拝するあまり、クリストフェルには手厳しいことをよく言っている。

「ヒルデ、あれ一応王になったから」
「リーンハルト、王をあれ扱いしない」

 コンラートにたしなめられ、リーンハルトがはいはいと投げやりに返事をする。
 弟もまた王国騎士団南方方面の団長なのだが、ブリュンヒルデと同じくらいのシャルロッテ教信者であるため、例え相手が王様で直属の上司であったとしてもクリストフェルには厳しい。
 言い合いをする二組の夫婦の間で、シャルロッテはほのかに湯気の立つ紅茶を一口飲むとため息をついた。
 婚約破棄で良いと言い放って王城を飛び出し、コルネリウス邸に舞い戻ってきたシャルロッテは、たまたま休暇で邸宅に来ていた兄夫婦に事の顛末を報告した。
 最初は婚約破棄の言葉に驚いた様子の四人だったが、詳しく説明しているうちにヴァネッサは笑い、ブリュンヒルデは笑いながらも怒り、兄二人は呆れかえった。

「そもそも、ロッティーが優秀さを隠していたのは、クリストフェル王子のためだったんだろ?」
「そうだ。婚約者であるロッテがあまりにも優秀すぎると、クリストフェル王子の立場がなくなるとかでな」

 双子が全く同じタイミングで、鼻で笑った。
 シャルロッテと同じプラチナブロンドの髪をもつ双子は、親しい友人ですら見間違うほどによく似ている。声質もそっくりで、多少硬いイントネーションをしているのがコンラート、柔らかく流れるように話すのがリーンハルトと言う違いしかない。
 幼い妹を混乱させないためにもと、兄弟はシャルロッテが生まれたときから呼び方を変えていた。ロッテと呼ぶのが兄のコンラートで、ロッティーと呼ぶのが弟のリーンハルトだ。
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