妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 酷く冷たい口調だった。パーシヴァルの青い瞳が、射貫くようにシャルロッテを見据える。

「もう一度申し上げます。王が頭を下げているのですよ。その意味を、シャルロッテ様ならご理解いただけますよね」

 王が直々に頼んでいるのだから折れろ。
 言葉の裏に隠された意味を察し反論しようとするが、パーシヴァルがシャルロッテの肩を掴むほうがはやかった。察しの悪い子供を諭すような眼差しで、シャルロッテの顔を覗き込む。

「良いですか、シャルロッテ様。王は我々のように賢い人間ではないのです」
「……はい?」

 予想もしていなかった言葉に、シャルロッテの頭がクエスチョンマークでいっぱいになる。

「我々のように賢い人間は、自然と首を垂れることが出来るのです。なにせ脳みそがぎっしり詰まっているので、重みに従って頭を前に倒せば下げることが出来るのです。しかし、王のように賢くない人間は、脳みそがスカスカなので頭が軽いのです! つまり、軽い頭を一生懸命下げなければいけないのです! 浮かび上がろうとする頭を、必死に! シャルロッテ様はこの血のにじむような王の努力を理解しておられない! 過小評価していらっしゃる!」

 熱っぽく演説しているが、内容は失礼極まりない。

「パーシヴァル、あなた……いつか不敬罪で捕まるわよ」
「お言葉ですがシャルロッテ様、私はいつも王を敬っております。先ほどは、単に事実を申し上げただけです。そうですよね、王?」

 話の矛先を向けられたクリストフェルが、数度瞬きをしてゆっくりと横に首を倒した。

「うん? ……うん。……う、うん……?」

 理解も納得も追いついていない様子だったが、パーシヴァルはそれを強引に承諾だと解釈すると、晴れやかな笑顔で「ね?」とシャルロッテに同意を求めた。
 シャルロッテは返事の代わりに小さくため息をつくと、先ほどとは別の痛みを感じる頭を押さえた。パーシヴァルと話すと、いつもこうだ。いつの間にか彼のペースに乗せられ、こちらのテンポが狂ってしまう。彼と意見があっているときは心強いのだが、そうでないときは厄介極まりなかった。
 飄々としてつかみどころがないという点で言えば、リーンハルトにとてもよく似ていた。相手の言葉を軽く受け流し、自分のペースに持っていくやり方は同じだが、パーシヴァルのそれはリーンハルトよりも計算されていた。表情や仕草をつぶさに観察し、最も効果的なタイミングで、口調で、表情で、最適な言葉を繰り出すのだ。
 例えば、冷酷な威圧をかけて相手を緊張させたのちに、全てをひっくり返すような演説をして脱力させるような。
 やられたと気付いたときにはもう遅い。すでにこの場の主導権は、パーシヴァルの手中にあった。正攻法の理詰めで考えることは得意なシャルロッテだったが、トリッキーな手法には弱かった。
 なんとかこちらのペースに戻さなければと頭をフル回転させているシャルロッテを、数歩離れたところからパーシヴァルが楽しそうに眺めている。余裕ぶった意地の悪い笑顔に、シャルロッテの思考が鈍る。これもすべて計算だと分かっているからこそ、冷静になるために視線をそらした。
 その先で、クリストフェルが混乱から立ち直り、こちらに近づいて来ているのが映った。

「シャルロッテ、僕は君が……」

 伸ばされた手が見える。婚約者に触れる時に必ずしている白い手袋が、シャンデリアの光を受けて鮮明に浮かび上がる。少しの汚れもない、純白。

 別の宝物に触れたかもしれない、白。

 カっと、頭に血が上る。考えるよりも先に、体が動いた。クリストフェルの手が触れる前に振り払う。
 高らかな音が、茶室に響いた。
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