妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

文字の大きさ
37 / 82

37

しおりを挟む
 勢い良く扉が開かれ、ハイデマリーとシルヴィが顔をのぞかせた。ワンテンポ遅れてクラリッサが加わり、アンバー、金、赤の六つの瞳がこちらに向けられる。

「良かった、無事だったのね! クリストフェルが帰ったのにパーシヴァルはいないし、誰も声をかけに来ないしで心配してたのよ!」

 ハイデマリーが駆け寄り、シャルロッテを抱きしめる。背の高い彼女の豊満な胸が、シャルロッテの顔を覆う。ギュムギュムと押し付けられ、息苦しさにもがく。

「まだ話が終わっていないためお声掛けしなかったのですが、ハイデマリー嬢はせっかちでいらっしゃる」
「王の付き人が王の婚約者と二人きりで何を話すことがあるって言うのよ」
「クリストフェル王は無事に帰ってましたか?」
「無事の意味が分からないけど、コルネリウス邸から馬車に乗ったところは確認したわ。しょぼくれた犬みたいにトボトボ歩いてたわよ」

 ハイデマリーの手が緩み、やっとのことで解放されたシャルロッテが呼吸を整えると、眉をひそめた。

「あのね、マリー。もっとこう……王に対して敬意と言うか……」
「王への敬意はあるわよ。リーデルシュタイン王国民なんですもの、当然でしょう?」

 何を当たり前のことをと言うようにハイデマリーが肩をすくめるが、すぐに険しい表情を浮かべるとシャルロッテを見下ろした。

「でも、クリストフェルは別よ。一応幼馴染だし、友達? だし、敬意なんてないわよ」
「クリストフェル様も王様も同じ人だけれど?」

 シャルロッテの疑問に、ハイデマリーはヤレヤレと言うように目を閉じて頭を振ると、答えを提示することなくパーシヴァルに目を向けた。

「それで、パーシヴァルはどうして残っているの? 乗ってきた馬車はもう帰ったわよ。あなたはどうやって帰るつもりなの? 徒歩?」
「まさか。ここから城までどれだけあるとお思いですか? それに、いくら比較的治安の良いリーデルシュタインと言えど、夜に一人で歩き回れるほどではありませんよ。私のように美しい人間は特に」

 優雅に胸元に手を当てて微笑むパーシヴァルだったが、同意の声はあがってこない。
 確かに自己申告の通りパーシヴァルは容姿端麗だが、王国内で彼のことを知らない者はいないだろう。彼が王の付き人で、あらゆる武術を体得しており、剣の腕も一流だということは全員が知っている。
 万が一、王国外のゴロツキが不運にも彼のことを知らずに喧嘩を売ったとしたならば、即座に地面と友達になることだろう。

「まあ、ヴィンと比べたらヴァルのほうがほんの少しだけ危険かもね」

 シルヴィがほんの少しと言いながら親指と人差し指を近づけるが、どう見てもくっついている。

「ヴィン? あぁ、メルヴィンのこと? まあ、あれと比べたらね。どこぞの伯爵家の双子と違って、性格はそっくりだけど見た目は全然違うものね」

 長い黒髪と海色の瞳を持つパーシヴァルは、身長が高く肩幅は広いものの、全体的なシルエットは細身だった。特に腰から脚にかけてのラインは女性のように細く、オウカ人のように華奢だった。
 彼の兄であるメルヴィンは、短い白髪と深紅の瞳を持っていた。弟同様身長は高いが、筋骨隆々だった。ガッシリとしたシルエットは、スーシェンテ人の体型によく似ていた。
 王の付き人の家系は他国の血も積極的に取り入れるため、時折このようなことがおきるのだ。
 見た目は正反対と言っても過言ではないほどに違う二人だったが、性格は酷似していた。ハイデマリーの言うとおり、見た目が瓜二つで性格が全く違うコルネリウス家の双子とは真逆だった。

「じゃあ、どうやって帰るのよ。また馬車が来るの?」

 ハイデマリーが詰問するのを聞きながら、シャルロッテはふとパーシヴァルの耳に光っていたピアスを思い出した。血のように赤いあの色は、メルヴィンの瞳の色ではないかと思い至ったのだ。

(パーシヴァルはメルヴィンを慕っていたから……)

 密かな兄弟愛に微笑ましさを覚えて目を細めるシャルロッテだったが、パーシヴァルのトンデモない一言で現実に引き戻された。

「帰りませんよ。しばらくの間、ここに住みますから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※第一章、十九話まで毎日朝8時10分頃投稿いたします。 その後、毎週月、水朝の8時、金夜の22時投稿します。 小説家になろう様でも掲載しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...