妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 勢い良く扉が開かれ、ハイデマリーとシルヴィが顔をのぞかせた。ワンテンポ遅れてクラリッサが加わり、アンバー、金、赤の六つの瞳がこちらに向けられる。

「良かった、無事だったのね! クリストフェルが帰ったのにパーシヴァルはいないし、誰も声をかけに来ないしで心配してたのよ!」

 ハイデマリーが駆け寄り、シャルロッテを抱きしめる。背の高い彼女の豊満な胸が、シャルロッテの顔を覆う。ギュムギュムと押し付けられ、息苦しさにもがく。

「まだ話が終わっていないためお声掛けしなかったのですが、ハイデマリー嬢はせっかちでいらっしゃる」
「王の付き人が王の婚約者と二人きりで何を話すことがあるって言うのよ」
「クリストフェル王は無事に帰ってましたか?」
「無事の意味が分からないけど、コルネリウス邸から馬車に乗ったところは確認したわ。しょぼくれた犬みたいにトボトボ歩いてたわよ」

 ハイデマリーの手が緩み、やっとのことで解放されたシャルロッテが呼吸を整えると、眉をひそめた。

「あのね、マリー。もっとこう……王に対して敬意と言うか……」
「王への敬意はあるわよ。リーデルシュタイン王国民なんですもの、当然でしょう?」

 何を当たり前のことをと言うようにハイデマリーが肩をすくめるが、すぐに険しい表情を浮かべるとシャルロッテを見下ろした。

「でも、クリストフェルは別よ。一応幼馴染だし、友達? だし、敬意なんてないわよ」
「クリストフェル様も王様も同じ人だけれど?」

 シャルロッテの疑問に、ハイデマリーはヤレヤレと言うように目を閉じて頭を振ると、答えを提示することなくパーシヴァルに目を向けた。

「それで、パーシヴァルはどうして残っているの? 乗ってきた馬車はもう帰ったわよ。あなたはどうやって帰るつもりなの? 徒歩?」
「まさか。ここから城までどれだけあるとお思いですか? それに、いくら比較的治安の良いリーデルシュタインと言えど、夜に一人で歩き回れるほどではありませんよ。私のように美しい人間は特に」

 優雅に胸元に手を当てて微笑むパーシヴァルだったが、同意の声はあがってこない。
 確かに自己申告の通りパーシヴァルは容姿端麗だが、王国内で彼のことを知らない者はいないだろう。彼が王の付き人で、あらゆる武術を体得しており、剣の腕も一流だということは全員が知っている。
 万が一、王国外のゴロツキが不運にも彼のことを知らずに喧嘩を売ったとしたならば、即座に地面と友達になることだろう。

「まあ、ヴィンと比べたらヴァルのほうがほんの少しだけ危険かもね」

 シルヴィがほんの少しと言いながら親指と人差し指を近づけるが、どう見てもくっついている。

「ヴィン? あぁ、メルヴィンのこと? まあ、あれと比べたらね。どこぞの伯爵家の双子と違って、性格はそっくりだけど見た目は全然違うものね」

 長い黒髪と海色の瞳を持つパーシヴァルは、身長が高く肩幅は広いものの、全体的なシルエットは細身だった。特に腰から脚にかけてのラインは女性のように細く、オウカ人のように華奢だった。
 彼の兄であるメルヴィンは、短い白髪と深紅の瞳を持っていた。弟同様身長は高いが、筋骨隆々だった。ガッシリとしたシルエットは、スーシェンテ人の体型によく似ていた。
 王の付き人の家系は他国の血も積極的に取り入れるため、時折このようなことがおきるのだ。
 見た目は正反対と言っても過言ではないほどに違う二人だったが、性格は酷似していた。ハイデマリーの言うとおり、見た目が瓜二つで性格が全く違うコルネリウス家の双子とは真逆だった。

「じゃあ、どうやって帰るのよ。また馬車が来るの?」

 ハイデマリーが詰問するのを聞きながら、シャルロッテはふとパーシヴァルの耳に光っていたピアスを思い出した。血のように赤いあの色は、メルヴィンの瞳の色ではないかと思い至ったのだ。

(パーシヴァルはメルヴィンを慕っていたから……)

 密かな兄弟愛に微笑ましさを覚えて目を細めるシャルロッテだったが、パーシヴァルのトンデモない一言で現実に引き戻された。

「帰りませんよ。しばらくの間、ここに住みますから」
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