妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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「シルヴィ嬢、そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。あくまで監視は二の次で、最大の目的はシャルロッテ様のお知恵を拝借することですから」

 パーシヴァルが柔らかな口調でそう告げる。相手を安心させようと、最大限に甘い笑顔を浮かべ、意図的にゆっくりと話している。
 シルヴィの緊張が微かに緩和されるが、パーシヴァルの手の内を理解しているハイデマリーは面白くなさそうに眉間にしわを寄せていた。

「知恵を貸して、部屋まで貸して、シャルロッテに何の得があるのかしらね、それ」
「もちろん、タダで済まそうなどと思ってはいませんよ。それ相応の対価は支払うつもりです。客人ではないのですから、客室も不要です」
「あら? ならあなたはどこで寝泊まりするつもりなのかしら? 客室でないとするなら、ボジェクのところかしら?」
「ボジェク? 誰ですか、それ」
「黒髪の美しいかたよ。ね、シャルロッテ?」

 不意に話の矛先を向けられたシャルロッテが、曖昧に微笑みながら頷く。
 嘘は言っていないのだが、大分誤解を招く言い方だった。

「そんなかたがコルネリウス家にいらっしゃるんですか?」
「えぇ。今年でここに来て何年目かしら? 美しい見事な黒髪に、大きく魅力的な瞳、体はとても引き締まっていて、立っているだけでも目を引くのに、走っている姿はまさに芸術品としか言いようのない……」
「馬よ」

 ハイデマリーの話に聞き入っていたパーシヴァルが、シャルロッテの一言でカクリと脱力する。

「馬ですか!?」
「そうよ。ボジェクはコルネリウス家の馬よ。前に見せてもらったけれど、本当に美しい黒毛の牡馬だったわ」
「しかも牡馬……」
「なによ、牝馬だったら一緒に寝てたわけ?」

 汚らわしいとでも言いたげなハイデマリーの眼差しに、パーシヴァルが乾いた笑い声をあげる。

「使用人部屋で十分だと言いたかっただけなのですが……コルネリウス家の仕事も手伝うつもりでしたし。ベッドメイキング得意ですし」
「それ、メイドの仕事じゃない」
「似合うと思うんですよね、コルネリウス家のメイド服」
「はぁあ?」

 ハイデマリーとパーシヴァルが低次元の言い争いをしている間に、シルヴィの緊張は解けてしまったようだ。普段と変わらない笑顔で手を叩いて笑う様子に、シャルロッテはほっと安堵の息を吐いた。クラリッサも、今にも泣きそうだった表情が嘘のように、口元に手を当て、声を上げて笑っている。
 シャルロッテは賑やかな様子を見ながら、パーシヴァルをどの部屋に滞在させようか考えていた。
 当然、使用人部屋は論外だ。
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