妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

文字の大きさ
39 / 82

39

しおりを挟む
「シルヴィ嬢、そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。あくまで監視は二の次で、最大の目的はシャルロッテ様のお知恵を拝借することですから」

 パーシヴァルが柔らかな口調でそう告げる。相手を安心させようと、最大限に甘い笑顔を浮かべ、意図的にゆっくりと話している。
 シルヴィの緊張が微かに緩和されるが、パーシヴァルの手の内を理解しているハイデマリーは面白くなさそうに眉間にしわを寄せていた。

「知恵を貸して、部屋まで貸して、シャルロッテに何の得があるのかしらね、それ」
「もちろん、タダで済まそうなどと思ってはいませんよ。それ相応の対価は支払うつもりです。客人ではないのですから、客室も不要です」
「あら? ならあなたはどこで寝泊まりするつもりなのかしら? 客室でないとするなら、ボジェクのところかしら?」
「ボジェク? 誰ですか、それ」
「黒髪の美しいかたよ。ね、シャルロッテ?」

 不意に話の矛先を向けられたシャルロッテが、曖昧に微笑みながら頷く。
 嘘は言っていないのだが、大分誤解を招く言い方だった。

「そんなかたがコルネリウス家にいらっしゃるんですか?」
「えぇ。今年でここに来て何年目かしら? 美しい見事な黒髪に、大きく魅力的な瞳、体はとても引き締まっていて、立っているだけでも目を引くのに、走っている姿はまさに芸術品としか言いようのない……」
「馬よ」

 ハイデマリーの話に聞き入っていたパーシヴァルが、シャルロッテの一言でカクリと脱力する。

「馬ですか!?」
「そうよ。ボジェクはコルネリウス家の馬よ。前に見せてもらったけれど、本当に美しい黒毛の牡馬だったわ」
「しかも牡馬……」
「なによ、牝馬だったら一緒に寝てたわけ?」

 汚らわしいとでも言いたげなハイデマリーの眼差しに、パーシヴァルが乾いた笑い声をあげる。

「使用人部屋で十分だと言いたかっただけなのですが……コルネリウス家の仕事も手伝うつもりでしたし。ベッドメイキング得意ですし」
「それ、メイドの仕事じゃない」
「似合うと思うんですよね、コルネリウス家のメイド服」
「はぁあ?」

 ハイデマリーとパーシヴァルが低次元の言い争いをしている間に、シルヴィの緊張は解けてしまったようだ。普段と変わらない笑顔で手を叩いて笑う様子に、シャルロッテはほっと安堵の息を吐いた。クラリッサも、今にも泣きそうだった表情が嘘のように、口元に手を当て、声を上げて笑っている。
 シャルロッテは賑やかな様子を見ながら、パーシヴァルをどの部屋に滞在させようか考えていた。
 当然、使用人部屋は論外だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

処理中です...