妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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「ペルラさんは、ハイデマリーの心の支えだったの」

 シャルロッテが静かにそう言いながら、ランタンに火をともす。とうに夕日は沈み、煌々と輝く満月の光が柔らかく室内に侵入してきていた。

「彼女になら何でも言えたし、無理に気を張る必要がなかった。本来の自分でいることができたの」
「でも、彼女の死によって支えが失われてしまった」

 パーシヴァルがシャルロッテの手から魔法石とランタンを受け取り、室内に飾られたロウソクに火をともしていく。徐々に広がっていくオレンジ色の光が、部屋を隅々まで照らし出す。

「ペルラさんが亡くなった日、アーチボルトさんは遠くの訓練場にいたと聞いているわ。連絡が届くまでに時間がかかり、行き違いがあってさらに時間がかかり、最終的に伝わったのは夜遅くだった」

 急いで馬にまたがりロックウェル家に向かったアーチボルトだったが、到着したときには空が白み始めていた。

「もしもアーチボルトさんがもっと早くにハイデマリーのもとに駆け付けていたら。もしもあの日、ハイデマリーが別の場所にいて、ペルラさんの死に向き合う時間が短かったとしたなら、今とは違った結果になったかもしれないわね」

 けれど、そんなもしもは考えていても仕方がない。
 自宅にいたハイデマリーはペルラの死を知らされた直後から彼女の亡骸に寄り添い続け、アーチボルトは不幸な偶然から到着が遅れてしまった。
 ジっと一人でペルラの顔を見つめ続けたハイデマリーの心で、どんな葛藤があったのかは分からない。しかし、一人で考える時間が長すぎたことだけはわかる。
 ハイデマリーは心の安定を失い、駆け付けたアーチボルトを見ると顔を輝かせて言った。

「お父様、良かった! 来てくださったのね!」

 その時なぜ、アーチボルトが訂正しなかったのか、シャルロッテは何度か彼に問うたのだが、明確な答えが返ってくることはなかった。
 ただ、今までずっと妹の“強さ”に頼り切っていた兄が、今回ばかりは妹を守るために立ち上がったのかもしれない。そのためには、弱く守られてばかりだったアーチボルトでいることよりも、ロクに会ったことすらないながらも親であるロックウェル子爵でいるほうが理にかなっていたのだろう。
 あの時、もしもアーチボルトがハイデマリーの言葉を否定していたら、また違った今があったのかもしれない。しかし、その選択をした未来である今に、は分からない。

「ハイデマリーがお父様だとそう言うのなら、そうなのよ」

 愁いを帯びたシャルロッテのつぶやきが、夜の空気に溶けていく。
 パーシヴァルは最後のロウソクに火をつけながら、クリストフェル王がよく言っていた言葉を思い出していた。

「知りたいと願うものは、知ろうとしなければ知ることはできない。しかし、一度知ってしまったからには、知らなかったときに戻ることはできない」
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