妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 コンコンコンコンと軽いノックの音が響き、静かに涙を流していたエリザの肩が大きく震えた。


「エリザ嬢、シャルロッテ様、入ってもよろしいですか?」

「ちょっと待って」


 パーシヴァルの呼びかけにそう答えると、シャルロッテは素早く扉の前に立った。彼はこちらの承諾がない限り入ってこないのは分かっていたが、エリザを安心させるためにドアノブを抑える。

 エリザが一生懸命涙を拭いているが、真っ赤に濡れた目では泣いた事実を誤魔化すことができない。パーシヴァルならばシャルロッテが何も言うなとアイコンタクトを送れば従ってくれるだろうが、エリザの心情的に気まずさは残るだろう。

 シャルロッテはエリザに「ここは任せて」と小声で伝えると微笑んだ。


「ごめんなさいパーシヴァル、ちょっと扉から離れてくれるかしら」

「……わかりました」


 僅かに考え込むような間があったが、すぐにパーシヴァルは数歩離れたようだった。コツリと革靴が廊下を叩く音が聞こえ、シャルロッテは細く扉を開けると隙間から廊下へと滑り出た。

 パーシヴァルが何かを言う前に、唇の前に人差し指を立てる。何事かあったと悟った彼が、青い瞳をスッと細めるとチラリと扉に視線を向けた。


「エリザさんは気分がすぐれないようなの。少し休めば大丈夫と言うことなのだけれど、緊急事態かしら?」

「いえ、緊急と言えば緊急ですが、でも今すぐにというわけではなく……」

「何があったの?」

「実は……ダリミル様がお見えになっています」

「ダリ君が!?」


 扉の向こうでガタンと大きな音が聞こえてくる。どうやら慌てて立ち上がり、イスを倒してしまったようだ。続いて微かな悲鳴と、グラスが割れる音が響く。おそらく、動揺のあまりグラスを持っていたことを忘れて服にこぼし、ついでに手を滑らせて落としてしまったのだろう。

 不幸が連鎖したことを悟り、パーシヴァルが心配そうに眉根を寄せる。


「エリザ嬢、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「だ……大丈夫? 大丈夫……大丈夫、です? ……です!」


 明らかに大丈夫ではない様子にパーシヴァルが無言で首を振るが、シャルロッテも同じ気持ちだった。

 シャルロッテはパーシヴァルにこのまま待つように伝えると、出てきたときと同じように細く扉を開けて中に入った。果たして中の状況は、シャルロッテが想像したとおりだった。

 スカートを濡らしたエリザが素手でグラスの欠片を取ろうとしているのを止める。倒れていたイスを直し、欠片を踏まない位置に置くと座らせた。


「パーシヴァル、ダリミルさんがどんな用件で来られたのかは聞いているの?」


 扉越しに言葉を交わす。

 エリザの様子から、これが事前に約束された来訪でないことは分かっていた。


「特に用事があったわけではなく、近くに寄ったついでに来られたようです。シャルロッテ様がいらっしゃるならご挨拶をと」


 ダリミルはエリザとシエラの幼馴染のため、このように急に立ち寄ることもあるのだろう。


「エリザさん、この屋敷の中で最も信頼が置けるメイドのお名前をお伺いしても?」


 一瞬だけ不思議そうに首を傾げたエリザだったが、自身の惨状を思い出してシャルロッテの意図に気づくと、一人の少女の名前を挙げた。


「そのかたをすぐにお呼びしますので、落ち着いたらいらしてください」


 優しく肩を叩き、部屋を出る。シャルロッテはパーシヴァルに先ほど聞いたメイドを至急呼び寄せてほしいと頼むと、自身はダリミルが待つ部屋へと急いだ。
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