82 / 82
82
しおりを挟む
以前クラリッサに、どうやって魔法を使っているのかと尋ねたことがある。
その時彼女は考え込むように赤い瞳を虚空に向けた後で、ゆっくりと、しかし丁寧に説明してくれた。
魔法とは、簡単に言うと目に見えない不思議な存在、精霊との契約によって生み出される力なのだという。
精霊ごとに個別に定められている契約の手順を踏み、自身の力を媒体に強制的に履行させる。魔女の力が強い者ほど強い精霊と契約を結ぶことができ、それ相応の力を得ることができる。
「でも、力があっても相性って言うのがあってね。例えば氷の精霊と契約した魔女は、炎の精霊と契約を結ぶことは難しいの。契約の手順をきちんと踏むことができないって感じかな。もちろん、才能のある魔女なら相性の悪い精霊とも契約することが出来るんだけど、本当に稀なの」
基本的には一人の魔女につき、一人の精霊と契約を結ぶ。精霊一人一人に得意なことが違うのだが、魔女の力の大きさによって引き出せる能力の幅が広がる。
「同じ氷の精霊と契約したとしても、力の弱い魔女は片手に乗る程度の氷を生み出すのが精いっぱいでも、強い魔女は一つの都市を凍り付かせることが出来るの」
強い力ほど制御することが難しいのだが、魔女の力と制御の能力は決してイコールではない。強い力を制御しきれない魔女もおり、時々事故が起きていた。
「実は……リーデルシュタインを救った魔女も、力の制御がうまく出来ない未熟な魔女だったって聞いてるんだ……」
魔女たちは、能力が暴発するかもしれない少女一人をリーデルシュタインの危機に向かわせたのだ。万が一力を制御しきれずに王都が炎に包まれたとしてもかまわないと思っていたのかもしれない。
(でも、当然よね)
人々は、魔女とみれば誰彼構わず捕えた。片手に乗り切る程度の氷を作り出すことしかできない魔女であってもだ。その魔女が脅威となるかどうかなどどうでもよく、ただ魔女だからという理由だけで、何人もの命が奪われた。
どんな経緯があってリーデルシュタインに手を差し伸べたのかは分からないが、彼女たちができる最大限の譲歩が、制御の不完全な少女だったのだろう。
けれど少女は力を制御しきり、リーデルシュタインを救った。名乗ることもなく煙のように消えた彼女が、どんな気持ちだったのかは分からない。もしかしたら彼女も、親しい誰かを迫害により亡くしていたのかもしれないのだから。
「それで……こっちの魔女がどうやって魔法を使っているのかは分かったけれど、オウカはまた別の方法で魔法を使っているのよね?」
「うーん、実は私もちょっと聞いたくらいだから詳しくはないんだけどね」
クラリッサはそう断ってから、内緒話でもするように声を潜めた。
「オウカの魔女は、精霊と会話ができるらしいの」
その時彼女は考え込むように赤い瞳を虚空に向けた後で、ゆっくりと、しかし丁寧に説明してくれた。
魔法とは、簡単に言うと目に見えない不思議な存在、精霊との契約によって生み出される力なのだという。
精霊ごとに個別に定められている契約の手順を踏み、自身の力を媒体に強制的に履行させる。魔女の力が強い者ほど強い精霊と契約を結ぶことができ、それ相応の力を得ることができる。
「でも、力があっても相性って言うのがあってね。例えば氷の精霊と契約した魔女は、炎の精霊と契約を結ぶことは難しいの。契約の手順をきちんと踏むことができないって感じかな。もちろん、才能のある魔女なら相性の悪い精霊とも契約することが出来るんだけど、本当に稀なの」
基本的には一人の魔女につき、一人の精霊と契約を結ぶ。精霊一人一人に得意なことが違うのだが、魔女の力の大きさによって引き出せる能力の幅が広がる。
「同じ氷の精霊と契約したとしても、力の弱い魔女は片手に乗る程度の氷を生み出すのが精いっぱいでも、強い魔女は一つの都市を凍り付かせることが出来るの」
強い力ほど制御することが難しいのだが、魔女の力と制御の能力は決してイコールではない。強い力を制御しきれない魔女もおり、時々事故が起きていた。
「実は……リーデルシュタインを救った魔女も、力の制御がうまく出来ない未熟な魔女だったって聞いてるんだ……」
魔女たちは、能力が暴発するかもしれない少女一人をリーデルシュタインの危機に向かわせたのだ。万が一力を制御しきれずに王都が炎に包まれたとしてもかまわないと思っていたのかもしれない。
(でも、当然よね)
人々は、魔女とみれば誰彼構わず捕えた。片手に乗り切る程度の氷を作り出すことしかできない魔女であってもだ。その魔女が脅威となるかどうかなどどうでもよく、ただ魔女だからという理由だけで、何人もの命が奪われた。
どんな経緯があってリーデルシュタインに手を差し伸べたのかは分からないが、彼女たちができる最大限の譲歩が、制御の不完全な少女だったのだろう。
けれど少女は力を制御しきり、リーデルシュタインを救った。名乗ることもなく煙のように消えた彼女が、どんな気持ちだったのかは分からない。もしかしたら彼女も、親しい誰かを迫害により亡くしていたのかもしれないのだから。
「それで……こっちの魔女がどうやって魔法を使っているのかは分かったけれど、オウカはまた別の方法で魔法を使っているのよね?」
「うーん、実は私もちょっと聞いたくらいだから詳しくはないんだけどね」
クラリッサはそう断ってから、内緒話でもするように声を潜めた。
「オウカの魔女は、精霊と会話ができるらしいの」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※第一章、十九話まで毎日朝8時10分頃投稿いたします。
その後、毎週月、水朝の8時、金夜の22時投稿します。
小説家になろう様でも掲載しております。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる