妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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「よくお分かりになりましたね。あのソースの苦みや渋み、酸味から、雷龍桃だと言い当てられるとは……」
「実はオウカの商人から、不出来な雷龍桃……泥桃と呼ばれているんだけどね」

 ポカンとしたままこちらを見つめる三名に気づき、シャルロッテは以前オウカの商人から聞いた、雷龍桃が泥桃へと変わる理由を説明した。今年はオウカの天候が芳しくなかったため、生育不良の泥桃が大量にできてしまったと付け加える。

「その泥桃で困っているようだったので、うちの料理長とどうにか食べられないかと試行錯誤したのです。なので、味自体は知っていました」
「あぁ、泥桃をマールグリッドに売れば良いと助言したのはシャルロッテ様でしたか」
「いいえ、シルヴィがマールグリッドで使われているソースのことを思い出して、あそこでなら需要があるのではないかと。けれど、彼女も苦手な味だと言っていたのに、こんなに美味しくなるなんて」
「そこは、マールグリッドの料理人と一緒にリーデルシュタインの味覚に合うよう改良したんです。今後のためにも、他国の料理を取り入れることも大切ですから。……まぁ本当は、オウカの料理人を招いてオウカ料理を学びたいのですが……」
「ルーカス!」

 クリストフェルの鋭い声に、料理長ははっとした表情で背筋を正すと失言を憂うように眉根を寄せた後で、深く一礼をして口を閉ざした。
 気をきかせたメイドが料理長を調理場へと呼び、一言詫びると足早に出て行ってしまう。
 使用人の失言に関して、本来ならばマナーとして聞き流すべきだと心得ているシャルロッテだったが、オウカの一言を聞かなかったことにはできなかった。
 巨大な軍国に挟まれていながらも、現在リーデルシュタインが平和を享受している理由の一つに、オウカの存在がある。世界の貿易を握っているかの国がリーデルシュタインに友好的である以上、他国はそうやすやすと手を出せない。オウカの全権を握るオウカ王の機嫌を損ねては、大事な国内の産業を失うことになりかねない。

「オウカのかたが、リーデルシュタインにいらっしゃる予定があるんですか?」
「……予定はまだ確定していない。打診をされてはいるけれど、返事を保留している」
「それは何故とお聞きしても?」

 クリストフェルが困ったように俯き、サラダのお皿に残った葉の欠片をフォークの先で集めては小さく固めている。

(今までだって、オウカの貴族や王族が来訪したことはあった。その時の手順と変わりなくやれば良いだけなのにこれだけ渋ると言うことは、それなりに長い期間で、貴族以上のかた。……オウカ王族のどなたかが、一か月程度来訪する予定なのね。確かに、オウカ王族のかたをそれだけ長い間お預かりするのは大変だわ。けれど、それだけでクリストフェル様はこれほど悩まないと思うのよね)

 それなら、何をそこまでクリストフェルを悩ませているのか。
 もしかしたら、彼一人では決められない何かがあるのではないか。
 そこまで考えたとき、シャルロッテは一つの可能性に思い至り自身の胸元に手を当てた。

「私が関係していることですか?」

 クリストフェルの手がぴたりと止まり、十分に小さくまとめられた葉をつつく作業を止める。諦めたように微笑んでため息をついた後で、頷いた。

「スズラン姫が、一か月ほどリーデルシュタインに滞在したいと言っているらしいんだ。オウカ王から内々に打診が来ているんだけど、こちらでのお世話係としてシャルロッテとクラリッサを希望されていてね」

 ふいに上がったクラリッサの名前に、シャルロッテの脳裏に一瞬だけハテナマークが浮かんだが、すぐにスズランの特殊な力に思い至り納得した。
 スズランには、こちらで言う魔女と似たような能力があった。それも、ずば抜けて強い力が。
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