アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町

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第五部:「巡航戦艦インヴィンシブル」

第四十二話

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 宇宙暦SE四五二二年十月一日 標準時間一三二〇。



 スヴァローグ帝国のダジボーグ星系第五惑星サタナー付近において、帝国艦隊とアルビオン王国・ロンバルディア連合の連合艦隊が激突した。

 帝国艦隊に対し、連合艦隊は倍する戦力を持っていた。しかし、帝国艦隊は巨大ガス惑星サタナーの円環リングを利用した伏兵と、大規模なステルス機雷原により、連合艦隊を一時危機的な状況に陥らせることに成功する。

 一方、アルビオン王国のキャメロット第九艦隊はその状況を打破するため、機動力を生かして帝国艦隊の側面に出た。

 通常の艦隊戦では行うことがないような強引な機動であり、第九艦隊の防御力は著しく低下する。しかし、帝国艦隊は正面の大艦隊への対応に追われ、第九艦隊への対応が後手に回っていた。

 第九艦隊の司令官アデル・ハース大将は敵艦隊の後方を抜けながら敵に混乱を与え、ロンバルディア艦隊と合流した後、半包囲で攻撃を加えるという作戦を実行しようと考えていた。

 帝国艦隊でもその意図に気づいており、ステルスミサイルによる長距離攻撃で脆弱な後方に回られることを何とか食い止めている。

 ハースは力強く命令を発した。

「全艦最大加速で前進! 攻撃を加えつつ、敵の後方に抜けます!」

 この時、第九艦隊は艦隊全体では二十パーセント以上のダメージを受けていたが、主力となる巡航戦艦や重巡航艦に大きな損害はなく、最大加速で前進を開始する。

「ステルスミサイルはダジボーグ艦隊に打ち込んで混乱をもたらしなさい! スヴァローグ艦隊には主砲とカロネードで防御スクリーンに負荷を与えます。その後のことは“烈風ゲール”や“海賊の女首領パイレートクイーン”に任せましょう」

 烈風ゲールは第一艦隊司令官ジークフリード・エルフィンストーン大将の、海賊の女首領パイレートクイーンは第三艦隊のヴェロニカ・ドレイク大将のあだ名で、どちらもアルビオン軍の猛将として名高い提督たちだ。

 アルビオン艦隊本隊はダジボーグ星系のエネルギー供給プラントを破壊すべく、長距離攻撃に切り替えていた。帝国艦隊はプラントの防衛を放棄し、有人惑星ナグラーダに撤退すべくタイミングを計っていた。

 第九艦隊旗艦インヴィンシブル89の艦長クリフォード・コリングウッド大佐は戦闘指揮所CICで自艦の状況を冷静に分析していた。

(我が艦はまだ戦える。問題は防御スクリーンだな。幸い機関にダメージを受けていないから何とかなっているが、この状況が続くと危険だ。先ほどは運がよかったが、いつ大きな損傷を受けてもおかしくはない……)

 一度大型ミサイルの至近弾を受け、左舷側に損傷を受けている。また、敵戦艦の主砲の直撃も受けており、危険な状況であることに変わりはなかった。

 その時、CICのメインスクリーンが発光する。

「重巡航艦主砲直撃! スヴェトラーナ級です! 防御スクリーン負荷八十パーセント……七十……」

 敵の攻撃が熾烈になっていく。
 既に敵艦隊の後方に回り込んでおり、帝国軍としてもこれ以上深入りされることは戦いの帰趨を決めると考え、第九艦隊を殲滅に掛かっている。

 首席参謀レオノーラ・リンステッド大佐が「ステルスミサイル、全基発射してください」とハースに伝えた。リンステッドはダジボーグ艦隊に最大限の被害を与えるタイミングを計っていたのだ。
 それを受けたハースは特に確認することなく、

「全艦、ミサイル発射!」と鋭く命じた。

 その命令を受け、クリフォードもステルスミサイルの発射を命じる。

「スペクターミサイル発射。ミサイル班はカロネード班の支援に向かえ」

了解しました、艦長アイ・アイ・サー」と戦術士オスカー・ポートマン中佐が答え、更にミサイル班の掌砲手ガナーズメイトの「了解しました、艦長アイ・アイ・サー!」という了解の声がスピーカーを通じて聞こえてくる。

 インヴィンシブルのミサイル搭載数は八基であり、二連射分しかない。ミサイルを撃ち尽くしたため、調整が難しいレールキャノン、通称カロネードに向かわせたのだ。

 約四千隻の艦から二万基に及ぶステルスミサイルがダジボーグ艦隊に向けて発射された。
 しかし、第九艦隊はその結果を見ることなく、スヴァローグ艦隊に向かっていく。


 無理な艦隊機動で速度が上がったままの第九艦隊に対し、帝国艦隊は情け容赦ない砲撃を加えていく。

 惑星近傍などの星間物質濃度が高い場所での艦隊戦では、光速の一パーセント未満の速度で戦うことが一般的だ。
 速度が高いと星間物質が防御スクリーンにぶつかり、そのエネルギー分が負荷となるためだ。

 第九艦隊は元々巡航戦艦や巡航艦主体の防御力の低い艦で構成されている。それが光速の三パーセント強という高速で機動しており、防御スクリーンに大きな負荷が掛かった状態になり、通常なら処理できる小型艦の攻撃でも被害が出始めていた。

「このままでは敵艦隊の後方を抜ける前に艦隊が瓦解します。ご再考を」

 副参謀長のアルフォンス・ビュイック少将が艦隊の被害を示すデータと共にハースに進言する。

「このまま突っ切る方が安全です。下手な動きをして敵に付け入る隙を与えてはいけません」

「ならば、せめて旗艦を下げていただきたい。このままでは旗艦が沈められるのは時間の問題です。そうなった場合、艦隊全体が混乱し、全滅の可能性も出てきます」

「それもできないわ。旗艦が先頭にいてこそ、みんなは付いてきてくれるのです。クリフ、あなたの意見はどう?」

「正直に言えば下がるべきだと思いますが、最善を尽くすのみです」

 短くそれだけ返し、すぐに艦の指揮に集中する。

「議論の時間はないわ。リンステッド大佐、カロネード使用のタイミングはどうかしら?」

「三百秒後に左舷に十五度艦首を振り、そこで一斉発射します。更に加速し、戦場を離脱。このタイミングで散弾を放出すれば、敵艦隊だけでなく、エネルギー供給プラントにもダメージを与えることができます」

「つまり、避ければプラントに当たるから艦隊が盾にならないといけないということね」

「その通りです」

「それで行きましょう。では、この作戦プランを各戦隊司令部に送付してちょうだい」

 しかし、その作戦は使われることがなかった。
 送信直後、状況が一変する。

「スヴァローグ艦隊に動きあり! 我が方に艦首を向けました!」

 リューリク・カラエフ上級大将率いるスヴァローグ艦隊が第九艦隊に相対するよう艦首を向けた。ロンバルディア艦隊に完全に背を向ける形で、艦隊後方ではいくつもの爆発が確認できる。

「こちらを殲滅しながらナグラーダに逃げるつもりね。ダジボーグ艦隊も逃げるつもりだわ」

「まだステルス機雷を隠しているのでしょうか?」とリンステッドが質問する。

「それは分からないけど、何か罠があるのかもしれないわ。いいえ、もしかしたら罠はなくてブラフなのかもしれないけど……それでも私たちは前に進まないといけないわ。この速度ではすれ違うしかないのだから」

 スヴァローグ艦隊との距離も縮み、第九艦隊だけが孤立している状況だった。右舷側に舵を切って回避するしかない。

 敵の攻撃が激しくなり、防御スクリーンが何度も発光し、味方の艦が次々と爆発していった。
 ダジボーグ会戦は終結に向かっているが、第九艦隊は危機的状況に陥っていた。
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