スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら

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良かった

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 よかった。とても。
 
 マンガを借りたタイミングが週末ということもあったから。
 金曜、家に着いてから読み始めて。
 土曜日、日曜日。
 もちろんそればっかりしていたわけではないけど。
 三十冊の単行本を読み終える時間は確保できた。より正確に言うなら、読み始めたら止まらなくなってしまって、週末中に読み終えてしまった。

 カタちんが貸してくれた『君に届け』全三十巻。
 名作中の名作。高校生が主人公の青春恋愛漫画の代表作のひとつ。
 タイトルはもちろん、内容も知ってはいたが、前編をきちんと通しで読んだのは初めてだった。

 率直に言って、感動した。
 割と初っ端から何度も涙ぐんでしまうシーンがあり、それが終盤までずっと続いた。

 
 登場人物のすれ違いに。進捗の遅さに。やきもきする部分もあったけど、それも込みで、登場人物全員が、誰かを想い(恋愛ごとだけじゃなく)行動し発言し、その想いが交錯して織り込まれていく物語。
 
 そこにはエゴはあっても悪意はない。
 失敗やままならないことはあって、必ずしもみんながみんな手放しでハッピーな結末ではないかもしれないけれど、そこには希望がある。
 うまくいかない人がいれば切なくて悲しくて。
 がんばっている人は応援したくなって。
 うまくいった人には安堵と歓喜の情が沸いてくる。

 そんな気持ちを、ほぼすべての登場人物に抱くことができるなんて、そりゃあ名作と言われるわけだ。
 カタちんが激推しする理由もよくわかる。
 


 しかし、それにしても。

 物語の主人公たちと同じく高校生の立場のわたし。
 着いた席からいつもの教室を眺めてみる。
 
 視線の先には数人の男子。
 くだらないことを言って笑っている。
 主人公の女子が、男子特有のノリを眺めているなんて光景も、青春マンガ的と言えなくもないが。
 
(興田くんが、風早くんねぇ……)
 
 まあ、確かに整った顔立ちをしている。
 意外と睫毛が長いのも、男子なのに肌に透明感があるのも、ちょい色気あると思う。
 どちらかと言えば細面で、目は勝気な美少女みたいなアーモンド形。
 可愛いというよりは格好いいタイプだけど、笑顔が意外と無邪気で可愛い。こういうギャップが、「ズルい」ってやつだろうか。
 
 って、良いことばっかりかき集めてたら、ほんとにわたしがあの人のこと好きみたいじゃん。
 
 慌てて目線を外し、頭の中を占めていた興田くんへの分析評価を散らす。
 が、遅かった。
 
「おー、なによのんたろー。話加わりたいんならこっち来れば―?」
 
「えー、ゲームの話でしょー? わたしやってないしわかんないからいーよ」
 
「じゃあなんでこっち見てたんよ。お、もしかして俺見てた? え、気になっちゃう感じですかー?」
 
 ばっ! ……かじゃないの⁉
「ばーか。だるいってー」
 
 内心のリアクションは表に出さず、クールにさばく。過剰な反応は誤解を生むからね。


 ......いやいやいや、あのリアクションも、あれはあれで、それっぽいやりとりになってしまっていなかった?
 難しいなぁ。いろいろと。
 
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