スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら

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(片岡 貴波)



 にしても、やっぱ風早くんじゃないわ。風早くんはそんな自意識過剰じゃない。
 男子ノリを描いたシーンだって、もっとスポーツとか、ファッションとか、音楽とか、男子のタイプによってはグラビアとかアイドルとかもあり得るし、少し前の作品やちょっと不良っぽい男子なら車やバイクなんかもあるのかもしれないけど、いずれにしてももっと大人っぽい話題で盛り上がっているはずだ。
 
 まあ、現実なんてこんなもんよね。
 バイブルとまで言い切っていたカタちん。読み込み甘いんじゃないかなぁ?
 まあ、恋は盲目で? あばたもえくぼ? そして中学生の、今より少し幼いころに芽生えて育ててきた想いだから? 恋愛フィルターで五百パーセント増しくらいになっているのかもしれないけど。
 
 
 隣のクラスは物理的に近く、合同授業は一緒に受けるから、大抵顔くらいは把握しているし、話したことある人だって何人もいる。
 でも、先日のカタちんにボールぶつけられた件があるから、隣のクラスに顔を出すのはちょっと気まずい。
 あれはこっちは完全な被害者で、隣のクラスの人たちもわたしの方に同情的、クラスの仲間であるはずのカタちんに対してはちょっと引いたスタンスを取られていると聞いた。
 本来、わたしが気後れする必要はないのだが……。
 
 隣のクラスの扉の前で少し様子を見る。クラスの中をきょろきょろと覗き見るのも、扉付近でうろうろするのも、長時間は避けたい。誰かを捕まえて呼び出せば良いのだけれど、例の件はほぼ周知。
 
(わたしがカタちん呼び出したら、絶対シメるために呼び出したんだとか、そんな風に思われちゃうよねぇ……)
 
「あれ、どうしたの?」
 詮無い心配をしていたら後ろから声が欠けられた。
 
 振り向くと、見上げる位置に涼やかな目元を持つ凛然とした佳人の顔。
「大石さん」
 
 ちょっと助かったかも。
 大石さんなら、今のわたしたちの状況を隣のクラスでは最も正確に把握している。
 
「片岡を呼べば良いのね? 教材室の前で待っててもらえる? 行かせるよ」
 
 さすが大石さん。こっそり呼んだとしても、お互いのクラスの前だと、揉めた事象のみを知っているそれぞれのクラスの生徒たちに見られてしまってはざわつくだろう。かといって、誰にも見られないようにといかにも配慮したような、校舎裏や通常いかない階の階段の踊り場なんかでは、万が一見られた時に呼び出し感の印象が強すぎる。何事かが起こる(起こった)んじゃないかと、余計な想像力を掻き立てて、望まない噂が立つ可能性がある。
 同じ廊下の延長線上だけど数クラス分先にある位置の向かいにある教材室の前なら、居ても違和感はなく、両クラスの人たちに見られる率はぐっと減る。
 そもそも、説明が少々面倒という点でわたしとカタちんの関係性を、双方具体的に説明はしていない。
 余計なヘイトの発生は防ぎたいから、謝罪はした、されたということくらいはそれぞれ伝えていたが。
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