スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら

文字の大きさ
96 / 269

與田くんの恋

しおりを挟む

 男子と恋バナする機会なんて今まで意外となかった。
 グループで遊んでいる時でも男子同士の軽口で、「おまえ誰々系みたいなの好きだよなー」とか、「今すれ違った子かわいくね?」なんてやり取りはしていたし、「うちらいんのにこっち興味なしかよ!」なんて、女子側も乗っかったりはしていたが、「誰々が好きで~~」みたいな現在進行形の恋の悩みや、過去の恋愛話、割と本気めの恋愛観なんて話題はほとんどしたことがない。

 だから與田くんが初対面の頃抱いていた印象ほどにはチャラくないということも、少しずつはわかってきていたけれど、こうして直接考え方を言葉にされることで、改めて知れることがたくさんあった。

 與田くんの中学時代の恋愛事情の話が続いている。

 誰でも良いわけじゃなく誰もいなかったのなら、誰とも付き合わなかったことへの表現に、残念だったニュアンスを込める必要も、男子同士でつるんでいたことに後悔は無いと念を押す必要もないはずだ。
 
「好きな人はいたんだ?」
 
「んーーーーまあ、気になるのはいた……な。今になれば、それが好きだったかどうかもよくわかんないけどな」
 
 中学生の恋心なんて、そんなものだろう。
 誰よりも何よりも本気だなんて思っていたって秒で冷めることもあれば、まったく自覚もなかった気持ちが、後になって実はそれが恋だったと気づくなんてこともある。
 
「へえ。で、告白はしたの?」
「した」
 
 え? 嘘? それはちょっと意外!
 
「そして振られたよ」
 
「あ、そーなんだ」
 
 それはご愁傷さま、とまた茶化そうとしたが、驚きが続いてしまって瞬発力が鈍っている。語り口からして、過去のことと割り切っているように見える與田くんは、妙に深刻になるのは望んでいないと思えた。
 
「正確に言えば、告白すらさせてもらえなかったんだけどな」
 
 呼び出したものの、呼び出し場所に来てもらえなかったのだとか。指定時間から一時間半待って、諦めたんだと笑いながら言っている。
 モテ男が意外と切ない体験をしていたようだ。
 今笑いながら当時を語れるなら、それもまた中学時代の苦くも青春の思い出のひとつとして刻まれた、過去の出来事となっているのだろうか。
 
「まあ、当時の自分の気持ちも実際のところよくわかんなかったしな。『あいつおまえに気があるらしいよ』なんて周りのやつらに言われてその気になって、なんて部分もあったと思う。なんか小学生みたいだよな。今にして思えば、そんな状態で付き合わなくて良かったのかもしれないと思っているよ」
 
 幼い恋なんて、曖昧に始まってそこから育っていっても良いと思うけど。
 興田くんは、ちゃんと気持ちが固まっていないままで誰かの心に踏み込むことは、良しと思っていないようだ。

「......その告白しようとした相手なんだけどさ............」

 え、そんなことまで言ってくれるの?

「......あー......ごめん、言いかけておいてなんだよって感じだけど......」

「え、うん、良いよ? 言わなくて」

 與田くんの告白(しようとした)相手。
 その人のことをわたしが聞いても、わたしの側にはあまり意味がない。
 言うことで與田くんにとって何かが軽くなるとか、効果があるなら聴きたい。
 でも、無理をしなくてはならないのなら、それはしてほしくない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...