詩片の灯影② 〜過去から来た言葉と未来へ届ける言葉

桜のはなびら

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歯車

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 少しずつ、少しずつ。
 歯車は嚙み合い、回っていく。
 互いに関連して動作する仕組みがもたらす成果が誤りならば、その機構もまた誤りだ。
 しかし時に世の中では、誤った機構が組みあがってしまうことがある。
 
 
 圭吾は厚東真帆の抱える孤独と寂しさに寄り添い、解消したかった。
 それが、生徒の人生を預かる教師の役割のひとつと信じていた。

 圭吾は多数の生徒を同時に見る教師として、生徒ひとりひとりの事情を鑑みた固有の対応について、状況に依ってはすべきであるとしながらも、全体としてはなるべくは固有の対応が特別待遇とならないよう距離感と温度感の調整には神経を使っていたつもりだった。

 圭吾は真帆から向けられる信頼の念を自覚していた。
 それは、人間関係を構築し、相談を受け、必要に応じ慰め、回答を与え、対策を練る立場として、然るべきものと考えていた。

 圭吾は真帆の信頼の中に、敬慕の情が含まれていることに気が付いていた。
 それもまた、信頼関係を気付く中で、教師と生徒の関係性ならば当然の帰結として発生する情だと捉えていた。
 しかし、敬慕と思慕の間を殊更隔てるわかりやすく分厚い壁なんてないことも理解していた。その危うさも。

 圭吾はやましいことがない故に、真帆の求めには隠す必要もなく応じていた。
 しかしこれも当然の配慮として、内容がセンシティブなものであれば、周囲の目に触れない個室を利用することになる。
 その頻度が多く目立つようなら、傍目にどう映るかはある程度承知のうえで、そのリスクはケアすべき生徒への対応の下位に優先順位を据えた。

 圭吾は真帆の望みの中に、ある種の甘えと特別扱いへの酔い、そしてそれを吹聴したい承認欲求の根っこがあることを察していた。
 それはなるべく逸らして、あるべき形へと向かうよう導いてはいたが、子どもの純粋な欲望は純粋なままで叶えられなければ、いくら大人が見つけた落とし所に着々とできたとしても、子どもの中には不満は残るもの。
 わがままをわがままなまま成立させないことも、導き手の正しい立ち居振る舞いであると、圭吾は信じていたし、それは大人として正しかったのかもしれないが、真帆に残ったままの不満への妥協を強いた格好になっていた。その燻る不満が起こす波及効果へは考えが及ばなかった。


 圭吾はどれだけ気を付けても、それでも固有の対応はその他の者から見ればやはり特別になってしまうものだと認識していた。
 それによって生じる噂話等の副産物は、誠実でさえあれば解消できると自信があった。
 正しいことは正しく評価されるはずだという若さゆえの青さがあった。


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