詩片の灯影② 〜過去から来た言葉と未来へ届ける言葉

桜のはなびら

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そして、今

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 今でも思う。
 もっと良いやり方はあったはずだと。
 思い、考えて、仮にそれが過去に戻れない今に見つかったとしても、詮無いこととわかっていながら。
 

 過去の自分の行動に対する煩悶に、唯一の救いがあるとするなら。
 ある意味裏切ってしまった生徒から、後日手紙が届いたこと。
 そこに書かれていたものは、圭吾を罪から解き放つ言葉たちだった。

 圭吾が大切にし、その生徒もまた大切にしていた、言葉。

 生徒からの手紙に綴られていた言葉は、圭吾の思想や思考によく似た源泉を持っているように思えた。
 圭吾の想いが継がれ、その思いは生徒の中にも根付いているように思えたことが、圭吾を大いに安堵させた。
 
 唯一の心残りがあるとするなら。
 しかしその後の生徒が、本当の意味で救われたのか……。
 人生を助ける真の救いとは、きっと他者が手を引くことではない。
 他者の手を借りたとしても、最後の最後、人生を切り開くのは自らの手であること。
 その力を、生徒は圭吾の最後の教えから身に着けたのかどうかが、その手紙からはわからなかった。
 
 中途半端に手をかけてしまったが故の後悔は、圭吾の中で未だ燻り続けている。
 
 
 罪を抱えて生きることなど、それがどれだけ苦しかろうが贖罪でも何でもない。
 自己憐憫に身をやつしたところで、自らを慰めているに過ぎない。それでは誰も助からない。
 償いは、害為した相手に対して直接おこなわれなければ。赦しを以てでなければ。
 贖いは、為した罪を超える善行を以てしてでなければ。

 答えの出ない問答の迷路で圭吾は、長い夜を言葉と共に過ごした。



 
 翌日のいつもと同じ『幻影書房』の光景は、いつもと同じく時間がゆっくりと流れていた。
 あどけなさの残る少女が本を選んでいる。そのうち読書コーナーで読書にふけることだろう。この夏、『灯影書房』の中で定番化しつつある光景だ。
 
 昨晩久しぶりに過去に触れた圭吾はいささか感傷的で。
 寝不足の影響で少し鈍化した頭でいつもの景色をぼんやりと眺めながら。

 音にならない言葉と静かな時間が漂い、ゆっくりと流れている。
 その穏やかな午後のひと時を、圭吾は見つめていた。

 せめてこの光景を、好ましいと思ってくれる人がいるうちは、その人たちのためにもその光景を護っていこうと思った。

 それが、償いや贖いの一端になるとしたら、今の生き方にも、これからの人生にも、多少は意味を見出せると。
 
 
 その時、来客を報せる鐘の音が店内に響いた。
 なぜか圭吾は、始まりの鐘のようにその音を聴いていた。


 ~完~
 
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