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東風治樹

マランドロとは

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 さて。
 マランドロのイズムを宿したふたり。いや、俺を含めた三人の男性ダンサーは、日常もマランドロを意識した生活を送ることになる。


 俺の目的はサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』、通称『ソルエス』のパフォーマンスで、マランドロを中心としたマランドロショーを実施することだ。


 俺が先代から引き継ぎ代表を務める『ソルエス』は、商店街が発祥の趣味のサークルではあるが、創立時に日系ブラジル人の教えを受けた本格サンバを標榜する『エスコーラ』だ。
 エスコーラとは、要はサンバチームを表すポルトガル語だが、サンバの様式を満たしているチームが名乗る場合が多い。

『ソルエス』は、決して規模の大きいエスコーラではないが、本格サンバを名乗るにふさわしい実力を備えたダンサーや楽器奏者を有している。
 マランドロの拡充は、本格サンバたるパフォーマンスの、幅を押し広げることだろう。
 だが、それだけではない。


 東風治樹こちはるきとして、前院長から東風こちクリニックを受け継いだ二代目院長である俺。
 マランドロ・ハルとして、先代代表から『ソルエス』を引き継いだ二代目代表である俺。
 思うところがないわけではないが、それぞれ初代を意識しすぎることはなく、自然体でやっているつもりではある。

 それでも、どうしても何かの折に先代の影がチラつくことはある。先代だったならばと思うことはある。
 初代ではないことも、二代目であることも、変えることのできない事実だ。
 ならば俺は、受け継いだ偉大なものを、より雄大に、悠久に続いていくエスコーラにしていこう。


 マランドロの拡充は、単にパフォーマンスのバリエーションが増えるだけではない。
 マランドロの理念を携えた者がエスコーラに居ることでもたらされる精神性を、俺は大事にしたいと思っている。
 それは、エスコーラの軸に、パシスタを護り救け、弱者を擁護し、且つ生き様を魅せる在り様を通すことに繋がる。

 基礎は強く広大であるほどに、その上には大きな構造物が建てられるのだ。
『ソルエス』をより雄大に拡げようとするなら、必要なことだと思えた。

 それは、技術を習得する練習で身につけるものではない。
 日々の生活のなかで、そう在らんと意識をし続けることで自ずと成るものなのだ。

 さあ、心に灯そう。マランドロの火を。

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