ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら

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高天暁

新たに生き直すために

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 戻らないと決めた俺は、残したチームのメンバーのことを想った。
 大手メジャーデベロッパーのように、優秀層が集まったエリート集団ではないが、ユニークな個性を持ったメンバーが揃っていたのではないだろうか。

「猿渡は感度が良いから他社が見落としがちなチャンスを掴んでくると思うよ。人当たりは俺よりも良いし、すぐに俺よりも多くの案件を回せるようになるよ」

 お世辞やごまかしではない。本音だ。
 だから、大きい案件、とは言わなかった。
 それでも、この街に根付いてやるなら、一発の打ち上げ花火的な案件よりも、多くの案件を着実に納め続けていく方が、結果として会社にとって良い担当になると思えた。

「伊達さんが寂しがってるってのはイメージ湧かないが、彼女が新人の頃からの付き合いだからな。
彼女にとっては俺は同じチームで初めての退職者だ。それなりに思うところもあるのだろうが、今後もいくらでも起こることだ。慣れてもらうしか」

「伊達さん、最初は主事のことそっけなくて怖いって言ってたんですよ? それが最近じゃすっかり懐かれちゃってまあ」

「外出のたび奢ってやってたからだろ? 伊達さんにアポ取らせると必ず昼前か夕方にして、メシ行くか? って言わせるための動きをしてくるんだ」

 初めの頃は、ストレートに「お腹すきません?」だったのが、「この辺り、~~ってお店がテレビで特集されてましたよ」なんて変化球に変わり、最近は「ご指導いただきたく!」などと、どこで覚えたテクニックか知らないが、多分間違えた使い方で奢られる機会を創出していた。

「その状態が既に、懐いてるでしょうに」

 なぜ溜息をつかれる?

「でも、真面目な話、猿渡主任も伊達さんも、大上課長も私も、主事がいなくて困っているのは本当なんです」

 申し訳ないと思う気持ちはある。
 こなすだけで成立していた第一の仕事を己の都合で拡大したのは俺だ。その挙句、後は任せたと己の都合で辞めたのだから、残された者は堪らないよな。けれど。

「辞めたいほどの理由が会社にあるわけじゃ無いよ。でも、続ける理由がないのは、俺にとっては続けない理由に等しいんだ」
 理解できないかもしれないけど。


 俺と羽龍には、目的があった。そして、計画があった。

 まだ小学生だった俺たちは、信奉していた日系ブラジル人のサッカーの師を、この街の排他的な大人たちのせいで失ったと思っていた。
 その時に味わった絶望を、この街に復讐するという昏い情熱に変えた俺たちは、この街から少しでも旧い痕跡を取り除くことを目的とした計画を立てて、人生を進めてきた。

 長じるにつれ具体的になっていく計画は、やがて都市開発と市政に携わると言う着地点を見出した。
 羽龍は情報コンサルタントとして市政の案件を受注し、俺は長年この地に根付いていた地方デベロッパーの佐田都市開発に、希望の部門と職位で採用されるに至る。希望の部門と職位とは、もちろん、目的に沿う動きを直接実行できる立場だ。

 しかしその計画を進めていく中で、知らなかった事実を知ることになる。
 計画に盲進する心地良さに身を委ねていたがために、気づく機会を自ら放棄していたのかもしれない。


 その事実は、熱情を抱えるに至った、計画を企てるに至った、前提条件から覆すものだった。

 この街の旧い住人たちが師を追い出した背景に、佐田都市開発の影があった。
 住人たちの行為行動は事実としてあったが、別の側面を持っていたこともわかったし、その動き自体を佐田が煽っていたことがわかった。

 復讐の対象に据えていた者たちは、言うほど憎みやすい対象ではなかったことがわかった。

 視野の狭い子どもが感じた怒りに起因する計画は、見えていなかった部分を知ることで筋が通らなくなることがわかった。

 利用しているつもりでいた会社が、そもそもの根源であり、自らその尖兵に成り果てていた己の愚かさがわかった。


 辞める理由だと続ける理由だの言っているが、要は振り上げた拳の落とし所がないまま、それでも拳を上げたままでいるわけにもいかず、そっと無かったことにしたのだ。
 正直だいぶ恥ずかしい。

 仕事上は帳尻は合ったし、結果として会社にとっても市政にとっても地域にとっても、より良い着地にて、その件はいったん幕を閉じた。
 美しい着地を決めたまま、良い印象で身を引きたいと思うのは自然なことではないだろうか。

 佐田にいたら嫌でも、己の愚かな過去と向き合い続けなくてはならない。
 禊を済ませ、けじめをつけたなら、恥ずかしさなど背負って生きなくても許されるはず。
 俺が俺の人生を生き直すためにも、佐田から脱却する必要があるのだ。
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