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高天暁

提案

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 俺からの提案に八木さんは、少し嬉しそうな声を出し、すぐに声の調子を落とした。

「ホントですかっ? それは猿渡主任も喜ぶと思いますけど、でも、さすがにそこまでは......」

 八木さんでも遠慮するのか。
 まあ仕事の電話をかけることにも八木さん自身、本来は良いこととは思っていないだろう。俺が良いと言ったから必要に迫られれば連絡はしてくるが、内心は心苦しいのだと思う。八木さんは基本きっちりとしたタイプだから。

 確かに辞めた人間が無報酬でそこまでするのは異常かもしれない。
 マランドロの在り方を追求している身と言っても、行き過ぎであろう。本音で言えば、暇なのだ。そして、その店子の主張に興味がある。

 先ほど八木さんは店子の主張しそうなことを前以てアドバイスをと言っていたが、ちょっと思いつかない。
 主張など大体が条件だ。家賃、立地、テナントの環境や設備や広さや間取りなどなど、周辺環境、挙げればきりがないが、今回のケースは条件ではなさそうだ。
 となると、個人の持つ固有の考えや感情などに由来すると思われる。たとえば物件に思い入れがあるとか、その建物になにか隠しているものがある、とか。

 そんなもの予測できる範疇ではない。であれば、会話で引き出すしかないだろう。
 店子に権利があるとは言え、所有者のオーナー側にもやりようはある。いつまでも平行線ではいられない。いざとなれば手段はあるのだから、店子側としても妥協点は見つけないとならない。
 辞めた身だし、同じ業界に戻る気はあまりないが、元々携わっていた立場としては興味があった。
 暇と興味で、無給で辞める前にやっていた仕事をしようというのだから我ながら酔狂であることは認める。
 これはさっさと次の仕事を考えた方が良さそうだ。


 八木さんには率直に俺の思惑を伝えたら、しきりに恐縮しながらも、提案を受けてくれた。
 さっそく俺が動ける日を猿渡に伝えた。ほぼいつでも良いという格好悪いスケジュールではあるが。

 あとは猿渡が店子と面談の予定を作れたら、俺に直接連絡を入れてもらう手筈だ。
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