詩片の灯影④ 〜言葉と記憶を結ぶ場所〜

桜のはなびら

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歓談

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「まだ時間あるから、立ち位置と簡単な段取りの打ち合わせしとこ」
 紗杜から渡されたアイスを受け取り、きなみんとのんにお礼を言いながら、結は紗杜とバンドメンバーの輪に加わり、本番前の準備を進めた。
 
「結ちゃんて今年十六?」
「はい」
「あ、じゃああたしと一緒だ。誕生日何月?」
「十一月だけど......」
「おー、学年も一緒だー」
 嬉しそうなミャーに結は曖昧に笑ってみせた。
 結には、年齢や学年が一緒だと嬉しいという感覚がいまいちよくわからない。

「うちのチーム同じ年齢の子いないから、学校以外で友だち増えるの嬉しー」
 もう友だち扱いできるのかと、その感覚にも驚いた結。でも嫌な気持ちはしなかった。
「ミャーちゃんはどこに住んでるの?」

「千葉の方。のんちゃんも近いエリアだよ! アイちゃんも近かったはず。まー、あときなみんもそうだったかな。同じ県内なのに、こっち微妙に遠いんだよねー」

「そうなんだ。『ソルエス』の人たちはってみんなこっちの方に住んでるって思ってたよ」

「やっぱり多いけどね。でも意外と遠いところから来てる人もいるよー。埼玉は結構多いし、都内や茨城の人もいる! ここ出身だけど今は少し離れてる人もいるよ」
 結は嬉しそうに、やっくんは世田谷から来てるんだーとか、ジアンとミカは結婚して二人の職場に通いやすいところに住んでるけど、二人とも地元はこの町だったとか、結が知らない人物のことを話していた。

 結は驚いていた。『ソルエス』のメンバーが各地から集まっていることではなく、同い年の結が、同じチームのメンバーとは言えば、おそらく年上であろうメンバーたちとずいぶん親しげな様子だったことがだ。
 結には大人の知り合いなんていない。
 最近は圭吾や紗杜と話すようになっているが、それは大人と子どもの関係性だ。ミャーのように友だちのような関係性とはだいぶ異なる。

「すごいなぁ。ミャーって、紗杜さんのジルみたいなサンバ用の名前だよね? 猫好きなの?」

「あー、本名が美弥だから、ほぼそのままな感じにしたんだー」まあ猫好きだけどねとミャーは笑う。
 よく笑う子だなと、ミャーの明るい笑顔を見ながら、結はそんなミャーに好感を持ち、一方で羨ましくも思った。
 
(たいして暗い過去も重たい事情も持っていないくせに、笑顔がはっきりしない私は、性格が悪いのか、甘えているだけなのか)
 
 でも、そんな自分だから綴れる言葉があるはずだ。自分だからこそ、届けられる言葉も。
 
 そんな風に思えただけでも、結は自分が随分前向きになったものだと、その変化を良いものとして捉えていた。
 
 アイスを食べ、得たばかりの同い年の友人との会話を経て。今の結は程よい緊張感と落ち着きが同居している、集中力が最も効果的に発揮できる状態にあった。
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