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終章

まだそこにある熱の残り

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「ジルがさぁ、『浅草には魔物が棲んでるの』なんて真剣な顔して言ってたの。なにを甲子園みたいなこと言ってんだろとか思ってたけど、マジもんだったねー」

「るいぷるはいうほど緊張してなかった感じだし、パフォーマンスも良くできてたんじゃない?」

 瑠衣は類のハートの強さとパフォーマンスの安定感を素直に評価していた。

「いやー、ガクブルだったよ? るいぴパイセンには敵いませんわ」
 もうこれモンでさぁ、と手を震わせながら水の入ったコップを持ち、震えてしまって水が飲めないと言った動きをしている。

「もー、すぐふざける。わたしだって緊張したよ」

 瑠衣は特にペアでの演出部分が緊張したと言った。
 ペアと言ってもペアダンスと言うよりは振付をペアで揃える構成があった程度だったが、瑠衣は秘かに新たな課題を発見してしまっていた。

 これまで個としてのパフォーマンスを高めていた。グループで連携を取ることはあるが、個と個の技術を重ね合うもので、息は合わせる必要はあるものの、基本は個人技の延長線で対応してきた。
 今回もそれと大差のない構成であったのだが、暁と向き合ってから、手を取り合って前に進む部分がどうしても緊張してしまっていた。

 見た目上は特に問題は無く、パフォーマンスは恙無くこなせたが、サンバには『ガフェイラ』というペアダンスのジャンルがある。
 今後大人のダンサーとしてやっていくなら、ペアに苦手意識を持っている場合ではないと瑠衣は考えていた。

 
 三葉は瑠衣のストイックな決意を聞きながら、ペアが苦手ではなくて、異性を意識するようになっただけなのでは、と思ったが黙っていた。

 
「ハート強いって言えば、ルイが連れてきた同級生の子、あの子も舞台度胸あるわね」
 三葉が言ったのは、ゲストながらコーラスとして、台車のうえで注目を浴びながら五十分もの時間、声がブレることなく歌い切ったアリスンのことだ。歌い切るどころか、時間が経てば経つほど声が出てるようにさえ感じ、声が聴こえたダンサーをも奮い立たのだ。

 同じく瑠衣が連れてきた太郎と浩も大きなミスなくギターとキーボードを演奏し切っていて、『ソルエス』の楽曲に今までにない厚みを加え貢献していたが、演者としての度胸と言う点に於いては、あの環境で緊張や疲労の影響を受ける喉を開いたまま堂々と歌い切った彼女は、他のメンバーからもただ者ではないと評価されていた。

「あー、あの美少女! あれはえぐぅおまっせ!」

「えぐ? なに?」

「とんでもない、みたいな意味じゃない? るいぷるの言ってることいちいち気にしてちゃダメよ?」

「わかってるけど」
「ひど!」

 三葉の言葉に瑠衣と類の言葉が重なった。

「でもほんと凄かったよねー。あの美少女、あーりんだっけ?」

「アリスンだよ」

「じゃ、あーりんで良いんじゃん」

 瑠衣には何が良いのかわからなかったが、類は気にした様子は無く続けた。

「打ち上げでもみんなであーりんを囲んじゃって、加入させようと必死だったよね。
入ったらダンスもやってくれないかなー。あの容姿で羽根つけたらまんま天使じゃない? 男の子ふたりも勧誘されてたよね。みんな入らないかなぁ」

 類が楽しそうに、想像するように、言った。
 瑠衣は三人から、割と本気で入会したい気持ちがあることを聞かされていた。
 太郎と浩はバンドが第一義だが、バンドとして『ソルエス』で活動できたらと考えていた。
 アリスンは注目を浴びて歌ったのが快感だったらしく、ふたりよりも更に入会に乗り気だった。

 瑠衣は遅かれ早かれみんな入会してくれるのではと期待していた。
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