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十五歳 浅草サンバカーニバル

アリスンのこと

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「やっぱりみんな、いろいろあるよね」
 アリスンはぼそりとつぶやいた。
 顔をあげ、最後になっちゃったかーと笑うアリスン。

 次はわたしだね、とのんびり話し始めた。
 アリスンも家族の話をするようだ。


 アリスンのお父さんは、スウェーデンの家具職人だった。製造と卸しも販売もおこなうメーカーに入り、技術者として、設計者として、デザイナーとして活躍していた。
 アリスンのお父さんの出世に合わせるように、会社は規模を拡大し、世界に展開していく。

 その会社の最初の店舗が日本でオープンすることが決まった時、まだ幼かったアリスンを連れて、家族で渡日することにしたのだそうだ。

 お父さんの役割は、店舗を立ち上げ、軌道に乗るまで店長として店舗の管理をする。
 責任も難易度も高そうな仕事だ。
 会社は日本で複数店舗稼働させる目論見があった。
 店舗が軌道に乗ったら次の新規オープン店舗に赴き、また軌道に乗るまで舵を取るのだ。
 家族が離れると言う選択肢を持たなかった一家は、勤務地が変わるたびに引越した。
 定住のできない生活は、人間関係の醸成には向かない。
 幼い頃はまだ良かったが、小学校に入る頃になると、友達と仲良くなれた頃に引っ越すとという生活は、やはり少し寂しいと思うようになったと、相変わらずにこにこと言っているアリスン。
 その分、家族の絆は強かったと言っていた。
 固定できない人間関係は、アリスンのお母さんの日本語の上達の遅さにも影響を与えたが、他に寄る辺がないと言う要素も、家族間の結びつきを強めたのかもしれない。

 外部と積極的に関わる機会を失う代わりに得られた結びつきだから、手放しに喜べるものでもないのかもしれないけど、どんな時でも家族は掛け値なしの味方でいてくれると言う思いは、アリスンを勇気づけたのだと、誇らしく語っていた。

「家族がいてくれたら、どんなに辛いことがあったって、平気だって思えたんだ」

 アリスンの笑顔は、それが真実であることを証明するかのようだった。

 家族の絆について話し、自分がどれほど家族が好きで、誇りに思っているのかを照れもなく語るアリスンは眩しいくらいだ。

 アリスンもまた、有働くんや名波くんの、親との関係性に思うところがあって、伝えたい何かがあったのかな。
 ふたりは穏やかな表情だけど、わたしやアリスンの話を真剣に聞いてくれていた。
 届けたいと思っていたものが、少しでも届いていたら良いなと思った。
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