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本章

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 スルドの叩き方もなんとなく板についてきたなと思っているが、スルドは未だにチームのものを借りている。
 いつまでも借りているわけにもいかないから、バイト代で買おうと思っていた。
 大体五万円から十万円くらいだ。安くはないが、がんばればなんとか……。

 価格には差があるので、何がどう違うのか、どういうものを選べば良いのかキョウさんに相談してみよう。

 
 パート練習が終わり、合同練習に向けてダンサーの練習場に行ってセッティングなどの準備中に、キョウさんにスルドを買うならどこで買えば良いのか、どのようなものを買えば良いのかを尋ねてみた。
 
「スルド買うンか。悪くないが……スルドには種類と役割があることは言ってあったよナ?」
 
 最初に教えてもらった。
 スルドには最も低く強い音を出すプリメイラ、少し高い音を出すセグンダ、合間の音を担いフレーズに彩を、アンサンブルに厚みを与えるテルセイラ。

 セグンダが一泊目を担って口火を切り、プリメイラが全バテリア中最も低く強い音でベースをつくる。
 セグンダとプリメイラの軸となるリズムの合間に、スルドの中では最も軽い音のテルセイラがアレンジを加えていく。テルセイラはアドリブも許される。裏を返せば、アドリブ力が問われるとも言えた。
 
 音の高低と比例し、プリメイラが一番大きく、次がセグンダ、テルセイラはスルドの中では最も小さい。

「どのポジションやるか、決めてあるンか?」
 キョウさんに問われた。
 
 わたしは、プリメイラがやりたいと答えていた。


 スルドはバテリアの打楽器の中で最も大きい楽器だ。
 プリメイラはそのスルドの中でも一番大きい。大きさに比例して重量のある楽器でもある。それを肩から下げて演奏するのだから、演奏中はずっと重量が身体に掛かる。パレードなら、その状態で行進し、行進しながら演奏をすることになる。
 強く重い音を鳴らすときは、ヘッドをマレットで力強く打つ。

 持ち運びにも演奏にも、筋力と体力が必要だ。

 本当に大丈夫なのかとキョウさんは珍しく心配そうだ。
 確かにわたしは小柄な方だし、力が強いわけでもない。
 実際、練習でも通しでスルドを打っていると段々筋肉疲労で腕の感覚が無くなっていって、テンポをキープするだけでもしんどい。音はどんどん小さくなってしまっている。重さで肩が痛くなることもある。

 
 それでも。

 マレットを叩きつけるとき。
 低く強く重く大きな音を響かせたとき。
 放たれた音が大気と一緒にわたしの身体も震わせる。

 この感覚が、とても好きだった。
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