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本章

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 一通り挨拶を終えたわたしたちは先方の対岸に、相対す形で席についた。

 上座とか下座とかあると思うので一瞬わたついたが、祷に促され、祷が奥に座り穂積さん、わたし、柊の順で座った。
 安達さんは真ん中に座っているので、穂積さんとわたしの間の位置だ。正面に近い方がプレゼンしやすいという意図もあるのかもしれない。


 着席した頃に小さな紙コップを被せたペットボトルのお茶を安達さんとは別の社員の方が配布してくれた。
 祷がするのに倣って、自分の分として出されたタイミングに「ありがとうございます」と言いお辞儀をした。

 配られたお茶に、「どうぞ」と手で促し微笑む安達さんへ「いただきます」と返しボトルのキャップを開け、紙コップに注ぐ動きだけした祷は、ドリンクには口をつけず口火を切った。


「本日は御社がスポンサーになっておられる『阿波ゼルコーバ』のファン感謝イベントについてのご提案をお持ちいたしました」

 穂積さんが資料を配る。わたしと柊にも配ってくれた。一応わたしは台本の書き込みもある自分の資料も持ってきていた。

 受け取った安達さんは表紙を一枚めくっている。

「ファンの『阿波ゼルコーバ』へのロイヤルティを高めながら、御社の認知度も高め、御社の企業価値向上の一助になれたらと考えています。
『阿波ゼルコーバ』にとってはシンプルにファンの満足度の向上や新規ファンの獲得に繋げ、ファンビジネスの体質強化に寄与できるものと考えております」

 目的と受け手のメリットが明快な導入だ。
 姫田グループが出演料を負担するパターン、阿波ゼルコーバが予算を組むパターン、両方で折半するパターン、いずれにも対応できる可能性を残している。

 そもそもアポイントの段階で意図は伝わっているはず。安達さんは頷きながら次を待っていた。

「今年のファン感謝イベント内の一コンテンツとして、そして、ファン感謝イベント全体をより盛り上げるベースの機能として、企画提示させていただきます。
企画の軸にはサンバという文化を用いています。
サンバについてイメージはおありかと存じますが、実演にてどのようなものかをご理解いただければと考えていますので、そちらも是非お楽しみください」

「そのためのこの部屋ですからね。はい、楽しみにさせていただきます」

 紳士的な安達さんの回答に祷は笑顔で頷き、

「それでは、さっそく企画提示に入らせていただきます。プレゼンターは願子が務めます。
願子、どうぞ」

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