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本章

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 よく晴れていた。
 空気は軽く、日差しは暖かい。
 風はなく、吹いてもそよ風程度だ。

 外でパフォーマンスするのに最適な日だと思えた。
 この天気は終日維持されるとの予報だ。

 予報が当たると良いな。

 メンバーで一旦集まり、まとまって会場となるスタジアムに向かった。
 少し早めに到着できるよう余裕を持って移動した。担当の井村さんは既に現地にいて、『ソルエス』を迎えてくれた。現場の指揮を直接執るのはディレクターだからか、井村さんは比較的余裕があるようで、ハルさんと話し込んでいる。
 リモートで挨拶した時もそうだったが、陽気で話好きなタイプのようで、実際に会うのは初めてだからと、改めての挨拶からのテンションの高いおしゃべりが続く。
 わたしにも、プレゼンの感想から始まって、こんな可愛らしいのに大きな太鼓叩いていて格好良いなどど、一通り褒めちぎられてリアクションに困った。
 準備もあるのでと、ハルさんが上手く切り上げてくれて、わたしたちはあてがわれた控え室に陣取った。


 ミーティングにて簡単なこの後の予定が告げられ、各自準備に入るのも普段のイベントと変わらない。
 ただ、わたしにとってはこれが、演者として出演する初のイベントだ。
 スタッフとして参加させてもらった時とはやっぱり違う。大きな違いは緊張感だが、まだイベントまでは時間がある。緊張して手が震えるとか、そこまで切迫した状態に陥ってはいなかったが、なんだか妙にそわそわした気持ちだった。

「今日やる曲でも聴いてよっか?」

 祷に言われ、周りの迷惑にならない程度の音量で音楽を流した。

『Peguei Um Ita No Norte (salgueiro1993)』、『Caciqueando』、『É Hoje 』、『Tristeza』の四曲だ。

「お、予習か? 感心じゃねーか」

 バテリアリーダーのメイさんと少し打ち合わせをしていたキョウさんが、部屋から出る前に肩を叩いて行ってくれた。気持ちが軽くなった気がした。

 着替えやメイクが始まり、この控え室は男子禁制エリアとなった。
 完スタに向かって、メイクに着替えにと粛々と準備を進める女性陣。
 小学校の休み時間くらい騒がしかった控え室も、いつのまにか時折思い出したように二、三の言葉が交わされるくらいで、みんな準備に集中している。緊張感も高まっているようだ。

 バテリアはダンサーほど衣装の着用には時間はかからないが、今日はよく使うチーム揃いのTシャツではなく、チームで新たに作った深紫を基調にしたロングシャツに、アイボリーに深紫のリボンの中折れハットで統一することにしていた。もちろん、それぞれチーム名やチームのロゴ入りだ。

「着替えちゃうと、いよいよ本番って感じだねー」

 着替え終えた祷が笑いながら話しかけてきた。その笑顔に緊張の様子は感じられない。
 わたしの緊張をほぐそうとしてくれてるのだろうけど、祷にとってもデビューイベントだ。緊張してないわけはないと思うのだが、祷のように部活で大会とか出ることに慣れているひとにとってはそうでもないのだろうか?

 





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