詩片の灯影③ 〜言葉を音に乗せて〜

桜のはなびら

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不動産屋の紗杜

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「お。紗杜さとちゃん外出?」

「はい。高宮たかみや様に呼び出されましたー」

「あー、たぶん駅前の駐車場のことでしょ。高宮様は規制が外れた街道沿いの土地もお持ちだから、そっちの話も引っ張ってきてよ」

「言うだけ言ってみます! 手土産に桃持ってこー。んで、その後高橋たかはしさんに合流して同行予定です。内見の方が単身女性ですから、女性がいた方が良いって判断みたいです」

「おっけー。さとるは良い奴だし、表情にもそれにじみ出てるけど、一見すると押し出し強い顔してるからなぁ。まだ契約前で関係性も浅いなら、紗杜ちゃんいてくれた方が良いかもね」

「サト&サトルでかましてきますよー! それ終わったら、商店街回ってきて良いですか?」

「イベントの件?」

「はい。もちろん、空き店舗とのマッチングや紹介案件も探りますからねー」

「うん、期待してるよー。ってことは、今日は直帰かな?」

「はいー。メールはチェックするようにします。電話も出られるようにしてますので何かあればーー」

「まあ、今日は久美くみちゃんも裕一ゆういちもいるし、事務所はだいじょぶでしょ。ぼくもこの後は外出予定無いし。三人で回らないくらい電話や来客あるならむしろ嬉しい悲鳴だよね。行ってらっしゃい!」

「あはは、そうですねぇ。それじゃ、行ってきまーす」

 
 もともとは大手のフランチャイズ型の不動産屋で販売の仕事をしていた伊礼いれい紗杜は、数年務めた後地元の小さな不動産屋に転職をした。

 晩婚で結ばれた両親の努力と執念の結晶である紗杜は、親との年齢差がだいぶ開いていた。
 年を取ってから得た子であった紗杜は充分な愛情を受けて育ち、同等以上の愛情を親に返したいという気持ちを持った大人になった。

 父親が入院を伴う病気を患ったとき、紗杜は両親の近くでの生活を決意する。
 病気は結果としては大したことはなく、両親も「大袈裟な」と娘の決意に呆れ、人生の決断は慎重にと諭しながらも、内心の嬉しさは隠しきれてはいななかった。

 紗杜はと言えば、どうせ今務めているところも看板はメジャーだが所詮はフランチャイズオーナーの一店舗に過ぎず、地場の小さな不動産屋との大きな違いは感じられなかった。
 むしろフランチャイザーの細かいルールに縛られない、地域密着型の不動産屋の方が、紗杜が望むオーナーや入居者との人間関係を重視した仕事がしやすいのではとの思いもあり、その決断には何の後悔もなく、その後父親は天寿を全うし、母親は少し離れた施設に入所していて、この地に根を下ろすことになった理由がなくなった今も、変わらずにこの町で働き続けていた。

 紗杜にとっての地元でもあり、地域に対する愛着もあった。
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