4 / 23
ソール・エ・エストレーラ
しおりを挟む
紗杜が所属しているサークルを、『ソール・エ・エストレーラ』と言った。通称『ソルエス』と呼ばれている。
この街を拠点とする、サンバチームだ。
この街で育った紗杜が子どものころ、その親世代を中心とした旧駅の南北の商店街でそれぞれに発言力のある幾人かの発起人のもとで発足された、地域活性化も活動の旨としていたチームであった。
駅から北に伸びる『スターロード商店街』と、駅から南に伸びる『サンロード商店街』は、かつて互いに客を奪い合うような関係性だった。
旧駅が開通したばかりの頃は農地と植林、空き地ばかりだった旧駅周辺のエリアは、南北の商店街とともに発展してきた。
順調に増える宅地と人口に比例して栄えていった商店街は、それぞれがこの街の発展の立役者であるという自負を持っていて、競争にその自尊心も乗っかって、熾烈な集客合戦、値下げ合戦に転じていった。
疲弊と徒労を伴う泥沼の消耗線が延々と続きそうに思えた頃、その世代の店主たちによって不毛な争いに終止符が打たれることになった。
南北の商店街を繋ぎ、一大商圏となることで、市場を拡大し、スケールメリットでコストは圧縮し利益率を回復させた。キャンペーンなども規模を大きくすることができ、値下げではなく付加価値で集客の拡大も図れた。
中でも初秋の土日に日夜通しで開催することになった『サンスターまつり』は、以降この街を象徴する催しとなる。
サンロード商店街が仕切る昼の部のお日さまカーニバルと、スターロード商店街が仕切る夜の部のお星さまフェスティバルには、地域のサークルや団体、学校や企業のパフォーマンスチームがそのパフォーマンスを披露していた。
商店街からも、それぞれの商店会の代表者が集まり、ひとつのプロジェクトとして立ち上げたのが、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』だった。
子どもの頃は、商店街のお祭りでそのチームがパレードやショーなどを行っている様子を観ていた紗杜。
南北の商店街を象徴する旗がたなびくパレード。
心臓が握られたかのような音の圧を放つ打楽器隊。
とりわけ紗杜は羽根を身に着けた奇麗なお姉さんに魅了されたものだが、当時の紗杜よりもやや幼い子どものダンサーも居て、どこか遠くの世界の出来事のように見えていたパフォーマンスが、一気に現実的なものとして紗杜の中に入ってきた。
しかしながら、学校に塾に部活にと、忙しかった紗杜は、日常の生活に戻ってからはその感動も印象も徐々に薄れ、大学生になるころには地元のお祭りに顔を出す頻度も減っていて、存在を忘れていたわけではないが、思い出すことのないトピックとなっていた。
就職し町から少し離れ、転職して戻ってきたとき。
地場の不動産屋という職業柄もあり旧駅中心の南北の商店街にも頻繁に出入りしては、それぞれの店舗のオーナーや商店会などともかかわっていく中で、子どもの頃感銘を受けたサークルがまだ現存していたことを知り、せっかくの機会だからと入会したのだった。
以来、そろそろ入会二十年目が見えてくる在籍歴を持つ紗杜は、チーム内でもベテランの部類で、その面倒見の良さをいかんなく発揮していた。一方、幼い頃憧れた奇麗な羽根のお姉さん――いわゆるサンバダンサーで、サンバの世界では『パシスタ』と呼ばれる、羽根飾りやビキニのような衣装などを身に着け、サンバの基本ステップを習得し、表情やダンス、しぐさなどの基準を高い水準で満たした現役ダンサーとして活躍していた。
この街を拠点とする、サンバチームだ。
この街で育った紗杜が子どものころ、その親世代を中心とした旧駅の南北の商店街でそれぞれに発言力のある幾人かの発起人のもとで発足された、地域活性化も活動の旨としていたチームであった。
駅から北に伸びる『スターロード商店街』と、駅から南に伸びる『サンロード商店街』は、かつて互いに客を奪い合うような関係性だった。
旧駅が開通したばかりの頃は農地と植林、空き地ばかりだった旧駅周辺のエリアは、南北の商店街とともに発展してきた。
順調に増える宅地と人口に比例して栄えていった商店街は、それぞれがこの街の発展の立役者であるという自負を持っていて、競争にその自尊心も乗っかって、熾烈な集客合戦、値下げ合戦に転じていった。
疲弊と徒労を伴う泥沼の消耗線が延々と続きそうに思えた頃、その世代の店主たちによって不毛な争いに終止符が打たれることになった。
南北の商店街を繋ぎ、一大商圏となることで、市場を拡大し、スケールメリットでコストは圧縮し利益率を回復させた。キャンペーンなども規模を大きくすることができ、値下げではなく付加価値で集客の拡大も図れた。
中でも初秋の土日に日夜通しで開催することになった『サンスターまつり』は、以降この街を象徴する催しとなる。
サンロード商店街が仕切る昼の部のお日さまカーニバルと、スターロード商店街が仕切る夜の部のお星さまフェスティバルには、地域のサークルや団体、学校や企業のパフォーマンスチームがそのパフォーマンスを披露していた。
商店街からも、それぞれの商店会の代表者が集まり、ひとつのプロジェクトとして立ち上げたのが、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』だった。
子どもの頃は、商店街のお祭りでそのチームがパレードやショーなどを行っている様子を観ていた紗杜。
南北の商店街を象徴する旗がたなびくパレード。
心臓が握られたかのような音の圧を放つ打楽器隊。
とりわけ紗杜は羽根を身に着けた奇麗なお姉さんに魅了されたものだが、当時の紗杜よりもやや幼い子どものダンサーも居て、どこか遠くの世界の出来事のように見えていたパフォーマンスが、一気に現実的なものとして紗杜の中に入ってきた。
しかしながら、学校に塾に部活にと、忙しかった紗杜は、日常の生活に戻ってからはその感動も印象も徐々に薄れ、大学生になるころには地元のお祭りに顔を出す頻度も減っていて、存在を忘れていたわけではないが、思い出すことのないトピックとなっていた。
就職し町から少し離れ、転職して戻ってきたとき。
地場の不動産屋という職業柄もあり旧駅中心の南北の商店街にも頻繁に出入りしては、それぞれの店舗のオーナーや商店会などともかかわっていく中で、子どもの頃感銘を受けたサークルがまだ現存していたことを知り、せっかくの機会だからと入会したのだった。
以来、そろそろ入会二十年目が見えてくる在籍歴を持つ紗杜は、チーム内でもベテランの部類で、その面倒見の良さをいかんなく発揮していた。一方、幼い頃憧れた奇麗な羽根のお姉さん――いわゆるサンバダンサーで、サンバの世界では『パシスタ』と呼ばれる、羽根飾りやビキニのような衣装などを身に着け、サンバの基本ステップを習得し、表情やダンス、しぐさなどの基準を高い水準で満たした現役ダンサーとして活躍していた。
0
あなたにおすすめの小説
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる