詩片の灯影③ 〜言葉を音に乗せて〜

桜のはなびら

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ハルからの電話

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 微かにバンドバッグに入れてあるスマートフォンがなっていることに気づいた。
 バイブにしていたはずだが、出勤時スマートフォンで音楽を聴いていたため、スピーカーの設定が変わってしまったのかもしれない。
 スマートフォンを取り出し通話状態にする。


『すまない、仕事中だよな。今話せるか? すぐ終わる』

 紗杜は歩きながら電話に出た。相手は『ソルエス』の代表のハルだ。

「今移動中。駅前でキックボード乗っちゃうから、それまでなら大丈夫。短くてごめんだけど五分くらい」

『俺も次の診察前の隙をついて連絡しているからあまり話せないし。すぐ確認したいことがあってね。でもそれだけだから時間はかけさせないよ』
 ハルは四十前後の若さだが地域密着型のクリニックを経営している。前院長だった父親から継いだ格好だ。『ソルエス』も二代目の代表なので二代目づいている。

『提案してもらっているイベントに関して、俺やチーム、チームメンバーに依頼してもらっていた内容はほぼ問題ないと思ってもらって良い。確認したいのは駅前ステージの控室について。ここは少数だがダンサーを出すからな。メイク時間が確保できるか、環境があるかとも確認したいが、急ぎ確認したいのはまずは場所。動線によってはガードが欲しいが運営側で出るのか、の二点。一応チームからもスタッフを出すつもりではいるがちょっと現時点で集まりが悪くてね。必要そうなら今日の夜『Tempo de Ouro』に挨拶がてら飲みに行くから、そこで適当に調達してくる』

Tempo de Ouroテンポ ヂ オウロ』は『ソルエス』の拠点である旧駅南北の商店街の空き店舗に、数年前から入ったバーだ。
 サンバやボサノバの歌と演奏をするCDも出しているプロのミュージシャンがマスターをしている。
 善路ぜんじという本名を活かしたZENZぃぜんじぃがミュージシャンとしての彼の名だ。
『ソルエス』との関係も深く、先代代表からの付き合いで、彼がここに店舗を構えるにあたり、空き店舗の紹介も商店会の重鎮である先代代表が絡んでいる。
 更に言えば、具体的な契約ごとなどは紗杜の不動産が仲介をしていた。
 今回のイベントでも、ゲストとしての参加を打診している。
 快諾のお礼とあいさつを兼ねて、ハルは業界の先達で大物でもあるゲストのお店に直接伺うつもりなのだ。
 大抵誰かしらかのサンバ関係者が『Tempo de Ouro』に居ることが多いので、必要があればスタッフ参加の依頼をかけてくれるということだった。
 
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